温室効果ガス排出「実質ゼロ」達成へ、企業はより踏み込んだ情報開示と行動が必要に

温室効果ガス排出「実質ゼロ」達成へ、企業はより踏み込んだ情報開示と行動が必要に

三菱総研が国際的動向を解説、金融機関にも活動期待

三菱総合研究所は10月5日、東京都内の本社で地球温暖化対策に関する最新動向のメディア意見交換会を開催した。

金融DX本部の猪瀬淳也主任研究員とサステナビリティ本部の阿由葉真司主席研究員が登壇。世界的な趨勢として、企業に対し地球温暖化対策を講じるよう求める動きの中軸が、気温上昇で企業価値にどのような影響が生じるかといった点を分析し、財務情報として開示するよう企業に求めているTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)から、より踏み込んだ活動を展開しているGFANZ(グラスゴー金融同盟)に移りつつあると指摘した。

その上で、日本企業としても、開示した内容が、2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」と整合しているかどうか、具体的にどう実現していくのかを明示する必要により強く迫られるようになると展望。ただ、日本は中小企業が多く温室効果ガス排出削減の対策も取りづらい点に言及し、政府として電力を供給する電源の構成を脱炭素化するよう促進することや、中小企業も脱炭素に取り組めるよう産業戦略を再考していくことなどを提案した。

資金を供給する金融機関の役割は大きい

TCFDは主要国の金融当局が参加する国際組織「金融安定理事会(FSB)」が設立。2017年に、企業が気候変動の影響をどう受けるかを自主的に開示するよう促す報告書を公表した。既に世界で1500以上の企業や金融機関、公的機関などが提言に賛同し、実際に行動する方針を表明している。

GFANZはTCFDとほぼ同じメンバーが21年に創設。45カ国の500以上の金融機関が名を連ねているアライアンス(有志連合)で、TCFDからさらに踏み込み、2050年までに温室効果ガス排出を実質的にゼロとする「ネットゼロ」を達成するための移行計画の作成手法などをまとめた「フレームワーク」を開示。投融資先に採用をアドバイスしている。

猪瀬、阿由葉の両氏はTCFDへの賛同は日本でも大幅に進展している一方、「今後は開示した内容がパリ協定の目標と整合しているかを含め、具体的にどう実現していくかの整理とそのモニタリングが求められる」と分析。日本でもGFANZの活動への対応が必要になってくるとの見解を示した。

一方、日本でもメガバンクを中心に、投融資先に脱炭素化を提案する動きが広がっていることに触れたが、メガバンクと地方銀行の間で取り組みの度合いに差が開いていると指摘。「地銀は投融資先に中小・零細企業が多く、脱炭素化の難易度が高い」と解説した。また、脱炭素のハードルが高い化学や石油、窯業といった産業が多い地域は今後、成長が阻害される恐れがあると警告。こうした産業への対策を加速させる意味でも、資金を供給する金融機関の役割が大きいとの見方を明らかにした。

問題解決に向け、産業界に対し、DXを積極的に進めて温室効果ガス排出の削減を図ることなどを要望。金融機関にもサプライチェーン全体で脱炭素を推し進めていくため、中小企業の意識向上などをバックアップすべきとの見方を示した。同時に、産業の基盤から脱炭素を加速させるため、政府に対し、電源構成自体の脱炭素化を目指して抜本的な課題解決を図るよう訴えた。

また、脱炭素に関する産業・地域間格差を広げないよう、インセンティブを促す補助金の活用など政策のパッケージが重要と分析。「本質的には日本が何で稼いでいくかという産業戦略の再考を進めていくことが必須」と呼び掛けた。

(藤原秀行)

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