ヤマトグループ総研がフィジカルインターネット解説のシンポジウム開催(前編)

ヤマトグループ総研がフィジカルインターネット解説のシンポジウム開催(前編)

人手不足などの克服、「究極のオープンな共同物流」が不可欠と強調

ヤマトホールディングス(HD)傘下のシンクタンク、ヤマトグループ総合研究所は3月18日、世界を大きく変えたインターネットの形を物流の世界で再現し、業務効率化や省人化などを図る考え方「フィジカルインターネット」を解説するシンポジウムをオンラインで開催した。

登壇した有識者らは、フィジカルインターネットに基づき、車両や倉庫の共有、物流機器や容器の標準化などを図る重要性を強調。関係省庁の幹部も、深刻な人手不足など物流業界が抱える課題の解決にフィジカルインターネットの手法は非常に有効との見解を示し、普及に向けた政策を継続・拡大していくことに強い意欲を示した。

前後編の2回に分けて、出席者の発言内容の概要を報告する。
(出席者の写真はいずれもヤマトグループ総研提供)

「物流コストインフレ時代は物流の能力が産業競争力を左右する」

冒頭、ヤマトHDの長尾裕社長が、シンポジウムを開催した趣旨を説明。トラックドライバー不足など物流業界が数多くの課題に直面する中、フィジカルインターネットのような抜本的な対策を講じ、難局を打開していく必要性を訴えた。ヤマトHDグループとしても、ヤマトグループ総研を軸としてフィジカルインターネット実現の環境整備に努めたいとの決意をにじませた。


長尾社長

続いて、経済産業省の中野剛志消費・流通政策課長兼物流企画室長と、国土交通省の髙田公生物流政策課長がそれぞれ基調講演に立った。両省はフィジカルインターネットを実現するための方策を検討する官民の検討会「フィジカルインターネット実現会議」の事務局を務め、実現に向けたロードマップ(行程表)を含む報告書を取りまとめており、両氏は報告書の内容を引用しながら、フィジカルインターネットを導入すべきと考えている背景について語った。

中野氏は道路貨物輸送サービスの価格は2010年代後半にバブル経済時代の水準を超え、現在も上昇基調が続いており、特に宅配便の価格上昇が顕著にみられると指摘。「物流コストインフレ」が起きているとの見解を示した。

その背景として、トラックドライバーが不足している供給側の制約があると解説。今後、トラックドライバーの長時間労働規制を強化する「2024年問題」が控えていることや、世界的な脱炭素化の潮流で物流業界も温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するよう強く要請されることが、さらに供給側の制約につながっていく可能性があると警告した。

さらに、フィジカルインターネット実現会議の報告書にも盛り込んだ試算や引用した様々な調査結果を説明。物流コストインフレの構造を放置した場合、2030年時点で7.5兆~10.2兆円の経済損失が発生する恐れがあり「物流コストインフレ時代には物流の能力が産業競争力を左右するようになる」との見解を示した。

加えて、日本の企業は物流コストインフレ時代に入っているにもかかわらず、ロジスティクスやSCMを経営戦略の1つとして重視する割合が低いことなどを問題提起。経営者らに意識の変革を訴えた。

最後に、2000年代までは企業間の競争が激しいために運賃などの物流コストを抑制した結果、労働環境の劣悪化につながり、トラックドライバーの減少を招いたため、物流供給力がかえって低下してしまっており「今後は物流の効率化徹底により、物流コストを圧縮しつつ、労働環境改善や賃上げによってドライバーの供給を増やすべき」と総括した。


中野氏

国交省の髙田氏は、物流関係の標準化促進に関する現状と方向性について解説。まず直近の物流の傾向として、eコマースの普及に伴う荷物配送の小口・多頻度化と、売上高に占める物流コストの比率上昇を紹介。宅配の再配達問題についても、いまだ一定の割合で発生していることに触れた。

働き方改革に伴う2024年問題の概要として、トラックなど自動車運転業務に関しては時間外労働規制を強化し、年960時間、月平均80時間とリミットを設けるとともに、将来は「原則月45時間・年間360時間」と設定している一般則の適用を目指すことを紹介。物流業界や荷主企業にとって対応が急務との見方を強くにじませた。

国交省としても、加工食品や飲料などの業界で用いているパレットのサイズ標準化などを推し進めていく政策を展開していると強調。内閣府が軸となり進めている「戦略的イノベーションプログラム(SIP)」の中の「スマート物流サービス」として、物流事業者や荷主企業同士が入出荷などの情報を共有できる環境を整備していくことにも触れ、関係省庁間で連携する姿勢をアピールした。


髙田氏

「ドライバー不足放置すれば物流はパンク」

ヤマトグループ総研の専務理事を務め、フィジカルインターネット実現会議にも委員として参加していた荒木勉上智大学名誉教授は、フィジカルインターネットの基本的な考え方などについて解説。「フィジカルインターネットは究極のオープンな共同物流。単純な共同物流ではなく、オープンな、それも究極のオープンなものでなければいけない」と意義を表現した。同一業種内にとどまらず、異なる業種間でトラックや物流施設などをシェアできる体制の確立が、人手不足などの課題を乗り越える上で不可欠と訴えた。

政府が営業用トラックの積載率を現状の40%弱から高めようとしていることに関連し「ドライバーは有効求人倍率が2倍で、人が足りていない。そのままにしていると当然物流はパンクしてしまう。フィジカルインターネットで共同物流を進めていかなければいけない」と強調した。

フィジカルインターネット実現のため、物流容器の規格化、出発地から到着地まで荷物をパレットに乗せたまま輸送・保管する一貫パレチゼーションの実現などの標準化を進める必要性に言及。パレットにRFID(ICタグ)を搭載し、現在地や枚数などを適正に管理できるようにする取り組みにも触れた。

最後に、フィジカルインターネットの達成に貢献するため、新たな組織として一般社団法人フィジカルインターネットセンターを立ち上げたことを報告。研究会の開催などの活動を通じ、物流に関係するソフトとハード両面の標準化を推し進めていく決意を示した。

荒木氏

実際にフィジカルインターネットに合致するような、シェアリングサービスを展開している事業者として、ラクスルと三菱商事の取り組みを紹介。このうちラクスルは、荷物とトラックのマッチングサービスや配車管理システムなどを展開しているハコベル事業本部長を務める狭間健志執行役員が登壇した。

狭間氏は、実際の事例として、大手食品会社の輸配送車両管理フローが従来は電話やファクス、メールが混在し、伝達ミスによる重複手配や余計なコストの発生が生じていたのに対し、ハコベルのシステムを活用した情報管理の一元化で業務時間が8割減り、配送費用も年間数百万円減らせたと報告。先進技術活用による業務集約の効果をPRした。


狭間氏

三菱商事は、ピッキング作業を担うロボットを従量課金制でレンタルしたり、倉庫の空きスペースと荷主企業の保管したい荷物をマッチングしたりするシェアリングサービスを手掛けている。物流開発部の櫻井進悟プロジェクトマネージャーは「米国では物流の需要とキャパシティのギャップを調整し、シェアリングするビジネスモデルが発達しており、長期的には自動化テクノロジーの発展に伴い、物流サービスのコスト構造の変革が期待される」と予想。日本でも同社が手掛ける物流シェアリングサービスへの期待が高まっているとみて、フィジカルインターネットの実現に寄与していくことを目指すスタンスを明示した。


櫻井氏

(後編はコチラから)

(藤原秀行)

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