「天才数学者・ガウスのごとく、業界を変える新たな選択肢やモデルを生み出し続けたい」
三菱商事は今年1月、物流現場向けロボットの導入を支援するサービス「Roboware(ロボウェア)」や倉庫の空きスペースと保管したい荷物をマッチングするサービス「WareX(ウェアX)」の成長持続へ新会社「Gaussy(ガウシー)」を設立。7月1日付でそれまで本体で展開してきた両サービスを新会社に移管した。同社には大手物流施設デベロッパーのプロロジスや三井不動産、三菱地所などが出資。連携して物流現場のDXを促進していくことを目指している。
両サービスの立ち上げに携わってきたGaussyの中村遼太郎社長CEO(最高経営責任者)がこのほど、ロジビズ・オンラインのインタビューに応じた。中村氏はウェアXの登録倉庫拠点数を2022年中に現状の約1.5倍の1500カ所程度まで拡大し、ロボウェアでも新機種の取り扱いを増やしていくことに強い意欲を示した。
また、社名の由来の1つとなった、ドイツの天才数学者・物理学者カール・フリードリヒ・ガウスの成し遂げた業績のように「新しい選択肢なりツールなり、モデルなりを発明していきたい」と決意を表明。もう1つの由来の、磁力を使った加速装置「ガウス加速器」を引用し「物流を手掛けているお客様と荷主の方々の双方が、今までよりも何倍も多くのことができるようになるようにしたい」と強調した。
インタビュー内容の後編を紹介する。
中村氏(Gaussyウェブサイトより引用)
倉庫シェアリングは年内に登録拠点数1.5倍目標
――ところで、社名がとても独特なのですが、どういった思いで命名されたのですか。
「当社の社名のGaussy(ガウシー)は、ドイツの天才数学者・物理学者カール・フリードリヒ・ガウスから取っているんです。彼のように新しい選択肢なりツールなり、モデルなりを生み出し続けたいという思いがあります。もう1つは、磁力を使った加速装置『ガウス加速器』も由来です。磁石を間に挟んで鉄球をレール上で一列に複数並べ、ある方向から端の鉄球に、別の鉄球をぶつけると、反対側の鉄球が磁力で加速して飛び出すことが知られています。ガウス加速器のように、われわれが選択肢をご提供することで、物流を手掛けているお客様と荷主様を含めて、今までよりも何倍も多くのことができるようになるようにしたい。ぜひこんなことができたらいいな、というお話を聞かせていただきたいですね」
――ロボットシェアリングと倉庫シェアリングのいずれも順調に伸びてきてる印象です。
「まだまだ全然苦しんでいますが(苦笑)、ちょっとずつ前には進んでいます」
――今苦労しているのはどういう点ですか。
「率直に申し上げると、人材の採用ですね。会社を作ってホームページも刷新しましたが、今50人ぐらいの従業員を何とか早い段階で100人体制に持っていきたい。職種もソフトウェアエンジニアやプロダクトのデザイナーに加えて、ロボット導入時のお客様対応も重要です。カスタマーサクセス(顧客が製品やサービスを使うことで期待している成果を挙げられるようサポートする手法)ですね。いろいろな職種の方に入っていただき、次の求められるモデルを作っていきたいと思っています」
――ロボットや倉庫のシェアリングで機会損失を生じないためにも、早く体制拡充が必要ですね。
「まさに今回、そうした目的もあって新会社化したということもありますし、人材の基盤を早く作っていきたいですね」
――倉庫シェアリングは、登録している倉庫のボリュームをさらに増やしていくことが課題でしょうか。
「そう思いますね。あと、これはもともと米国のフレックスが手掛けていたんですが、自家倉庫についても有効活用できないかと考えています。営業倉庫はいろんなお客様でスペースを埋めるという手立てが取りやすいですが、自家倉庫に関しては当然ながら自社の専用倉庫なので、他のお客様でスペースを埋めることが基本的にできない。倉庫は安全・安心に保管できることが最も大事ですが、やはり倉庫はあるのに使われていないのは非常にもったいない。そこは倉庫業法など関連法令を順守することを大前提として、何とかいい方法がないか検討していきたいと思っています」
――御社に出資している物流施設デベロッパーは御社のサービスをテナント企業へ優先的に紹介していくような感じになるんでしょうか。
「そういった協業もぜひ考えさせていただく、というような話を今しています。共同のマーケティングからテナント企業に向けての情報発信などを検討しています」
――他のデベロッパーなどからも出資を受ける可能性はありますか。
「そのことに関しては、私自身、まだお答えできる状況にはありません。まだわれわれの会社も規模が小さいですし、今出資いただいているパートナーの皆様と当社の企業価値を上げるためにまずは取り組んでいきます」
Gaussyのロゴマーク(同社提供)
将来は総合物流ソリューション企業に
――東京大学系のベンチャーキャピタル、東京大学協創プラットフォーム開発も御社に出資していますね。その狙いは?
