JLLレポート、資金調達環境は良好と分析
JLL(ジョーンズ ラング ラサール)は7月18日、金利上昇による日本の不動産市場への影響や投資需要を分析したレポート「活況が続く日本の不動産投資市場」を公表した。
日本は物価、賃金、消費動向を注視した慎重な金利の引き上げにより、引き続き良好な資金調達環境が続くと予測。東京都心のオフィスビルや物流施設の投資機会、年金基金やインフラ企業などによる不動産投資需要が拡大し、今後も活発な不動産投資が継続すると展望している。
リポートによると、2024年第1四半期の世界の不動産投資額は前年同期比6%減の1353億ドル(約20兆3000億円)となる一方、日本の不動産投資額は45%増の1兆7046億円と大幅に増加。都市別で見ると、東京は世界1位の不動産投資が行われた都市になったという。
日銀は物価や賃金、個人消費の動向を見て慎重に利上げをしていく方針で、将来も急激な金利の変化は起こらないと指摘。資金繰りや金融機関の貸し出し態度にも大きな変化はなく、金利上昇による資金調達環境の悪化は限定的とみられると分析している。
不動産投資市場は長期にわたり、買いニーズに比べて投資機会に乏しいマーケットが続いてきたが、2023年3月に東京証券取引所が全上場企業を対象に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したことや、全国的に相次ぐ再開発を背景に、不動産会社や事業会社による投資資金の確保を目的とした保有不動産や完成した再開発ビルの売却が続くとみられること、事業会社による設備投資の資金確保を目的とした保有不動産や、賃貸不動産、遊休資産の売却ならびにセールスアンドリースバックが出てくると想定されることなどを理由に、企業による不動産売却が増加すると予想していえる。
また、年金基金はリスク分散や運用利回り向上を目的に不動産を含むオルタナティブ資産(上場株式、債券以外の運用資産)への投資を拡大してきたが、いまだ運用資産全体に対する設定上限(オルタナティブ資産全体で5%と設定されることが多い)の半分にも満たない水準にとどまっており、さらなる拡大余地が見込まれると指摘。
インフラ企業は、本業との相乗効果や保有不動産の有効活用を背景に、2010年後半から不動産への投資を拡大してきており、近年は傘下の資産運用会社による運用資産も拡大傾向にあり、将来的な私募リート設立を検討するインフラ企業もあることから、インフラ企業や傘下の私募リートによる不動産投資需要はさらに高まっていくとみている。
一方、 2020年をピークに海外投資家による取得額は減少傾向にあるものの、売却額は増加している点に言及。欧米の投資家を中心に不動産ポートフォリオの見直しが続いていることや、高いリターンを要求するバリューアッドやオポチュニスティックに適した投資先が不足していることを要因として挙げている。その上で、「今後は賃料上昇や事業会社による不動産売却が期待できる上、テナント入れ替えやリノベーションによる賃料上昇を通じて高いリターンを見込める投資機会が増加すると予想されることから、海外投資家による不動産取得が再び増加する」との見通しを示している。
JLL日本リサーチ事業部の谷口学シニアディレクターは「金利上昇が懸念されていますが、物価上昇や賃金上昇を前提とした慎重な利上げであれば、不動産市場に与える影響は限定的と考えられます。国内投資家の不動産投資需要は非常に底堅く、投資機会の増加によって不動産投資市場は一段と活況を呈すると予想されます。海外投資家にとっても欧米と異なる動きをしている日本の不動産に対する関心は高く、物件取得が本格化する日は近いと思われます」との見方を開示している。
(藤原秀行)
https://www.joneslanglasalle.co.jp/ja/trends-and-insights/research/jll-japan-investment-trends-202407