「自動化・省力化は顧客と従業員の双方にとって重要」
フェデックスエクスプレスの日本代表に2021年10月就任したマネージングディレクターの久保田圭氏はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
久保田氏は新型コロナウイルスの感染拡大で顧客のニーズが大きく変化したが、輸送ネットワークの拡充などで対応してきたと説明。今後見込まれるニーズを迅速かつ的確に捉え、新規サービス開発などに当たる姿勢を強調した。
また、日本の物流業界が抱える深刻な人手不足やeコマース関連の荷物取扱量増大といった課題を前に、オペレーションの自動化・省力化を図っていくことが、顧客と従業員の双方にとって重要と指摘。日本でも物流現場へのロボット導入などを積極的に検討していく姿勢を示した。
インタビューの内容を前後編の2回に分けて紹介する。
久保田氏(フェデックスエクスプレス提供、アイキャッチ写真も)
「従業員第一」の経営理念は変わらない
――日本代表の人事を発表したプレスリリースによれば、2018年に御社へ入社される前には、製造業やエネルギー産業、航空業界のグローバル企業で13年以上勤務されたそうですね。日本代表として、そうしたキャリアをどのように生かしていかれますか。
「もともと、私はエンジニアとしてキャリアをスタートしました。米国のボーイングやゼネラル・エレクトリック(GE)、日本の日揮に在籍し、技術が持つメリット、社会をより良くしていく可能性を非常に感じてきました。ここは日本代表としても常に考えていきたいと思っています。フェデックスは企業の理念として『P-S-P』を掲げています。つまり、People First(人が最優先)、People(人)-Service(サービス)-Profit(利益)ということです。企業が従業員を第一に考えることで、従業員はより良いサービスをお客様に提供する。その結果、会社を成功に導くために必要な利益が還元されるという意味です。私自身、この理念と全く同じ考えを持っています。私にとって、どうやって従業員の仕事をサポートできるのかというのは大きなテーマであり、技術の活用もその意味から重要なことだと思っています。この理念は変わりません」
「外からフェデックスに入社することのメリットとしては、やはりいろんなところで使われている技術を自分自身の目で見て、その効果と課題を知っているということです。私自身はオペレーションのマネージングディレクターですので、その技術を物流現場へ取り入れていけるかどうかは大きな関心の1つです。英語の表現で“building network for what’s next”というものがあります。次にやってくるニーズを捉えて対応していくことが重要という意味です。新型コロナウイルスの感染拡大で物流業界全体が大きな影響を受けましたし、フェデックス自体も今までなかったような状況に直面しました。グローバルでは取扱量の増大に伴う航空便の輸送能力増強などの対応を取ってきました。今後も、まさに“what’s next”の精神に則り、次に来るニーズに合わせたネットワークの構築が大きなテーマだと思います」
「そして、航空便のネットワーク拡充などと併せて、eコマースを手掛けておられる事業者や中小企業のお客様に向けてのサービスを改善していくことも重要です。21年にも、新たなeコマース向けの指定日配送が可能な国際輸送サービス『フェデックス・インターナショナル・コネクト・プラス(FICP)』の提供をアジア太平洋や中東、アフリカ市場で開始しました。今後も輸送のネットワーク増強に加え、FICPのようなサービスを提供することで、お客様のニーズにフェデックスが、より応えられるようになる。それが私の取り組むべき大きな焦点になっています」
――コロナ禍の影響もあってeコマースへの対応が御社の業務の大きな柱になっていると思いますが、それ以外の製造業などBtoBの領域についても、今後サービスを拡充していくということでしょうか。
「そうですね、eコマースはコロナ禍の影響で、グローバルでも大きく伸びている領域ですので1つのテーマだとは思いますが、それ以外のどの分野のお客様に対してもサポートできる体制を構築することは常に考えていますし、BtoBのお客様も無視できません。BtoBとBtoCではお客様のニーズは違いますので、それぞれに合わせたサービスの提供やネットワークの構築など、様々なニーズに対応できるフレキシビリティを備えることが重要でしょう」
