【独自】「レベル4」解禁、ドローン物流普及へ機器やオペレーションの標準化を提唱

【独自】「レベル4」解禁、ドローン物流普及へ機器やオペレーションの標準化を提唱

JUIDA・鈴木理事長、会員の事業者向けサポート拡充に意欲

ドローンが有人地帯の上空を補助者なしで目視外の遠距離まで飛行する「レベル4」が12月5日、解禁された。制度上は条件を満たせば人が多く行き交う住宅地やオフィス街の上空でドローンを使った荷物配送が可能となった。

政府や産業界はドローン利用を「空の産業革命」と位置付け、農業や建物・インフラ設備の点検、測量、写真・動画撮影など多様な用途での活用を進めている。レベル4解禁により、遠距離を飛ぶことや重い荷物を取り扱うことなどから実用化のハードルが高い物流でもドローンの活用が進むことが期待され、まさに日本のドローン活用史上、大きな一歩となる。

ドローンの産業利用促進に取り組んできた日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の鈴木真二理事長(東京大学名誉教授)は、レベル4に即した物流などのドローンサービス早期実現に向け、JUIDAとしても新たに創設された国家資格の操縦ライセンスの取得促進などに努める姿勢を強調。ドローン物流を普及させるため、機器やオペレーションを標準化して省力化・省人化できるようにしていく必要性を指摘した。

また、JUIDAの会員となっている事業者らがドローンをより活用できるよう、運航管理などの面でサポートを拡充していくことに意欲を見せた。鈴木理事長のこれまでの取材内容を紹介する。


鈴木理事長(2019年撮影)

地方からドローン利用がさらに広がっていく

――JUIDAは2014年の設立以来、ドローンの産業利用の環境整備に尽力されてきました。これまでの活動を振り返って、どのようにお感じでしょうか。
「すごく手ごたえを感じています。会員数は2万3000を超え、JUIIDAの認定スクールも全国で300余りに上ります。加速度的に、急速にドローンを使える人たちが増えてきている。確実に、ドローン利用が底上げできていると認識しています」

――認定スクールは海外でも事例があるのでしょうか。
「世界でも同様のドローンスクールの設置が広がっていますが、海外の方は、日本はスクールの数がこんなに多いのかと皆さん驚かれますね」

――ドローンに関しては、人口減少に悩む市町村で物流や農業、測量などに活用しようという動きが先に広がってきているように感じます。
「ドローン利用のエコシステムに関しては、まず自治体が使って住民サービスや災害対応などを確実に進めるところから始まると思っています。物流に関しても、最後の個別配送の部分をドローンが手掛ける取り組みがいくつかの自治体で既にスタートしています。そこが最初のきっかけになるのではないでしょうか」

「例えば、山梨県の三郷町は、町がドローンスクールを開講し、町内外の方にドローン操縦の技能を習得できる講座を提供しています。町外の方に加え、町民の方もドローンを実際に使えるようになってもらいたいという狙いがあります。ドローンが新たな産業として根付けば、若い人が町に残っていただくこともあり得ますし、外部から人が町に移ってこられることも期待できるでしょう。そういう意味では、ドローンが非常に、地域性にマッチしていると感じます」

「自治体間で横の連携が取れる体制づくりも重要だと思います。その1つとして、JUIDAがコングレさんと共同で毎年開催している、ドローンの国際展示会『JapanDrone(ジャパンドローン)』をご活用いただいています。昨年は都道府県のレベルで物流などにドローンを活用しようと取り組まれているご担当の方々にご参加いただき、フォーラムを開催しました。今年は第2弾として、さらにより身近な市町村レベルでドローンを物流などに生かそうとされているご担当の方々に登壇いただきました。地方でこそ、リモートで医療など様々なことを実現しようとする動きが新型コロナウイルス禍の前から始まっていたので、ドローンも地方が必要とするところから広がっていくのは間違いないと思います」


6月に開催した今年の「JapanDrone」会場の様子。187の企業・団体が出展し、3日間で約1万7000人が来場した

――JUIDAの認定スクールもさらに増え続けそうですね。ドローンの利用促進を図る上で重要な存在となりそうですが、どのようにサポートしていきますか。
「希望される認定スクールには、国の操縦ライセンスの試験を担う無人航空機操縦士試験機関(指定試験機関)になれるようサポートしています。新たにスクールを作りたいですとか、既にスクールを運営されていてJUDIA認定スクールになりたいと希望されている方もたくさん相談に来られます。われわれとしても、ドローンの産業利用を担える人材を増やしていきたいと考えています」

「社会実装の話でも、まずはちゃんとドローンを飛ばせる人が増えていかないといけません。現状は東京から地方に技術者が行ってドローンを飛ばすことが多いですが、今後は現地で飛ばせる人がどんどん増えていかないと本当に社会実装は進んでいきません。一般の方々だけでなく、消防や警察の方々もドローン使えるように取り組まれているので、そういうところもサポートしていきたいですね」

――レベル4解禁に併せて、国家資格として操縦ライセンス制度が立ち上げられました。JUIDAの認定スクールでも民間のライセンスを出しています。今後、民間のライセンスはどのように扱っていくのでしょうか。
「自動車免許はそれ自体がないと車の運転ができませんが、ドローンの操縦ライセンスは業務用で難易度の高い、本格的な使い方になってくると必要になるものです。それ以外はこれまでと同じく、民間のライセンスで安全にドローンを活用していただく。民間のライセンスの役割と国の役割が補完し合いながら共存できるような形に持っていきたい。そのためにもJUIDA認定スクールのライセンスは価値があるということを訴えていきたいです」

