日本郵便とサムライインキュベートの郵便・物流分野変革コンテスト
日本郵便と起業支援を手掛けるサムライインキュベート(東京)は2月5日、先進技術で郵便・物流分野を大きく変革する新事業創出を促すプロジェクト「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM2018」の成果を競い合うコンテスト「Demo Day」を開催した。
プロジェクトに応募した70社の中から昨年10月に将来有望として両社から支援対象に採択されたスタートアップ企業2社が参加。審査の結果、日本郵便の郵便局内でクラウドベースのシステムをプラットフォームとして使い、ロボットアームとAGV(無人搬送車)を円滑に操作して業務の自動化・省人化を図ったRapyuta Robotics(ラピュタ・ロボティクス、東京)が最優秀賞を獲得。賞金1000万円が授与された。
最優秀賞を獲得したラピュタのモーハナラージャー・ガジャン代表取締役CEO(中央)。左はサムライインキュベートの榊原健太郎代表取締役、右は日本郵便の横山邦男社長
オープンプラットフォームでロボット効率運用
プロジェクトはスタートアップ企業の協力を得て、郵便・物流分野が抱える人手不足などの課題解決を図るのが狙い。2017年度から実施しており、今年が2回目。日本郵便やサムライインキュベートなどが実用化に向けたサポートを続けてきた。
コンテストに参加したのはソフトウエア開発を手掛けるラピュタと、超高速計算が可能な量子コンピューターのソフト開発を展開しているエー・スター・クォンタム(同)。それぞれ自社の技術の優位性や目指す変革の方向性、実際の成果などを発表した。
ラピュタはモーハナラージャー・ガジャン代表取締役CEO(最高経営責任者)が登壇し、実際に郵便局でかご台車から荷物を取り降ろしたり、かご台車を作業エリアに運んだりする業務の自動化に挑んだ結果を説明。1個の荷物を取り降ろす時間を従来の12秒からロボットアームの導入で8秒まで短縮できたことなどを明らかにした。将来は作業の生産性を4倍に高められると見込む。
ガジャンCEOはラピュタが開発したクラウドベースのシステムはどのメーカーのロボットを組み合わせても効率的に運用し、業務の最適化を進めることが可能と強調。「このプラットフォームを活用することで荷物が増え続けても人を増やさずに処理できる」との見方を示した。
ロボットアームで荷物を積み降ろす
AGVがかご台車を自動搬送する
プレゼンテーションに臨むガジャン氏
一方、エー・スター・クォンタムは大浦清取締役CMO(最高マーケティング責任者)が量子コンピューターを用いて日本郵便の配送網最適化にチャレンジした経緯を紹介。天文学的な数字になる郵便物の集配ルートパターンの中から最適なものを瞬時に計算、見つけられるとアピールした。
約30の郵便局が存在する埼玉県東部エリアでシミュレーションした結果、最適ルートの考案で車両数を約8%、コストは約7%それぞれ抑えられるほか、積載率は約12%向上できると予測。コスト削減は年間2000万円規模になるとはじき出した。その上で「これまでの(日本の郵便事業)150年を生かし、これからの150年の物流を創り出していきたい」とアピールした。
量子コンピューターを活用した輸送ネットワーク最適化の説明
量子コンピューターを活用した輸送ネットワーク最適化の成果発表
成果をアピールする大浦氏
表彰式で日本郵便の横山邦男社長は「当社にとって郵便・物流事業のオペレーション改革は経営の一丁目一番地。不断にやっていかないとニーズに合わなくなってくる。徹底的にメスを入れて改革していく。これからもどんどん実験を続けてほしい。期待している」とエールを送った。
サムライインキュベートの榊原健太郎代表取締役は「人々の生活を生涯に渡って支援するとの(日本郵便の)理念に沿って、スタートアップの皆さんも取り組まれているのが非常によく分かった」と両社の実績を高く評価した。
昨年の最優秀スタートアップが「観客賞」
コンテストでは併せて、既に日本郵便と連携して新サービスの開発や業務負荷軽減に取り組んでいるスタートアップ企業4社が成果をプレゼンテーションした。
Aquifi(米カリフォルニア州)は独自に開発した携帯計測器を用いて荷物のサイズを瞬時に測り、現状のメジャーによる手作業の計測に代わって宅配業務の負荷を減らす取り組みを発表。
Yper(イーパー、東京)は専用バッグを利用して留守の場合でも自宅前で宅配の荷物を受け取ることが可能なサービスをPR。昨年の同コンテストで最優秀賞に選ばれたオプティマインド(名古屋市)はAI(人工知能)を駆使した配達ルートの最適化システムを説明。自律制御システム研究所はドローン(小型無人機)による配送業務の実証実験を発表した。
プレゼンテーションの後、来場者の投票により、オプティマインドが最も支持された「観客賞」を獲得した。
最後に日本郵便の諫山親副社長が「われわれが変革に本気で取り組んでいる一端をお見せできたのではないか」と感想を述べた。
観客賞に選ばれたオプティマインドの松下健社長(中央)
(藤原秀行)