第38回:イラン攻撃は中国に誤ったシグナルを送りかねない
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。
暴力を正当化する土壌を作り出しているのか
3月1日、中東情勢は決定的な転換点を迎えた。イラン国営メディアは、同国の最高指導者アリ・ハメネイ師が、米国とイスラエルによる共同軍事作戦によって殺害されたと伝えた。これは、単なる一国の指導者の死を意味するものではない。トランプ米政権が推し進める「力による支配」の姿勢があらためて鮮明になっただけでなく、既存の国際秩序を弱体化させかねない危険なシグナルである。
既に周知の通り、トランプ大統領による力の行使は、今回のケースにとどまらない。昨年、イランの核施設に対する空爆を実施したのに続き、今年はじめにはベネズエラへの軍事介入を行い、当時のマドゥロ大統領を電撃的に拘束した。これらの行動は、国際法や主権尊重の原則を無視し、自国の国益を最優先するために軍事力を行使する姿勢を明確に表している。
かつて国際社会の調停役を果たそうとした米国の姿はそこにはない。代わりに存在するのは、強大な軍事力を背景に、自らに敵対する勢力を物理的に排除する、極めて直接的で暴力的なアプローチである。
こうしたトランプ政権の動きは、力を持つ国が力を持たない国へ暴力を振るうという構図を世界中で正当化する土壌を作り出しているように映る。その最も顕著な例が、ロシアによるウクライナ侵攻である。侵攻開始から4年が経過した現在も、戦闘の終結は見通せず、ロシアは国際的な孤立を回避しつつ、軍事的な圧力を加え続けている。トランプ政権が中東や南米で行っている力の行使は、結果としてロシアのウクライナにおける行動を追認し、国際社会における法の支配を形骸化する効果をもたらしている。国際政治の場において、正義や原則ではなく、ただ力の大きさが基準となる時代に逆行していると言える。
そして、日本のビジネス環境を考慮すれば、この状況において最も懸念すべきは、このような力による支配が横行する現状が、中国に対して誤ったシグナルを与えかねないという点である。中国は台湾を自国の領土の一部と見なし、必要とあれば軍事力を用いて統一を実現する姿勢を崩していない。米国が他国の主権を無視して軍事介入を繰り返す姿は、中国の指導部に対し、「国際社会の批判などは一時的なものにすぎず、軍事力さえあれば目的は達成できる」という認識を植え付けるかもしれない。
日本国内でも台湾有事が懸念される中、トランプ政権による力の行使の連鎖は、かえって中国の強硬な行動を誘発する引き金となりかねない。中国にとって台湾は国際問題ではなく、あくまでも内政問題だ。トランプ政権による力の行使を、中国は今後どう捉えていくかが今後の台湾情勢の行方を大きく左右するだろう。まずはイラン攻撃の早期収束を強く望みたい。
(了)