「BtoBに関しては、私たちが伝統的に強い、グローバル規模で生産拠点を展開しているような企業の方々には、例えば自動車やヘルスケア、製造業その他、それぞれの業界のお客様のビジネスを理解した営業担当が日本や他の地域の間で連携できるような特別な体制を取っています。既存のサービスをそのまま使っていいただくというよりは、個々のお客様に対応したソリューションをカスタマイズで提供することをこれまでもやってきましたし、これからも続けていきます」
――今回の日本代表は、区国華氏と2人体制です。どのように役割を分担されているのでしょうか。
「彼はもちろん私の重要なパートナーですし、常にデイリーで今後の戦略などについて話をしています。責任範囲は、区氏は成田空港と関西国際空港のゲートウェイに関するオペレーションのマネージングダイレクターを、私はグランドオペレーションと言われている、日本全国の集配送を担っているステーションの分野のマネージングディレクターをそれぞれ務めています。2人でマネージングしている強みは、2人がそれぞれの経験、知識、強みをうまく活用し、ともに働いていけるということです。区氏は元々、フェデックスのアジアの本社がある香港の出身ですので、アジアのことを非常によく理解しています。実は以前にも、日本は2人の共同代表だったことがありますので、特に目新しいわけではありません」
――日本の物流業界は深刻な人手不足に直面しています。2人がそれぞれ担当される領域は異なっていても、そうした課題は共通のものだと思いますので、かなり緊密に連携を取り、自動化・省人化の技術導入など対策を図っていかれるということでしょうか。
「もちろんそうですね。日本全体としてはまさに2人がコラボレーションしないといけないところです。区氏も香港のフェデックスにIT部門の担当者として入社したのが当社でのスタートですから、ITのバックグラウンドを持っています。われわれが常に話し合い、お客様にとってベストなソリューションは何か、従業員にとってベストな環境とは何かということを考えています」
――日本の物流業界の人手不足は楽観できないものだと思いますが、そんな状況でも御社としては十分、日本の経済成長に貢献していけるということでしょうか。
「そう思っています」
FICPでEC事業者の物流をサポートする(フェデックスエクスプレス提供)
変化に対応できるかどうかを試され続けた数年だった
――2022年は日本でもグローバルでも、御社グループとしてかなり変化していく、大きな意味のある年になりそうですか。
「そうですね、先ほどもお話ししましたが、特にコロナ禍のインパクトによって、お客様のニーズが変わってきたことに直面しましたし、2022年も引き続き変化していくでしょう。これからどうなっていくのか、先の動きはなかなか明確には見えませんが、どんな先のことであっても変化に対応できる企業オペレーションを考えていくのがわれわれの使命の1つだと思います。“what’s next”、次なるニーズは何なのかということに常に目を向けて、お客様の声、ニーズを注視していく必要があります。本当にわれわれ自身、激しい変化に対応できるかどうかを大きく試された数年でした。22年も過去の経験から学習したことを忘れずに対応していきたいと思います」
――変化という意味では、人手不足や物量増加に伴うロボット導入など自動化・省力化もその1つだと思います。昨年10月の代表就任以来、ロボティクスなどについては当初から重要な取り組みと位置付けられていますか。
「そうですね。私がフェデックスに入社したのが2018年の10月ですが、その時に所属したのがプランニング&エンジニアリング部という部署でした。マネージャーとしてオペレーションの効率化やサービス品質の向上に当たったんです。お客様のニーズに常にフレキシブルに対応できるオペレーションのセットアップとはどういうものなのかを大きな課題と位置付け、取り組んでいました。その一環として、ロボティクスやオペレーションの自動化は、グローバルでも強い関心を持って見られていますが、日本国内でもかなり現場を変えられる可能性があるんじゃないかと考えています。自動運転技術もそうですね」
――顧客からの自動化・省人化のニーズや関心も高まっていますか。
「eコマースの分野では、できるだけ効率良く、特に小さな荷物の仕分けを効率良く行うことが最も求められるところだと感じています。お客様のニーズについても、もちろんそのことを中心に置いて考える必要があります。われわれのオペレーションのレベルアップという意味からも様々な技術を取り入れて可能性を分析していくことは非常に重要であり、大きな課題、チャレンジだと思いますね」
(後編に続く)
(藤原秀行)