「テクノロジーやリテールなど強みのある分野に特化、成長目指す」
ドイツポストDHLグループの事業部門の1つでコントラクトロジスティクス(3PL)事業を展開しているDHLサプライチェーン(SC)の日本・韓国クラスターCEO(最高経営責任者)に2月15日付で就任したジェローム・ジレ氏はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
ジレ氏は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まって以降、DHLグループは累計で20億回分を超えるワクチンを世界各国に配送するなど、物流事業を通じて社会に貢献していると自負を表明。
前職のシンガポールクラスターCEO時代に東南アジアで半導体関連の物流取扱量を大きく伸ばした経験を生かし、日本や韓国でも得意としているテクノロジーやリテールなどの事業領域をさらに強化、成長させていくことに注力する方針を表明。「組織の縦割りを壊し、総合的にコラボレーションのできる体制強化を図っていきたい」と抱負を述べた。
インタビュー内容を2回に分けて紹介する。
ジレ氏(DHLSC提供)
アジアで22年経験重ねる
――日本・韓国クラスターCEO就任を発表したDHLSCのプレスリリースの中に、アジアで22年の経験をお持ちとの説明がありました。具体的にどういった経験を積まれてきたのでしょうか。
「私は社会人になってからの時間のほとんどを物流業界で過ごしてきました。最初にビジネスでアジアを訪れたのは1998年です。当時、私はDHLSCの前身である英国のエクセルロジスティクスという物流企業に在籍していました。エクセルはその後、DHLに買収されるのですが、エクセル時代に英国の小売大手マーク&スペンサーの物流オペレーションを立ち上げるため、香港に行ったのが最初でした」
「最初は香港で3カ月間、立ち上げのサポートをする予定だったんですが、結果的に今もアジアに深く関わっています(笑)。香港の後は、エクセルロジスティクスのアジア太平洋地域の基幹オフィスがあったタイに移り、アジアのオフィスがシンガポールに移転した後は私もシンガポールに移りました」
「物流のオペレーションや営業などのポジションに就いたほか、全体的な経営やマネジメントにも携わりました。その後、2003年にシンガポールで物流大手のグローバル企業のコントラストロジスティクス(3PL)部門に転職し、香港へ移りました。さらにその後は自分のビジネスを立ち上げるため、中国の上海で1年間過ごし、現地のビジネスをサポートするコンサルティングのビジネスを手掛けました。2008年に再びDHLSCに戻りました」
「シンガポールで中国のビジネスを支援するなどの業務に携わり、その後はアジア太平洋のコンシューマーリテールというセクターを担当するようになりました。そしてアジア太平洋地域のCCO(最高顧客責任者)、シンガポールクラスターCEOを歴任してきました」
――本当にアジアで多様な経験を積まれているのですね。これほど物流業界で長くキャリアを積まれてきたことを振り返って、どのようにお感じでしょうか。
「今までに物流業界に入ったことを後悔したのは一度もありません。物流業界は非常にダイナミックで、やりがいを感じています。新型コロナウイルスの感染拡大など、様々な問題に世界で対応しているのがまさにサプライチェーンという業界ですので、日々私が行う決定や業務が人々の生活に影響を与えていることを実感できており、非常に満足しています。DHLのスローガンに、私達は人々の日々の生活にとって不可欠な存在です、というフレーズがあるんですが、本当にその通りだと実感しております。小売や医療関係など、日々の事業を全て裏で支えているのがわれわれDHLだと自負しています」
「コロナ禍でも、DHLは世界的なパンデミックが始まってから累計で20億回分を超えるワクチンを世界各国に配送しています。コロナに対する人類の戦いにも貢献できている、そういった組織の一員であるということも非常に誇りに思っています。なので、こういった物流業界で働けていることを非常にうれしく思っていますし、日々、人々の生活の向上に大きく貢献できていると考えています」
――プレスリリースはシンガポールクラスターCEOの時に、半導体物流の分野で屈指の存在へ成長を遂げたことを業績の1つに挙げています。具体的にどういったことを成し遂げられたのでしょうか。
「シンガポールにおいては既に、半導体業界の顧客基盤を確立していたのですが、われわれがさらに成長していくためにはもっと専門性を高めていかなくてはいけないと感じていました。というのも、半導体業界は非常にリードタイムなどの要求が厳しいんです。ソリューションを設計する部隊の専門性を高めたほか、オペレーションにおいても半導体物流に精通したエキスパートを育て上げる教育に注力しました。その結果、お客様により具体的な提案をできるようになり、差別化につながったのだと思います」
「今ではシンガポールクラスターにおいて、DHLSCはグローバル半導体企業の上位10社のうち、半分以上と契約を結び、グローバルやアジア太平洋地域、ローカルで物流センターの管理運営などを担っています。この成長につながったのは先ほども申し上げたように、既にあった顧客基盤を基に専門性を積み上げたり、ベストプラクティスを横展開したり、イノベーションや自動化を通して生産性を高めていったりと、少しずつ着実に取り組みを拡大していった結果だと考えています」
――ダイナミックに変革できたのは、DHLがそうしたことを可能にする環境を備えていたということでしょうか。
「DHLとしてそもそも専門性を持っていたり、その専門性を育てたりできるという土壌はありますが、半導体業界については、やはりお客様の近くに寄り添うというところがポイントだと思います。半導体業界は変化が激しいですし、お客様の要求水準も非常に高い。なので、いかにお客様に寄り添って、求められているものを理解し、専門性を高めていくかというのが大事だと考えたのです。そこが成功したポイントだと思います」
