【現地取材】全国網羅のリアル店舗×デジタル=「みらいの郵便局」誕生

【現地取材】全国網羅のリアル店舗×デジタル=「みらいの郵便局」誕生

日本郵政グループが新プロジェクトの実証実験開始、24年度以降の全国展開目指す

日本郵政、日本郵便、JPデジタルの3社は7月15日、東京都千代田区の大手町郵便局で、デジタルとリアルの両面で郵便局利用者の体験価値向上を目指す「みらいの郵便局」の実証実験プロジェクトを開始した。利用者が自分で簡単に郵便物を正しい料金で差し出せる「セルフ差出機」などを設置。郵便局で金融関係の相談をしやすくなる環境も整えている。

前日の14日には報道関係者向け内覧会を開催。飯田恭久日本郵政グループCDO(最高デジタル責任者)らプロジェクト関係者が新たに導入したサービスの狙いなどを説明。「みらいの郵便局」を2024年度以降に全国展開していきたいとの考えを示した。

 
 

郵便局の規模や住民ニーズは地域によって異なるため、3社は22年度にプロジェクトを継続して大手町局で経験を蓄積し、23年度に地域別で複数のプロトタイプを構築することを想定している。


郵便の差し出しをセルフサービスでできる「セルフ差出機」。画面でメニューを選び、計量器(右)でサイズと重量を計測、決済後に発行される証書を貼付して投函する

地域密着型でくつろげる空間に

日本郵政グループは2021年5月に発表した5カ年計画で、郵便物数の減少など厳しい事業環境を踏まえ、郵便・物流業や金融業といった中核事業をデジタル技術などの活用によって強化し、新たな収益機会を確保する目標を掲げている。中でも、小学校をしのぐ密度で全国に設けられた郵便局ネットワークはグループ最大の強みと位置付けており、リアルの郵便局とデジタルを融合させ、地域密着型の新たな価値の創出を目指している。

「みらいの郵便局」実証実験プロジェクトはその一環。5カ年計画では25年度までに、窓口業務運営のデジタル化などへ200億円程度を投じることを計画しており、今回の実証実験プロジェクトも同計画に沿って進めている。

大手町郵便局を舞台に新しいアイデアを試し、来店客の反応を踏まえて実際のサービスに磨き上げていく。5カ年計画は「デジタル郵便局」と記載しているが、地域ごとに異なるニーズに寄り添うためにはデジタル化だけが回答とは限らず、利用者によってデジタルの知識や経験に格差があることも念頭に置いたサービスの向上が必要なため、名称ぐるみでコンセプトを修正した。

飯田CDOは初期段階のテーマを、「郵便物を送る・受け取るという基本機能を、まず徹底的に便利にする。用事を済ますだけでなく、くつろげる空間にも変えていく。各種の手続きを効率化して、局員が来店客と向き合う時間を確保しやすくする」と説明している。

 
 


「みらいの郵便局」のコンセプトを語る飯田CDO

郵便のセルフ発送を容易に、接客機能強化も

新たな取り組みとして、郵便物の発送を簡便化するため「セルフ差出機」を設置した。定形内、定形外規格内、定形外規格外の3種類の郵便物を、普通郵便または速達で送る場合、サイズや重量の計測、料金決済、証紙の貼付、投函といった一連の手続きを利用者自身で済ませられるのが特徴。混雑を避けるため、一度に発送できるのは10通までで、決済もキャッシュレスに限定している。

これまでは、郵便局の窓口では内容証明郵便や大量の書留郵便など手続きに時間のかかるオーダーと、速達などの簡単なものが一律で順番待ちが必要だった。手続きが簡単な郵便物をセルフサービスでも発送できるようにすることで、待ち時間の解消を図るとともに、局員が手続きの複雑な案件へ丁寧に対応しやすい環境を整える狙いがある。

セルフ差出機にはセルフレジ機を併設しており、レターパックなど需要の多い商品を自動で購入できるよう配慮している。

ロビーにはデジタル発券機を設置した。番号札のQRコードを読み込むことで、スマートフォンなどで待ち人数を確認できるため、待ち時間中に外で他の用事を済ませるなど時間を有効活用しやすくなる。また、インターネット上で待ち人数を把握、混雑時間を避けて来店することも可能にしている。来店前に予約する機能も開発を進めている。

一方、局員はタブレットやPCで用件別の待ち人数が一覧できるため、待機人数が多い窓口のヘルプに入ったり、臨時の窓口を開いたりといった対応がしやすくなるとみている。

 
 

また、専門的な知識に基づいてじっくり説明したり、プライバシーの保たれた環境を整えたりすることが求められる金融関連の相談を受けやすくするため、専用コーナー「Life Counseling(ライフカウンセリング」を設置した。日本郵便が窓口で取り扱っている保険や投資信託、銀行商品について、リモート会議設備を整えた個室内で、専門スタッフが遠隔から相談に応じる。また、衝立で仕切った半個室ブースでは、局員が相談を受け付けている。


個室内で金融商品の専門スタッフとリモート相談できる「Life Counseling」

従来は書類が中心だった説明を、デジタル端末とグラフィック中心にすることで、より分かりやすい内容にしていくのが狙いだ。将来は健康相談や士業の有資格者への相談など、生活や人生に関わる相談にも応じられるようにして、地域のよりどころとしての機能を強化していくことを目指す。

くつろげる空間づくりのため、木目調の素材や暖色の証明を用いたラウンジを設置。ラウンジには郵便局が販売している食品や生活用品、ギフトなどを展示するとともに、デジタルサイネージ(電子看板)で郵便局のニュースやイベント情報などを表示して、サービスの周知にも取り組む。

飯田CDOはロジビズ・オンラインの取材に対し、地域密着型の機能の一環として、窓口説明などで一緒にデジタル機器を使い、デジタルが苦手な客層が自然に“デジタル慣れ”してもらえる場とする可能性について「既に一部の郵便局では、スマートフォンの使い方教室などを開催しており、そうした役割を郵便局が担うことは可能だ。ぜひ実現を目指したい」と語った。

(石原達也)

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