――物流へのドローン導入という意味では、昨年12月に国際ドローン物流コンソーシアム「Drone Logistics Ecosystem(ドローン・ロジスティクス・エコシステム、DLE)」と協力覚書に署名されました。ドローン物流の市場を拡大していく上で非常に大きな出来事だと感じます。
「国際的な制度のハーモナイズが今後重要になってくるとの観点から、DLEと協力していくことを決めました。現状は各国が独自に制度設計を進めていますが、やはり海外のドローン物流に参加したり、国を超えて物流事業を展開したりする動きが出てくると予想されますので、制度の国際的な標準化が重要になります。特に物流については国際的な団体と連携を取ることによって、実用化がより進んでいくことに期待したいですね」

――国をまたいだドローン物流が広がる可能性はありますか。
「日本は四方を海に囲まれていますから難しいかもしれません。しかし、EU(欧州連合)はほぼ自由に国を行き来できますから、ドローンの国際物流は拡大が見込まれます。既に欧州航空安全機構(EASA)はドローン物流に関してEU内で統一的なルールを制定しようと動いています」

大量輸送可能な大型ドローン出現に期待

――ドローン物流はサービスの採算を確保する上で安全性を確保しつつオペレーションを省人化し、コストを抑制することが非常に重要になってきます。その一環として、ドローン物流に要する輸送用機器などの標準化が必要と思われますが、どのようにお考えでしょうか。
「日本は大きなコンテナのサイズはある程度決まっていますが、ラストワンマイルの小口配送に関しては各社が同じパッケージ(包装)などでやっているわけではなく、それぞれの企業が独自に基準を決めてサービスを提供しています。各社は競争関係にはありますが、物流サービス維持が難しくなってきている過疎地で果たして物流事業者が競争している場合だろうかというご意見もありますので、ドローン物流に関しても、輸送用機器などの標準化は一緒にやった方がいいのではないでしょうか」

「オペレーションに関しても、輸送量が少ないところでは混載して、一緒になって持っていき、配るところは各自でやるのがいいのか、もっと他に良いやり方があるのか、連携の在り方を事業者の方で話し合うようなことが求められると思います。ドローンの離発着ポートを統一したり、パッケージをドローンに搭載する際の機器をどのドローンにも取り付けられるようにしたりといった標準化がこれから求められると思います」


千葉県勝浦市で今年2月、セイノーホールディングスやエアロネクスト、住友商事が行ったドローン物流の実証実験の様子。近隣の住民らも関心を持って見守った

――他に、ドローン物流の実用化を加速する上でどういった点が課題でしょうか。
「ドローンはどうしてもまだ最大の積載量が10kg程度なので、大量の荷物を運ぶ場合は何回にも分ける必要が出てきます。積載量を増やした大型ドローンで一気に運ぶという方向性もあるでしょう。海外は離陸重量を600kgまで認めているところもあります。日本でもそれこそ、軽トラックで運ぶのに近いくらいの重量のあるものを扱えるようになれば、物流という意味でさらに道が開けていくのではないでしょうか。川や海の上といったように、人がいない場所をドローン物流のルートとして確保できれば大型ドローンも1つの解決策になると思います。災害時のような緊急事態に大型ドローンを使うことも想定できます」

――「レベル4」に即した実際のサービスが始まるにはもう少し時間が掛かりそうですね。
「制度上はレベル4が解禁されましたが、都市部でドローンが目視外飛行するのは技術面でまだまだ難しい。まずは地方から社会実装が本格化していくタイミングでしょう。ただ、レベル4解禁がドローン利用拡大の契機になることは間違いないと思います。消防や警察でもドローンを災害救助などに使おうと取り組まれています。政府は今までは建築物やインフラ設備で人の手による点検を必須としていたものを、ドローンなど機械で点検ができる形に法令を変えてきています。そうした面からも、どんどん利用が広がっていくと思います」

――ドローン物流が本格的に始まるに当たっては、事業者免許をどのような形にするのかの議論も必要だと思います。
「例えば事業免許は許可制にするのか届け出制にするのか、といったように、いかに安全にサービスを提供できる仕組みを作っていくかを考えないといけません。どういう形が望ましいのか、新たに議論していく必要があるでしょう。事業者に対する監査をどのように行うか、機体の整備をどのようにするかなども重要なポイントです」

――トラックや航空機、船舶による物流のように、ドローンも国が強く関与すべきでしょうか。
「そこはこれからの議論ではありますが、リスクの大きさに応じて、だと思いますね。事故などのリスクが高いところは厳密な管理が不可欠ですし、それほど大きな事故が起きないだろうという部分は事業者の裁量に任せることもあり得るでしょう。国が責任を持って監査すべきとの意見もありますが、国自身も新たにドローン物流の監査に割けるだけの潤沢な(人員などの)リソースを持っているわけではないので、第三者認証機関が物流事業者への監査を担うのも1つの選択肢になるかもしれません」

――JUIDAとしても、2023年以降、さらに「レベル4」実現のための環境整備がいろいろと求められそうです。
「ドローンを飛ばした時の操縦記録を残したり、機体を適切に管理したりといったことが必要になりますから、JUIDAとしても会員向けにそうした管理の面でサポートを拡充していきたいと考えています。また、先ほどお話した認定スクールは各地に分布していますので、あらためてきちんとスクール間やJUIDAとスクール間で連携を取っていけるよう、地域ごとに連絡会のような組織を立ち上げていきます」

「既にお子さん向けにドローンを使ったプログラミング教育が広がっていますので、ドローンの操縦をマスターしたいシニアの方々向けの講座も考えられます。民間の新たなライセンスとしてJUIDA認定スクールで取り扱っているプラント点検や森林の測量に加え、建物の外壁点検にドローンを使うといったような、特殊な技能も教えられる場が増えていけばいいなと思っています」

(藤原秀行)

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