ヤマトHD経営構造改革発表会見詳報①
ヤマトホールディングス(HD)の長尾裕社長ら経営幹部は1月23日、傘下のヤマト運輸など8社を再編、本体に統合し純粋持ち株会社から事業会社に移行するなどの大規模な経営構造改革計画を発表した。記者会見での長尾社長らの質疑応答の発言内容を4回に分けて掲載する。
「マネジメント層がお客さまと離れつつあるのではないか」ヤマト会見詳報①
「いかに働きがいを生み出すかにシフトしなければ」ヤマト会見詳報②
「いったん『1つのヤマト』作り上げて大企業病を打破する」ヤマト会見詳報③
「状況は小倉昌男氏が懸念していた時代よりかなり深刻に」ヤマト会見詳報④
タイムリーに変化できていないと危機感表明
――冒頭の説明の中で「お客さまと向き合う本来のヤマトの姿を取り戻したい」と話していたが、本来の姿が実現できていなかったことへの反省、後悔の表れか。
長尾社長
「それだけではない。やはり、お客さまと向き合って、よりお客さまの立場に立ってサービスを作っていくという、本来のヤマトの強みの部分が、現場で接している第一線のセールスドライバー(SD)は常に今も、お客さまと向き合っているが、SDたちを支えるマネジメント層のお客さまに対する姿勢などが、非常に離れつつあるのではなかろうか、お客さまを向いていないことが起きているのではなかろうか、と考えている」
「宅急便はこれまで、成長する過程で作ってきた組織風土などもあるが、その組織やガバナンスの部分が本来、より現場の第一線でお客さまに向き合えるよう変えていく必要があったと思うが、変化が少しタイムリーには行えていないんじゃないかという危機感を非常に持っている。今もちろん、ご質問いただいたような内容は、そこの現れなのではなかろうかという大きな危機感を持っているということでは間違いない」
――ECのエコシステムを構築するとの説明があったが、地場中小運送会社をまとめてラストワンマイル配送を実現するEC事業者が増えている中で、ヤマトとしてどのように荷物を獲得していくのか。価格競争が進む中で、しっかり利益上げながら荷物を確保していくのはどういう戦略か。
長尾社長
「私の問題意識は何かというと、当社は宅急便という強いサービスがあるがゆえに、その宅急便に埋没しているのではなかろうかということだ。確かに宅急便はある意味、優れたパッケージのサービスではある。ただ、それがゆえに、今の数年、特にEC化がどんどん進んでいる、これは単純に通販(の利用)が増えたという話だけではなく、いろんなサービスがどんどんEC化して、より便利な世の中が実現してきている。その状態に合わせて考えていくと、やはりそこに合わせた最適なサービスを作っていかないといけないという課題はある」
「宅急便というサービスは、EC化が進んでいく世の中に対して、決して合わないわけではないが、やはりいろんな意味で、過剰な部分がたくさんあるのではなかろうかと思う。同時に、宅急便を支えている情報システムなど、これだけスマホが当たり前になり、いろんな情報をリアルタイムにご提供できることが求められる社会の中で、少し、私は不自由さを非常に痛感している。そのあたりを大きく改革して、今の、そしてこれからのお客さまのニーズに、最適になるものを、サービスを提供してさしあげる必要があると思っている」
「当社は宅急便で作っていった拠点のネットワークであったり、もちろんラストマイルだけではなかなかサービスが提供できないので、幹線も含めて、先ほど約3700と申し上げた拠点への納品、あとは仕分けも含めた一連の機能をどう最適化するかによってラストマイルは生きると思う」
「逆に言うと、当社のこの、従来宅急便だけ使っていたわれわれの経営資源をオープン化することにより、より最適化した、先ほど申し上げた最適化したサービスとは、より効率良くご提供できる可能性があると思っている。それはお客さまにとってもそうだし、働く方々にとってもより効率の良い、働く効率が良いものになり得ると考えている」
「やはり、サービスの内容に応じた適正なプライシングはあってしかるべきだと思うので、それが低価格ということだけを注目されるとあれだが、ただやはりサービスに合ったプライシングでいかにご提供するかというのが当然ながら必要だと思っている」
物流システムのオープン化で業界に貢献
――経営体制刷新で4事業本部に移行するとのことだが、EC分野への対応は事業本部がメーンとなり、顧客に悩み事を聞いたりするのは従来通りSDという区分けなのか。大手のEC事業者に対しては、他の物流事業者とも協力し、アマゾンのデリバリープロバイダみたいな形のプラットフォームを構築してサービスを行うのか。最近荷動きが弱くなってきている中で料金を下げる物流事業者が出てきていると聞くが、適正価格をどう担保するのか。
長尾社長
「事業本部の中身について。リテールは個人のお客さま、小口の法人のお客さま、いわゆる当社の、昔からご利用たまわっている、SDと向き合っているお客さま、このお客さまの層を対象にしている。地域法人とグローバル法人は、まず日本の中には、ヤマト運輸の中にも、年間およそ18億個の荷物を扱っているが、約半数の物量がリテールのお客さまからの出荷。残りの半数が大手の事業者の方々、地方に点在している、そこそこの物量をいただいている、ということはもちろんそれなりの規模の商売をされているクライアント、いわゆる法人のお客さまという2つの層に分かれるのかなと。この中で1つ目の地域法人は、比較的大きな規模、地方も含めて、商売されているお客さまを想定している。そしてその地域の中で、ある程度閉じたサプライチェーンの中でビジネスをされている方々に対し、より最適な物流、上流から下流まで含めた価値提供をしていくことを想定した事業本部だ」
「グローバル法人は、かなり社数としては限られてくると思っている。当社の法人に向けた事業本部の中でも一番カスタマイズに近い、そのようなソリューション、まさにお客さまのバリューチェーンの上から下まで、全体最適で価値提供さしあげるようなことを標ぼうしている。もちろん、バリューチェーンは海外まで伸びると考えている。その領域において、約200社を想定しているが、そのクライアントを対象に事業を行うものがグローバル法人。このように定義している」
「ECは、まさにECの専業でやられている方々、まずは大手のECプレーヤーの方々に向けてご提供するということになろうかと考えている。そういう意味で申し上げると、SDの方々は何をするかというと、極力本来のSDとしての業務ができるような仕事をどう振り分けるかを作ってまいりたい。ECのエコシステムについては、それはおっしゃる通りだ」
「価格に関しては、適正な価格はどの価格帯であっても必要だと思う。常にわれわれ物流事業者、特にトラック事業の課題は、非常に中小、零細企業が多く、その中でもお互いに足を引っ張り合って値段を下げてきたというのが、バブル経済崩壊後したからの30年超の大きな課題だったのではなかろうかと。ただ間違いなく、これから労働人口はさらに減少していく。よって、われわれの産業は、今日のプランの中でも申し上げたように、いかに効率が良いものを生み出していくか、そのためには必須になるのはやはりデジタルベースのビジネスにどう変えていくか、ということだと思っている」
「従来の紙を中心に動いて、そして仕分けや輸送も非常に人に依存しなければいけない体制をいかにすみやかに転換していくか、そしてわれわれ大手の物流事業者の責務は、やはりそういう投資をわれわれが行い、その仕組みをいかに業界全体で共有して使えるような形でオープン化していくかということになるのではなかろうかと。その中で当然ながら、当座のコストを落としながら、下げながら、適切な利益が物流事業者の中でも、働く人にも還元できるようなことを実現していくのは当然必要だろうと考えている。価格というのはそういったことを前提にした上で設定したものであるべきだと常に考えている」
(藤原秀行)