「あらゆる人にとってのロジスティクスプロバイダー」は志向せず
――シンガポールクラスターに関してはリリースの中で、JGサミットグループとパートナーシップを組んで合弁会社DSSIを立ち上げ、フィリピン最大手の運送会社へと成長させたことにも言及していますね。
「フィリピンの運送業界はたくさんの中小企業が存在しており、数台くらいの車両しか持っていない企業が集まっているのが実情です。そうした中で総合的な輸送サービスを提供できる企業がそれまでなかったですし、インフラは整備されていませんでした。輸送状況を可視化するサービスもありませんでした。そこで小売や一般消費財、航空など多様な事業を展開しているフィリピン最大手の企業グループ、JGサミットグループとパートナーシップを組んでジョイントベンチャー(JV)を立ち上げました」
「JVを通して運送業務の可視化サービスなど、総合的な輸送サービスを提供できる仕組みを構築しました。サービスレベルが向上しただけでなく、業務のコンプライアンスや安全の面でも状況が改善しました。つい最近、300万キロメールを事故なしで走行できたという大きな出来事があり、社内でお祝いをしたばかりです。フィリピンは日本とは違い、非常に交通事故も多いですから、この実績は非常に素晴らしいことなんです。JVで運送会社を立ち上げることにより、新たな価値を生み出せました」
――これまで説明されてきた経験は、日本・韓国クラスターでかなり生かせそうですか。
「そうですね。フィリピンでもまだまだ変えなければいけない部分はありますが、確かにコロナ禍でも良い変化のスタートを切ることができたのではないかと考えています。一方、日本はちょっとフィリピンと状況が違うと感じています」
「物流市場は非常に成熟していますし、日本や韓国におけるDHLのビジネスも同様です。日本はテクノロジー、コンシューマー&リテール、ライフサイエンス&ヘルスケアなど、非常に強いセクターを既に持っています。また、補修部品の物流も非常に競争力がありますし、輸送に関しても売り上げ全体の半分を占めるくらいまで大きくなっています。ですから、非常に確固たる事業基盤が既にできているんですが、日本における今後のビジョンとしては、もっと組織の縦割りを壊し、総合的にコラボレーションのできる体制強化を図っていきたいと考えています。そのことでシナジーを創出し、より最適化・効率化を進め、セクターを横断して協力関係を深めて一段と成長し、新規顧客も増やしていきたいですね」
「韓国に関しても既にファッション・アパレル関係で強い顧客基盤を持っていますから、この強みを生かしていくこと、そして参入し始めたライフサイエンス&ヘルスケア、医薬関係でも投資を増やして成長していくことをそれぞれ目指していきたいと思います」
「日本と韓国はいずれも、既にローカルの強い大手の物流企業が多く存在しています。われわれとしても、そうした日系企業の皆さんと競合しようとは思っていません。私達は私達の強みを生かし、先ほど申し上げたようにシンガポールで半導体業界の専門性を高めて成長したように、強みとする分野に特化し、大きくしていこうとしています」
「言い換えますと、日本においてはあらゆる人にとってのロジスティクスプロバイダーになろうとはしていません。ある分野に特化し、そのお客様と非常に近い関係を築き、お客様の声や希望される要件をお聞きし、お客様にとって最良のソリューションを構築していきたいということなんです」
――今回の人事は、日本・韓国クラスターCEOを務めていたアルフレッド・ゴー氏がシンガポールクラスターCEOを引き継いでいます。ジレ氏とゴー氏の役割がそのまま入れ替わった格好ですが、どういった狙いがあるのでしょうか。また、こうした形の人事はDHLの中では珍しくないのでしょうか。
「DHLはグローバル企業ですから、人の異動はよくあります。世界的に職場が移ることも珍しくありません。今回の場合、ゴー氏も私も5年ほど同じポジションにいましたので、そろそろ新しい視点が必要なタイミングになってきました。新しい風を入れて、より成長していくために今回のような人事になりました。新たな視点を取り入れてリフレッシュし、再び成長につなげていくのが目的です」
ゴー氏(DHLSC提供)
「個人的な話をしますと、私も長年シンガポールに住んでいますので、シンガポールは大好きですが、一方で日本という国も好きなんです。家族とともに、今回の人事を契機に日本へ引っ越すことを非常に楽しみにしています。新たな挑戦でその好きな国に移ることができるのは非常にうれしいことですからね」
「私にとって日本は全く未知の国というわけではなく、日本のお客様とも以前から取引がありましたし、友人も日本にいます。学ばなければいけないことはたくさんありますが、日本にビジネスの場を移すことができるのは非常に光栄です」
――日本にかなりご関心があるとのお話でしたが、具体的にどういった点にご関心がありますか。
「まずビジネスの面からお話をしますと、日本人の皆さんの働き方は非常にしっかりしていて、体系的で整然としていて、非常に素晴らしいと思います。そうした仕事を通してお会いした方々は、いつも非常に温かく私を歓迎してくれており、仕事を通じて別の友人へとつながったケースもあります。食べ物や風景も素晴らしく、美しい国だと思います。今はコロナの影響でなかなか日本に行けないのですが、ぜひ桜をじかに見たいと思っています」
「プライベートのお話をすると、実は私はバイクが大好きなんです。今も何台か所有しています。日本は多くの有名なバイクメーカーがありますし、日本はバイクのパラダイスだと思っています(笑)。私を熱くさせるバイクがたくさんある国という意味でも魅力を感じています。長年の夢である、栃木県茂木町の『モビリティリゾートもてぎ』と、三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットにぜひ行きたいですね」
(後編に続く)
(藤原秀行)