「目的としては産学連携ということもありますが、昨年くらいから東京大学のある研究室と、サプライチェーン上のデータ分析モデルの開発に取り組んでいます。例えばどこの倉庫に在庫を置くと一番価値が高くなるかといったモデルを作り、お客様にこの倉庫にはこの商品を置いた方がいいと推奨することなどを検討しています。アパレルであればここ、食品はここといったように産業別のモデルがあると思うので、そういったところをしっかり分析、研究していくことをわれわれとしても大事にしていきたいと考えています」
――そうしたソリューションを実際に提供するようになるのでしょうか。
「将来的にはぜひそうしたいと考えています。サプライチェーン上で得られたデータを基に、さらに次に、お客様にとって価値があることは何かを考えていくようなことに昇華できればいいなと思っています」
――今のロボットや倉庫のシェアリングのサービスを通じて集まった匿名の作業データを、顧客の了解を得た上で使うこともありますか。
「そこがベースになります。輸送拠点をある場所に持つべきかどうか、といったシミュレーションを含めて推奨するところまでソリューションを持って行ければいいなと考えています」
――事業化はどれくらいかかりそうですか。
「これはデータが蓄積することが重要ですし、本当にそれを求められているのかどうかも考えないといけない。今は初期的な検討をしている段階です」
――採用に注力するのはそのへんも見据えてのこと?
「そうですね」
――事業範囲がかなり広がっていく可能性がありそうですね。
「おっしゃる通り、ぜひ広げていきたいと思っています」
――今のお話を伺っていると、10年くらいのスパンで考えれば、御社は将来、新たなことを展開されて、より総合物流ソリューション企業になっているかもしれないと感じました。
「そんな形になれるといいかなとは思いますね。まずは基盤を作ること、そしてサービスの範囲を広げていくことに専念したいですね。例えば、インターネットで倉庫スペースを探すことができる、空きスペースを登録すれば使いたい人とマッチングできる、ということはすごく、ユーザーの方々にご理解いただくのに時間がかかります。そういう意味ではサービスの競合どうこうということではなく、皆さんと一緒に物流業界を盛りたてていかないといけない」
「政府が閣議決定された現行の総合物流施策大綱でも、大変有難いことにDXや自動化、シェアリングを推進していくことに言及していただいていますが、一方で、現場の方々からすれば、ウェブで倉庫スペースと荷物をマッチングするって本当に大丈夫?と不安に感じられるのも当然だと思います。その不安をわれわれが入るころで極力解消し、デジタル上でも倉庫マッチングできる、ロボットを円滑に使えるようにしていくことが存在意義だと思っています」
――さはさりながら、競合サービスとの差別化は重要では?
「そうですね、それはそう思います。例えばフレックスも、やはり米国でも同種のサービスを手掛けている企業が4~5社あります。フレックスが倉庫シェアリングの分野をリードしているとはいっても、強力な競合のスタートアップもいます。逆に言えば、そうした状況でお互いが切磋琢磨するからこそ業界も発展していきますから、これからも差別化は検討していきます」
ウェアXのサービス画面イメージ(Gaussy提供)
――2022年中の目標はありますか。
「これまでにも申し上げていますが、ロボウェアで取り扱う機種を増やすことですね。ここは着実に広げていきたいですし、われわれのロボット事業はメーカーさんの代理というようなポジションですので、ユーザーの方々と一緒になって、優れたロボットをご提供していきたい。継続的に新機種を出していきたいですね。倉庫シェアリングに関しても、先ほどもお話した通り、まずは登録している拠点数を増やすことが重要です。有難いことに案件をいただけるようになっていますので、積極的にご紹介していきたい。登録拠点数を現状の1000から、22年中には1500近くにまで持っていきたいですね。そこが大きなポイントになります」
――倉庫シェアリングは冷凍・冷蔵倉庫も増やしていく方針ですか。
「そこも含めて検討させていただこうと思っています」
――最近、新型コロナウイルス感染拡大に伴う消毒用品の需要増などで注目されている危険物倉庫はいかがでしょうか。
「長期的に見れば絶対にやりたい分野ですね」
――事業の中長期的な目標はありますか。
「まず、向こう2~3年はロボットと倉庫のシェアリングの両事業をしっかりと広げていきたいですね。われわれの目指す将来像はGaussyのビジョンなどでも掲げさせていただいたのですが、なぜわれわれがこの事業を手掛けたいかというと、社名のところでもご説明した通り、選択肢を増やしたいと思っているんです。これは物流を使う人、物流の運営する人の双方にとって、選択肢が減る、もしくはなくなってしまうと苦しむことになります。需給のギャップのバランスも崩れてしまう。結局のところ、業務が属人化して、その人しか業務ができないとか、もしくはシステムをカスタマイズし過ぎて、このシステムでしか業務ができないといった形になった瞬間に、たとえ生産性はすごく上がったとしても、持続可能性については選択肢が増えませんから、良くない方に行ってしまう。倉庫内作業を自動化することで、どんな人でも作業ができるようになります。ロボットの良いところはハードウェアがシンプルなので使う場所の移設がとても簡単な点です。柔軟性を兼ね備えた選択肢を増やしていきたい」
「倉庫のシェアリングも同様で、倉庫スペースの提供側から見ると、これまで借りてもらうために営業コストをかけていたけれど、われわれのシェアリングサービスがいいかもしれないということで、その選択肢を利用されていますし、倉庫スペースの利用者から見ても、今まで倉庫はなかなか使えなかったけれど、簡単に使えるようになるので、ビジネスのいろいろなシーンでわれわれのサービスをお使いいただけるようになる。新しい選択肢をご提供することで、今までできなかったようなビジネスのやり方も可能になります」
――新たに展開を考えていることはありますか。
「現時点ではまだそこまで具体的にお話できることはありません。先ほども申し上げた通り、今はまず、2つの事業をしっかりと拡大し、幅広いお客様にお届けしていくことがこの2年間の目標です。その後についてはいろいろと考えたいこともあります。サービスをしっかり磨いていきます」
(藤原秀行)