日本法人・佐藤社長単独インタビュー(後編)
中国の新興ロボットメーカー、Geek+(ギークプラス)日本法人の佐藤智裕社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
佐藤氏はロボットを売り切るだけではなく、適正な導入台数を提案するなどロボットを活用した物流業務効率化を実現するソリューションの提供に主眼を置いていると強調。ソリューションの内容拡充へ同業他社との連携にも前向きな姿勢を示した。また、ロボット導入の不安や懸念を解消できるよう取り組むことに強い意欲をのぞかせた。インタビューの後編を紹介する。
インタビュー前編:【独自取材、動画】ギークプラス、物流ロボットに加え自動フォークリフトやシャトルシステム発売を準備
庫内地図をロボットが自動作成
―御社のロボットの大きな特徴となっている割安な価格はどうやって生み出しているのでしょうか。
「商品自体は当初よりさらに良い部品を使うなどして品質を高めており、原価は上がっていますが、販売台数がかなり出ているため初期の研究開発費は回収できていますから、その分は商品価格に乗せる必要がなく、全体の価格を抑えられています。導入費用に関しても、他社で公表されているのはロボットだけの価格だったりしますが、われわれはロボットもソフトも工事費も全て込みの価格です。そこはメリットとして全面に出せると思います」
―技術力の部分は中国がかなり優れているのでしょうか。
「北京大や精華大で今教授を務めているような人間が、もともとロボットを開発し、さまざまな業界に広めていきました。スタッフは中国人が多いですが、それ以外の国・地域の人たちも多く加わり、世界レベルで高い技術を実現できています。例えば、当社のムービングシステムは床に貼ったQRコードを読み取る方式と、『EVE』のソフトウエアが庫内の地図と効率的に移動できる経路を自動で作成するSLAM(セルフマッピングシステム)方式があり、どちらもお客さまが何かをロボットに覚えさせる必要がありません。特にSLAMに関しては円滑にロボットを動かすのが非常に難しく、これができる会社は日本にまだほぼないでしょう」
「しかも、EVEは1トンの重量を運ぶことができるタイプもあります。通常はそのようなロボットであれば1000万円程度掛かりますが、当社は半分以下です。今までのロボット開発や運営で培ってきたノウハウをどんどん生かしているからお安く提供できています。それこそが当社の強みです」
―ユーザーが投資を決める際の不安解消も重要です。
「当社のロボットは制御しているソフトウエアが更新されていけば、初期に開発したタイプであっても動きをアップデートできますから古くはなりません。投資される側としてはその点も非常に魅力的なのではないでしょうか」
「EVEを最初に導入していただいたアッカ・インターナショナルさんは、今当社もオフィスを置いているプロロジスさんの物流施設『プロロジスパーク千葉ニュータウン』で現在、120台を運用されています。アパレルや靴、雑貨といった商品のダイレクトオーダーピッキングを実現しています。同施設では1階でも別の企業が約60台を運用されるなど、本当に幅広い業種の方々に受け入れていただいています」
「ライバルは物流現場向け機器全て」
―中長期的な目標はありますか。
「もちろん日本でもロボットでシェアを取っていくのが基本ですが、こういう業務であればこのロボットが最適という物流のプラットフォームを作っていきたいと思っています。よくライバルはどこのロボットメーカーなどと聞かれるのですが、当社にとってライバルは物流現場向けの機械全てです。お客さまからすれば、コンベヤーで搬送するのか、ソーターを使うのか、それともロボットを導入するのか、という多様な選択肢が存在しており、物流の業務効率化のやり方はさまざまです。その中でお客さまにロボットを使うソリューションが非常に役に立つということをもっと知っていただく、そのために物流業界のシェアを取っていきたい。ロボットに限ったシェアではなく、物流の機械化全体において、もっとシェアを拡大していきたいというのが中長期的な目標なのです」
