荷主向け新サービスもベータ版開始、「国際物流プラットフォーマー」目指す
貿易関連業務を包括的に効率化するクラウドベースのシステム「Shippio(シッピオ)」を展開しているShippioは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な感染拡大)やロシアのウクライナ侵攻に伴い海上・航空輸送が大きく混乱するなど、国際物流領域の業務を効率化する必要性が一層高まっていることを踏まえ、事業体制の強化に乗り出した。
新たにベンチャーキャピタルや大手損害保険会社などからシリーズBラウンド(経営安定期)として約16.5億円を調達した。効率化システムの機能強化や事業領域拡大、人材採用などに充てることを計画しており、その一環として7月に初めて通関事業者を買収した。効率化システムの対象に見積もりや発注、書類作成、請求書管理などの業務のほか、通関手続きも加え、物流事業者や荷主企業などのより多様なニーズに応えていくことを狙う。
さらに、Shippioが直接オペレーションを担っていない貨物についても、効率化システム経由で現在地追跡などの管理を可能にする新サービス「Any Cargo」のベータ版の提供を荷主企業向けに始めた。2022年中に正式リリースする予定で、業務効率化のラインアップを拡充する。
Shippioの佐藤孝徳代表取締役CEO(最高経営責任者)は先行して貿易関連業務のデジタル化を手掛け、成長してユニコーン(企業価値が10億ドル=約1400億円=を上回る株式未公開のスタートアップ)となっている米国のFlexport(フレックスポート)やドイツのForto(フォート)の存在に言及し、日本でもデジタルフォワーダーの存在意義が非常に大きいと指摘。
今後も貿易量の拡大が見込まれる半面、通関業務を担う人材が高齢化していることなどからデジタル化が急がれるとの見方を示し、「貿易を革新する国際物流プラットフォーマーとして日本の物流DXに一層貢献していきたい」と強調している。
佐藤氏(Shippio提供)
輸送スケジュールの確認工数8割以上削減の例も
Shippioは2016年設立。国際物流は船会社や港湾物流事業者、荷主企業、通関事業者、金融機関など関係者が多岐にわたる一方、業務のデジタル化が遅れ、紙ベースの書類や電話、ファクスといった旧来の手段がいまだに広く現場で使われ、確認・調整に時間を要するなど非効率な部分が多く残っている点に着目。「理想の物流体験を社会に実装する」をミッションに掲げ、国際物流業務のデジタル化に着手した。
Shippioの提供するシステムを使うことで、海上・陸上輸送などを手配するフォワーディング業務をShippioが迅速に担うほか、輸送の見積もりや案件ごとの進捗管理、書類の管理、チャット機能を使った関係者間の情報共有などもクラウドベースで一括して進めることが可能。導入した企業では輸送スケジュールの確認工数が8割以上減るなど、煩雑な業務を大幅に効率化できることが評価され、今年7月の受注高は前年同期の約4倍に達した。Shippioは自らを、フォワーディング業務を本格的にデジタル化し付加価値を大きく高めた日本初の「デジタルフォワーダー」と呼称しており、既に商標登録も済ませた。
効率化システム画面で案件ごとの管理が可能(イメージ・Shippioウェブサイトより引用)
「Any Cargo」は効率化システムの機能を補強するため開発。Shippioが直接取り扱っていない貨物についても、効率化システム経由で積載している船舶の動静を自動的に追跡、現在地などを適宜把握できるのが特徴だ。効率化システム利用者が他のフォワーダーに取り扱いを依頼している貨物もまとめて管理可能にし、利便性を高めることを想定している。
佐藤氏は「これまでは当社が取り扱っている案件に絞ったデジタル化だったが、新サービスで全ての案件を一元的に可視化できる。お客様とフォワーダーの双方にメリットがある」と意義を強調している。
通関への取り組みにも注力する。M&Aしたのは1960年に設立、68年に現社名へ変更した老舗の通関事業者、協和海運(横浜市)で、危険物の取り扱いに強みを持っている点などを評価した。Shippioは同社のノウハウを生かし、円滑な通関手続きを効率化システムで可能にしていくことを目指す。将来はShippioの効率化システムを税関業務に関する「NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)」と連携させ、容易に申告できるようにすることも視野に入れているようだ。
併せて、国内外から引き続き人材を集め、組織の規模を現行の約60人から早期に100人体制へ拡大することを念頭に置いている。佐藤氏は「グローバルスタンダードに沿った組織に進化させていきたい」と成長持続に強い意欲を見せている。
(藤原秀行)