米C&Wリポート、サプライチェーン変動対応へ顧客のニーズ重視の立地や機能不可欠と指摘
米不動産サービス大手のクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(C&W)は4月22日、アジア太平洋地域の物流に関するリポート「アジア・日本における物流不動産の新たな役割~グローバルサプライチェーンからの考察~」を公表した。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な感染拡大)やロシアのウクライナ侵攻などで多くの企業がサプライチェーンに関して急激な変動を経験することになったと指摘。当面の解決策として「追加で継続的な固定費用を発生させることなく、サプライチェーンを確実に稼働させていく施策に焦点を当てていくべきだ」との見解を示した。
その一環として、成長市場に近接したエリアに製造拠点や物流施設を配置することがより一層重要になると展望。「顧客への配送スピードはより重要な差別化要因となるため、原材料や部品のサプライヤーなどともより密接な連携がなされなければならない」との考えを明らかにした。
一方、eコマースの利用拡大に伴い、従来の主要な物流適地とは異なるサブマーケットの中で交通の便などが良い箇所が物流施設需要を牽引してきたと回顧。ECの利用がさらに伸びれば、都心から離れるなど「二級(ティア2)」および「三級(ティア3)」とみなされてきた拠点もより重視されてくる」と展望した。
今後の物流施設については「開発段階から先端技術、自動化、AIによる予測分析をフル活用し、製造者から消費者までをつなぐ在庫の配送管理を最適化するだけでなく、顧客の注文処理を最速化し、床面積対比での生産性を最大化させていかなければならない」と強調。デベロッパーに対し「運営業者から求められる物流施設をデザインしていくことは、もはや必須であり、開発業者ありきの開発はもはや時代遅れである」との持論を展開した。
「ネットワーク構築」「立地条件」「施設の仕様」が成功への重要な検討要素
リポートは、日本で政府と民間事業者が連携し、「フィジカルインターネット」の実現に向けた取り組みが始まっていることに言及。2030年以降はサプライチェーンの合理化による戦略的な製造・物流拠点の共有化・再配置が実現していくとのシナリオが描かれていることに触れ「言い換えれば、先進的大型物流施設の立地の重要性は高まり、立地プレミアムは拡大が見込まれる。中長期的に『売れないものは作らない、運ばない』ことが当然になっていけば、全体の賃料動向も二極化していくだろう」とコメントした。
フィジカルインターネットのロードマップ概念図(いずれもリポートより引用)
さらに、サプライチェーンのネットワークが生み出す価値と運営に要するコストの約8割は設計段階で固定されるため、設計が重要になっていると分析。産業用不動産を利用するためのコストが高騰していることなどを踏まえ、成功への重要な検討要素として「ネットワークをいかに構築するか」「物流施設の立地条件」「施設の仕様」の3点を挙げた。
「ネットワークの構築」は、サプライチェーンから無駄を省いていくため、拠点数統合により規模拡大を追求する需要が促され、製造効率を高める自動化を実現する投資が可能になってきたと説明。「今後はより柔軟性の高いモバイル型自動化技術も兼ね備えるだけでなく、複数の物流施設を機動的に連携させるネットワークが策定されていくだろう」と予想した。
「物流施設の立地条件」は商品の発注から納品に至るまでのリードタイムを正しく理解することにより、求められる立地の条件を明確に定めていけるようになると明言。「顧客サービスの観点から、製造拠点と比較して、どれだけの消費者向け在庫を保有するべきかを理解することが不可欠となる」とアドバイスした。
「施設の仕様」は、「製造業や流通業のイノベーションのペースを鑑みれば、高機能な物流施設の仕様も合わせて進展し続けていかなければならない」と説明。「施設の仕様は、顧客需要、事業が求める要件、施設で行われるプロセス、レイアウト、自動化などに従い決定されるべきである」と述べ、需要側の細かなニーズを踏まえて対応すべきだとの姿勢を示した。
(藤原秀行)