-シェアなど定量的な目標は重視されていますか。
「例えばわれわれの商品が日本で何台導入され、シェアがトップになったといっても、それで目標を達成したというわけでは全くありません。われわれのロボットをお使いいただくことで経済をどんどん活性化していかなければ物流が止まってしまいます。そうした状況に陥らず、経済活性化に少しでも多くお役に立ちたいというのがわれわれの企業としての命題だと考えています」
「もちろん企業なので、存続し成長していくためにはロボットを数多く売る必要がありますが、そのことよりも世間の方々がロボットに対して抱いている、導入するのはまだ早いのだろうか、価格は高いのか、どういった機能があるのか、本当に役立つのだろうかといった意識を変えていきたい。倉庫でロボットが活躍しているのが当然という世の中にしていくために、早期に投資を回収できるような価格でロボットを販売し、お客さまが使いやすい仕組みで提供していく。そのことにより物流現場に人がいないといった課題を解決していくことが会社としての目標であり、そのためのシェア拡大です」
多くの棚を自在にピッキングエリアまで運ぶ(「プロロジスパーク千葉ニュータウン」にて)
オーバースペックにならず最適な機能に
―ロボットに関しては競合他社も数多く出現しており、差別化が引き続き重要なポイントになるでしょう。割安な価格、高性能に加えてどういった点で違いを鮮明に出していきますか。
「最初にもお話しした通り、ロボットもどんどんいろんな機能を足していき、さらに多くの台数を販売していきたい。グローバル規模でもさまざまな取り組みをしようと考えています。当社のスタンスは、ロボットを売る、というのがありきではなく、物流業務の効率化・省人化を実現するソリューションを提案するに当たってロボットを使っている、ということです。それぞれのお客さまに対し、本当に必要なものをご提供するのが当社の果たすべき役割です」
「私自身も以前は物流企業に在籍し、物流センターの責任者を務めるなど経験を積んできました。中国でグローバルの事業統括をしている人間も、もともとは物流のシステムも扱っていました。物流を知り、現場を理解し、どういった機能が必要なのかを熟知している人間が数多く在籍しています。だからこそ、ギークプラスはオーバースペックにならず、最適なソリューションを考えることができる。われわれが最適な業務のフローを考え、お客さまの現場担当の方々と細かいところまで詰めていき、最適な導入台数などを決定する。ロボットメーカーでありながら、そこまでさらに一歩踏み込んでサービスを提供しているのは大きな特色ですし、その姿勢はこれからも続けていきたいですね」
―同業他社の動きはかなり意識していますか。
「私としてはむしろ、ロボットというソリューションが世間でもっと広がってほしいので、同業他社の皆さんとも一緒に盛り上げていきたいですね。大きな災害が起きた時は物流の重要性がクローズアップされますが、普段から常にそのことを社会に意識されるようになりたいし、通販で購入した商品はまだまだ送料無料が当然と思われがちな社会の意識を変えていきたい。優れたロボットというソリューションをお持ちの会社とはぜひご協力させていただきたいと思っています」
―事業拡大に向けた日本の課題は何でしょうか。
「特に今大きな課題を持っているわけではありませんが、もっと会社の体制を強固にしていかないといけないとは感じています。ありがたいことに当社のロボット自体、手が掛かるような商品ではないので、日本では今スタッフが約30人、中国を入れてもまだ700人程度です。これから人は増やしていきます。日本は私1人から始まり、最近ようやく工事を何カ所も同時で進められるようになりました」
「ただし、大手企業のようにどんどん人を雇って、ということは全く考えていません。ソリューションを安く提供することが目的なので、間接コストを大量にかけると商品が高くなってしまいます。少数精鋭で、日本の相場からすれば低価格で高品質の商品をこれからも実現していきます。最近は首都圏以外のエリアからもご相談いただくことが増えていますので、中部や関西にもオフィスを設置していくことを予定しています」
(藤原秀行)