英サヴィルズインベストメントがリポート、需要は25年までに2100万平方メートル増床見込む
英不動産投資運用会社サヴィルズ インベストメント マネージメントは9月7日、欧州の不動産市場に関するリポート「Thinking outside big boxes」を公表した。
投資の主流の1つになっている、ランプウェイやスロープが付いていないボックス型物流施設は引き続き強固な不動産ファンダメンタルズ(基礎的条件)を示しているものの、利回りが低下する傾向にある中で、新たな投資テーマを構築するよう提言。「最新の投資戦略では工業用・物流不動産投資におけるサブセクターに、さらなる代替投資機会がある」と報告している。
リポートは経済成長率や製造業の生産高、小売業の売上高といった、物流不動産に関する長期的な需要のファンダメンタルズが、当該アセットタイプの投資経済性を支える一方、欧州の主要な不動産市場ではこうしたアセットの投資機会が空室率の記録的な低さにも押され、さらに狭まっていると解説。eコマース関連のボックス型物流施設のテナント需要を牽引するオンライン事業は急速に成長し、このセクターの不動産需要の重要な原動力にもなっているとの見方を表している。
同社が分析したところ、欧州では2020年の物流施設需要が合計で1000万平方メートル以上増え、25年までにはさらに2100万平方メートルの増床が見込まれていると推計。しかし、現在の欧州市場は主要な利回りが3・5~4・0%と記録的に低く、セクターによってはその水準を下回る場合もあるため「需要の急増がボックス型物流施設の投資利回りをさらに低下させているのではないか」と警鐘を鳴らしている。
さらに、商品輸送の迅速化へと向かう長期トレンドや、都市部の市街地におけるボックス型施設の供給の制約により、新たに都市物流とラストワンマイル物流、軽工業用物件、冷蔵倉庫というサブセクターが、投資家に分散投資機会を提供していると言及している。
冷蔵倉庫は「長期的な投資機会と安定的な需要を見込める可能性」
同社欧州ロジスティクス事業統括のアリスター・エネバー氏は「経済、技術、消費、人口の長期的トレンドは欧州の産業と物流市場のファンダメンタルズを強化している。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(爆発的拡大)によってECの成長が加速し、EC市場のさらなる拡大が期待される」と想定。
「このため、われわれは厳選した物件を購入し、重要なハブとして近代的かつ多目的な物流・工業用施設を提供することに価値を見出している。歴史的に不動産投資利回りが低い今日、投資対象物件の選別や賃貸料の伸長の余地、収益の持続性は、投資家にとって重要な検討要素になる」と説明している。
同社欧州リサーチ事業統括のアンドレア・トランプ氏は「工業用・物流施設は不動産の中でも環境、社会、ガバナンスの認証にさらされやすい分野。われわれはESG(環境・社会・企業統治)の領域を重視することで、機関投資家が投資対象において不動産ファンダメンタルズをさらに改善し、投資利益の享受を高めることができると考えている」とコメント。
「ボックス型物流施設だけでなく、投資需要が伸長しつつあるサブセクターの高利回り物件などの選択肢も加味し、プロダクトサイクルの初期段階からリスクテイクに参加し得るクライアント投資家に対して、投資利回りの向上やリスクの効果的な分散を実現・提供していく」との姿勢を示している。
リポートの概要は以下の通り(以下、プレスリリースより引用・一部は編集部で修正)
都市物流とラストワンマイル物流
サヴィルズ インベストメント マネージメントは、さらなる物流開発素地の不足状況、一方で最終消費者に近いラストワンマイルの物流施設の需要増加に伴い、都市や市街地の周辺地域で、工業・物流セクターの賃料と地価の上昇を招くと予測しています。
サヴィルズ インベストメント マネージメントは、2020年の優良資産に対する都市圏の工業用不動産の賃貸プレミアムは45%であったと試算しています。投資家やテナントが求めるESG要件を満たし、かつ、都市部に立地する不動産の入手はますます難しくなってきています。「物件購入よりも開発をする」ということも、簡単な選択肢ではないですが、一つの事業手法として求められているかもしれません。
軽工業用物件
軽工業用物件は、1万平方メートル以下の延べ床面積で、人口増加や都市化が進む都市エリア内で物件供給が簡単ではない区域に立地する物件のことを指します。マルチ用途の物件かつ多くの小規模のテナントを抱えるケースでは、不動産アセットマネージメントの負荷は大きいものの、一方でテナント需要は補足しやすく、空室リスクを漸減させ得ると考えられます。
既存物件だけでなく、再開発による物件供給の可能性がありますが、投資事業そのものが複雑化し下方修正リスクも伴います。需要と供給が不均衡な地域という特性から需要増の場合に賃料の伸び率は期待されますが、物件の場所と物件クオリティーの選別が重要となります。
冷蔵倉庫
このサブセクターは、ファンダメンタルズに支えられた長期的な投資機会と安定的な需要を見込める可能性があります。今般のコロナCovid19による公衆衛生の危機によって、保冷を必要とする医療用品への需要が地球規模で急増した一方で、食料品小売業者がオンライン活動を強化し、新たなオンライン上の食料品プラットフォームも誕生しました。
19年に欧州の冷蔵倉庫市場は750億米ドル(約8兆2500億円)に達し、サヴィルズ インベストメント マネージメントは、その市場価値は年率8%以上の成長を見込みつつ25年までには1130億米ドル(約12兆4300億円)規模まで達すると推定しています。最も魅力的な施設の立地は、欧州の大都市圏の近郊の立地になります。
(藤原秀行)