【独自連載】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

【独自連載】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

第36回:日中関係は出口の見えない1年に

国際政治学に詳しく地政学リスクの動向を細かくウォッチしているジャーナリストのビニシウス氏に、「今そこにある危機」を読み解いていただくロジビズ・オンラインの独自連載。36回目は高市早苗首相の発言を契機に、一気に冷え込んだ日中関係を展望します。ぜひご一読を!

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プロフィール
ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。

経済的な相互依存が「紛争の抑止力」から「リスク」に変質

2026年を迎えた今、日本と中国の関係は、かつてないほどの緊張感と不透明感に包まれている。高市早苗政権の発足以降、安全保障を最優先課題に掲げる日本の姿勢に対し、中国側は警戒と不信をあらわにしてきた。結論から言えば、高市政権が続く限り、2026年末まで日中関係の劇的な改善や「雪解け」を期待するのは困難と言えよう。両国経済の相互依存関係にもかかわらず、政治の冷え込みが実体経済を侵食し続ける、出口の見えない1年となることが予想される。



現在の日中関係の停滞は、単なる一時的な外交摩擦ではない。高市首相が掲げる経済安全保障の強化と、防衛力の抜本的な拡充は、中国にとって自国の核心的利益を脅かす動きと映っている。特に台湾海峡をめぐる高市首相の毅然とした発言や、靖国神社参拝といった歴史認識に絡む行動の予兆は、中国側の反発を構造的なものに変質させた。

たとえ高市政権が対中感情をこれ以上刺激しないよう、一定の「抑制的姿勢」を維持したとしても、事態は容易には好転しない。なぜなら、現在の日本の外交軸は、日米同盟の深化という不可逆的な流れの中にあるからだ。日本が米国と歩調を合わせ、先端技術の輸出規制やサプライチェーンのデリバリング(脱中国依存)を加速させればさせるほど、中国は日本を「米国の対中包囲網の最前線」と見なし、不満を募らせる。この構造下では、日本がどれほど対話の門戸を開いていると主張しても、中国側の「ゼロ回答」が続くという悪循環に陥る。

日中経済の現状を見渡しても、明るい兆しは見当たらない。かつては「政冷経熱」と呼ばれ、政治対立があっても経済交流は活発という時代があった。しかし、26年の現状は、経済そのものが安全保障の武器と化す「政冷経冷」の状態に近い。中国の国内経済が不動産不況や消費低迷という深刻な課題を抱える中で、日本企業は対中投資に対して極めて慎重な姿勢を崩していない。

高市政権によるサプライチェーンの自国回帰や多角化の推進は、日本企業の中国離れをさらに後押ししている。中国側もまた、日本の半導体製造装置などの輸出規制に対抗し、重要鉱物の輸出管理などで応酬している。こうした経済的報復の応酬は、相互の不信感をさらに増幅させ、民間レベルでのビジネスチャンスを奪い去っている。経済的な相互依存がかつては「紛争の抑止力」として機能していたが、今やその依存こそが「リスク」とみなされるに至った。

高市政権の最大の目標は、日米同盟のさらなる緊密化にある。しかし、皮肉なことに、これこそが日中関係の冷え込みを決定付ける要因となっている。米国が中国を唯一の戦略的競争相手と定義し、日本がその戦略を支えるかけがえのないパートナーとして存在感を高めるほど、中国の側の不満は強まる。

ここまでの事情を考慮すると、冒頭にも伝えた通り、26年に日中関係が好転する劇的なシナリオは描きにくい。高市政権が国内保守層の支持を背景に強気な姿勢を維持し、中国側も習近平指導部の下で一切の妥協を許さない構えを貫く中、両国関係は難しい状況にある。日本企業としては、以上のような地政学的状況にあることを把握した上で、自社の経営戦略を考えていく必要があろう。



(了)

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