オートストアの自動倉庫システムも活用
ユメノソラホールディングス傘下で同人誌などの委託流通事業を手掛ける虎の穴の鮎澤慎二郎社長は4月17日、千葉県八千代市で昨年11月に稼働を開始した新たな物流拠点「とらのあな物流センター(TLC)」内で記者会見し、今後事業で目指す方向性などを説明した。
鮎澤社長は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で実店舗から通販に軸足を移した結果、事業の伸びを継続できていると解説。通販の成長を支えるため物流の自動化・効率化を進めることを大きなテーマに掲げており、TLCは実現する上で不可欠な存在との見方を示した。
TLCにノルウェーのAutoStore(オートストア)製自動倉庫システム「AutoStore(オートストア)」を導入した効果として、従来はスタッフや商品によってどうしてもばらつきがあったピッキングのスピードを一定に揃えられるようになったことなどを列挙。これまで培ってきた、様々な形状やサイズをしている同人誌など「究極の多品種少量」の出荷を20年にわたって続けてきた経験と、保管や出荷を効率化できるオートストアを組み合わせ、EC事業者の商品保管・出荷を担う3PL事業を今夏以降、本格化させていくことに強い意欲を見せた。
取材に応じる鮎澤社長(右)。左はAutoStoreの日本法人AutoStore System(オートストアシステム)の安高真之マネージングディレクター(社長)
通販の成長持続を物流が支える
鮎澤社長は会見で、創業以来の事業展開と物流の基盤強化の取り組み状況を時系列で振り返った。同人誌などを扱う「とらのあな」はもともと店舗販売からスタート。個人のクリエイター(作家)が制作した同人誌などを虎の穴が預かって販売している。多彩な品ぞろえなどが好評を博し、最盛期には25カ所まで店舗を増やした。同時に、利便性向上のため、2000年ごろから通信販売にも参入。オフラインとオンライン双方で収益を伸ばした。
鮎澤社長は「ありがたいことに、ちょうど最初の店舗を置いた秋葉原が電気街からアニメ、ゲームの“オタク”の街へ変貌していくタイミングで、われわれも産声を上げ、お客様もどんどん付いてきてくださった」と振り返った。通販参入については「創業者の吉田(博高ユメノソラHD代表取締役CEO=最高経営責任者)が、店舗数がそんなにない時代から全国のお客様に物を届けたいとの思いから始めた」と語った。通販は受注するファクスの回線がパンクするほど人気を集めたという。
最初は秋葉原の事務所内に商品を置いて対応していたが、流通量増加を受け、物流の体制を強化する必要性を感じ、徐々に物流倉庫を拡大。最初は2000年に、東京・田原町で150~200坪程度のビルを1棟借りして倉庫機能を持たせた。続いて亀戸に移転し、2008年には千葉県市川市で虎の穴としては過去最大の4500坪の倉庫を賃借した。最終的には物量の増加を受けて5500坪程度まで広げたという。
コロナ禍で店舗は運営そのものが難しい状況に突入し、クリエイターが制作した商品を発表したり販売したりするイベントも開催できなくなってしまった。ただ、虎の穴は幸い、オンラインの通販が伸びていたことから、採算の厳しい店舗を閉鎖し、通販へのデジタルシフトを敢行。同時に、ユーザーとのコンタクトポイントを維持するため、書店の一角を借りて商品を取り扱う「同人インショップ とらのあな出張所」に注力するとともに、会費を払ってクリエイターの作品を楽しむサブスクリプション(定額課金)サービス「Fantia(ファンティア)」も始めるなど、生き残りへさまざまな取り組みを継続している。
そうした時期に、ちょうど市川の倉庫が賃貸借契約の満了を迎えるタイミングにあったため、移転先として複数の候補を検討した中から、現在の千葉県八千代市の物流施設「プロロジスパーク八千代1」を選択した。
鮎澤社長は、移転に際して重視するポイントとして「作業の生産性向上」「保管面積縮小」「24時間稼働」の3点を列挙。1点目については、虎の穴が取り扱っているのは自社で製造した商品ではなく、クリエイターから預かっているため、虎の穴が売値を主体的に決める立場にない。そのため、収益を確保するには業務の生産性を高める必要があると鮎澤社長は指摘する。
2点目は、市川の倉庫は複数のフロアに分かれて保管していたが、フロア間の縦移動が不可欠でどうしても時間を要していた。そこでワンフロアでオペレーションできるだけの広さを持つ拠点を検討しており、プロロジスパーク八千代1がそうしたニーズに合致していたという。また、オートストアの採用で保管効率を高められたため、市川よりも小さな賃借面積でオペレーションを継続できるようになったこともプラス面と鮎澤社長は語る。
3点目は通販に軸足を移したことで、より出荷スピードを上げることなどを狙い、オートストアを活用して夜間作業にも対応できるようにしたいとの思惑があるという。
鮎澤社長は昨年11月の稼働以降、オートストアの活用で作業スタッフの熟練度合いに左右されず、安定して出荷できるようになったと指摘する。商品の在庫ごとに売り上げなどをチェックし、どの商品を優先的に取り扱うべきかなどを考察、管理を効率化する手法「ABC分析」を実施した上で、入荷してもすぐに売れて出荷していく人気商品はあえて旧来通り、ラックなどを活用して保管、作業スタッフがすぐにピッキングして出荷できるようにしている。
オートストアには全ての商品を預け入れるのではなく、トップクラスではないもののある程度の出荷頻度が見込める商品に絞り込んで保管することで、作業の効率アップにつなげている。鮎澤社長は「今後は10年くらいのスパンで事業拡大を考えており、物流も磨きをかけていきたい」と力を込めた。
(藤原秀行)