UBS証券 物流機器ユーザー グローバル意識調査~マーケットは価格から質の争いに

UBS証券 物流機器ユーザー グローバル意識調査~マーケットは価格から質の争いに

19年の物流機器投資成長率は8.5%と約4ポイント上昇

UBS証券のマーケットリサーチ部門「UBS Evidence Lab」はこのほど、欧米と日本を含むアジアの各市場における主要な物流機器ユーザーを対象としたヒアリング調査結果を公表した。

同調査は2017年から年に1度行っており今年が3回目。3~4月にかけて物流センターの設備投資で意思決定を行う担当者、チームメンバー合計130人を対象に物流機器の投資計画と背景、今後の展望などを尋ねた。

今回は日本を含むアジアのサンプル数を前回から大きく増やし、経済成長が著しいアジアの潜在需要や人手不足の問題に直面する日本の動向がより色濃く反映されたのが特徴としている。

地域別の回答ユーザーは欧米が前回とほぼ同等で、日本・アジアが最も高いウエートを占めた(図表1)。業種別では引き続きeコマースと製造業が約25%でトップ、次いで物流・運送(20%)、小売り(10%強)、卸(5%強)などとなっている(図表2)。



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物流機器投資の今後1年間と向こう3年間の成長率見通しでは、前者が約8.5%と前回の5%弱から大きく上昇したのが際立つほか後者も4%台に伸びている。同社では「成長率見通しは軒並み上昇しており、顧客の物流投資に対する姿勢がさらに積極的になっている。この傾向は今後1年間で特に見られた」と分析(図表3)。加えて前回では大きな乖離が見られなかった地域別も今後1年間で米国12%弱、欧州10%弱、日本・アジア5%程度と米国の伸びが著しい(図表4)。



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また業種別に見ると前回ではマイナスだった卸が16%超と飛躍的に改善・上昇したほか、同じくほとんど動きが見られなかった小売りも4%超と大幅なプラスに転じた。これについて同社では「卸、小売りは昨年調査で設備投資が増加しない見通しだったため、その反動影響が含まれる可能性は留意したい」と慎重な見方を示している(図表5)。


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米中問題などマクロ要因で投資判断に二極化の可能性

物流機器投資を実施・増加する理由では人手不足対策、物流機器の使い安さを挙げるユーザーが増加した一方、前回で60%と最も高かった処理能力は50%を割り込んだ。背景には米中貿易摩擦問題など足元の景況感は先行きに不透明感が増していることから、消費マインドが低下している影響を映し出している可能性があると指摘。

その上で同社は「こうした状況だからこそ、ユーザーは機能性や効率性を十分に吟味してハイエンドシステムを導入する事例があるかもしれない」とユーザーそれぞれの景況感によって投資計画はポジティブ、ネガティブに二極化することを示唆した(図表6)。


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前回から行っている物流機器投資の案件・計画動向では引き続きキャンセルないし遅延が確認されたものの、その比率は25%程度と前回の30%程度から低下している(図表7)。背景として前回は物流機器サプライヤーの提案内容や投資に対するリターン、資金面を懸念する回答が30%超と比較的高かったが、今回は需要環境の不透明感や米中貿易摩擦問題、英国のEU離脱問題といったマクロ要因が増加した点を注視する(図表8)。



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キャンセル・遅延された投資案件の再開見込みは前回と比べて低下した。不透明なマクロ環境を踏まえユーザーの先行きを見極めたい意向が反映されたとする一方、サプライヤーは投資案件の実施可能性を含めて厳密にリスク管理を行っていると言及。同社では「内容の見直しを目的に中断された案件で自動化レベルが引き上げられる事例は多い。案件の遅延は必ずしもマイナス要素となるわけではなく、引き続き遅れはあるがネガティブ視せず」と解釈に含みを持たせた(図表9~10)。



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豊田自動織機がM&Aで首位も実質的には独デマティックがリード

サプライヤーのシェアをまとめてみたところ、今回新たに豊田自動織機が30%で首位となり独デマティックがリードする勢力図に調査上では変化があった。2位は前回~前々回とトップだったデマティック(30%弱)、3位には同じく独シェーファー(25%強)が付け、米ハネウェル・インテリグレーテッドが25%で4位、独スイスログが20%で5位、ダイフクも10%台前半と前回の5%からシェアを拡大している(図表11)。


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しかしユーザーが考えるサプライヤーの知名度・ブランド力ではデマティックが30%超と突出している半面、それ以外はいずれも5~15%台にとどまった。シェアでは首位となった豊田自動織機は17年に蘭ファンダーランデ、米バスティアンの有力サプライヤー2社をM&Aで取り込んだことによる持ち分効果が大きいと推察。実質的にはデマティックが市場で圧倒的な存在感を発揮していることに変わりはないとみている(図表12)。


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業種別に見た使用ブランドでもデマティックがeコマースも含めて25~30%超と市場シェアにほぼ連動した格好だが、シェーファー25%超、ハネウェル・インテリグレーテッド25%弱と徐々にだが拮抗しつつある側面もうかがえる(図表13)。


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地域別では米国がデマティック45%とハネウェル・インテリグレーテッド40%で二分、欧州はシェーファーが40%強で独走状態、日本・アジアはハネウェル・インテリグレーテッドが30%弱で首位を維持も前回調査(40%弱)からは大きく数字を下げている。2位のデマティックは20%強と若干ながら日本・アジアでシェアを広げたもようだ(図表14)。


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ただ各サプライヤーの日本・アジア向けシェアは10~20%台と欧米に比べてウエート自体が低く、マーケットは足元よりも今後の成長性と潜在需要に期待する向きが強い。その中で日本勢としてダイフクの動向に注目している。同社は「アジアはダイフクの日本シェアが高いことから、(10%超にとどまった)ユーザー使用比率がやや低く過ぎる印象も受ける。このあたりは今後精査していきたい」とした。

このように世界の物流機器マーケットはデマティックを中心とする欧米勢の強さが際立つ情勢にあるが、ユーザーの30%がソリューション内容や納期を重点評価項目にサプライヤーを変更する可能性も示した。

これまで主流だった価格面や過去の納入実績はやや低下。同社ではこうした点について「物流機器市場の価格競争が緩和しているとは思わないが、ユーザーは製品に質を求める姿勢が今まで以上に強まっている可能性がある」と潮流変化を予測する。それ故にダイフクなどに今後シェアを引き上げる余地があるとまとめている(図表15~16)。



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関連記事:「物流機器ユーザーのニーズ・評価はよりシビアになっている」UBS証券 株式調査アナリスト 水野晃ディレクター

(鳥羽俊一)

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