【解説】日野の「不正連鎖」、物流業界のEV展開に波紋

【解説】日野の「不正連鎖」、物流業界のEV展開に波紋

不安残るラストワンマイル配送へのトラック投入

日野自動車で、新たに小型トラック「デュトロ」向けエンジンの排出ガスをめぐる認証取得で不正行為が明らかになった。同社は既に大型トラックやバス向けのエンジンでも同様の不正が発覚しており、国内市場向けの製品出荷の大半がストップする異常の事態に追い込まれた。

小型トラックの出荷停止の期間については「手続きに不正があったがエンジン自体は排ガス規制値や燃費性能を満たしていると日野が主張している通りだとすれば、長くても2023年の初めごろまでではないか」(自動車業界関係者)との予想が聞かれる。一方、別の関係者からは「国土交通省は相次ぐ不正の発覚で姿勢を硬化させている。説得力のある再発防止策を日野が出してくるまで簡単には生産再開を認めないだろう」と混乱の長期化を危惧する声も出ており、現時点では明確には見通せない。小型トラックで4割前後のシェアを握る日野の出荷停止は、物流業界にとって影響が避けられない。

さらに、日野はラストワンマイル領域の脱炭素化に貢献するため、6月に宅配業務での使いやすさを重視した低床・前輪駆動小型BEV(バッテリー式電気自動車)トラック「日野デュトロZ EV」を発売したばかり。今回のディーゼルエンジンの問題とは直接関係はないが、日野の技術力やものづくりの姿勢に対する信用度は大きく失墜しているだけに、不正は日野のラストワンマイル領域の車両電動化戦略にも猛烈な逆風となりかねない上、物流業界にも波紋を広げる可能性がある。ラストワンマイルにおけるEVの勢力図の行方も左右しそうな状況になってきた。


「日野デュトロZ EV」(日野自動車提供)

説得力ある再発防止策と企業体質変革の道筋提示が必須

「特別調査委員会や自社の調査検証結果を報告した後に、国交省からのご指摘で不正行為が判明したことは大変重大かつ深刻であり、弁解の余地もない。お客様をはじめステークホルダーの皆様に多大なるご迷惑、ご心配をお掛けしており、あらためて深くおわび申し上げる」。日野の小木曽聡社長は8月22日、オンラインで開催した記者会見で、神妙な面持ちで謝罪した。1カ月で2度も不正行為の判明に関する記者会見をしたことになる。

重なる日野の醜態に物流業界からも「監督官庁に謝罪しているだけで、ユーザーの方に向いていないのではないか」などと厳しい声が挙がる。一連の不正行為をめぐる会見では会場に詰め掛けた記者から、認証手続きでの不正が続発したことに「そもそも技術力が不足しているからこそ、国の規制値を満たそうと不正に走ったのではないか」と、多くの関係者が感じている疑問を代弁する質問がぶつけられた。

排出ガスや燃費は、基準を満たさないとすぐに安全性を左右するような要素ではないが、メーカーが国の規制値を満たしていると公に約束していることをユーザーが信用して車両購入の判断材料の1つとするだけに、その信用を完全に裏切った形だ。運送事業者や荷主企業の間でも既に日野から他のメーカーに乗り換える動きも出ているようだ。

日野は得意としてきた小型トラックの地位を盤石なものとするのに加え、昨今物流業界で強く求められるようになった温室効果ガス排出削減にも対応していくことを目指し、BEVトラックを開発。ヤマト運輸は8月から「日野デュトロZ EV」を宅配現場に順次500台導入する方針を公表している。ヤマト自身も2030年までにEV2万台を配備する計画を立てており、日野の取り組みに大きな期待を寄せている。


ヤマト運輸と日野自動車が宅配に使う実証実験に投入した日野製BEV(今年5月撮影)

これまでラストワンマイル領域の車両の電動化については、佐川急便が2021年4月、台湾塑膠工業(台湾プラスチック)グループでEVの開発・製造などを手掛けるファブレス(工場を持たず外部に製造委託する)メーカーのASFと共同で開発した軽車両を中国の大手自動車メーカー、広西汽車集団がOEM(相手先ブランドによる生産)で量産、佐川の各事業所へ順次供給する計画を発表。

SBSホールディングスも同年10月、やはりファブレスでEV開発を手掛けるスタートアップのフォロフライと連携し、中国の自動車大手、東風汽車集団のグループ会社、東風小康汽車がフォロフライ設計のEVトラックを製造、輸入する方針を公表した。国内メーカーも三菱ふそうトラック・バスが2017年に国内で初となる量産型の小型EVトラック「eCanter(eキャンター)」を発売、日本と海外で約350台を販売してきたが、最近は導入コストの低さなどから中国勢の存在感が増している。

中堅運送会社の関係者は「コストパフォーマンスを考えると、現状ではラストワンマイルのEV車両はまず中国製を検討せざるを得ない。日本のメーカーはこの領域がまだまだ弱い」と語る。日野は日本勢として宅配領域のEV活用で存在感を示すことができるとの見方が関係者の間から出ていただけに、不正がそうした期待に冷や水を浴びせることは避けられそうにない。

ヤマト運輸は現状、デュトロZ EV導入の計画に変更はないもようで、日野としてもデュトロZ EVの生産は継続する構えだが、信頼が失墜した中、日野のEV車両が物流業界で支持され続ける保証はない。日野がトラックユーザーにとっても説得力のある不正再発防止策と企業体質変革の道筋を示すことは、ラストワンマイルの車両EV化を着実に推し進めていく上でも不可欠となっている。

また、日野は主要自動車メーカーが資本参加し、商用車の技術開発を手掛けるCommercial Japan Partnership Technologies(CJPT)の株主に名を連ねる。CJPTは商用のEVやFCV(燃料電池車)をいかに開発、普及させていくかが大きなテーマの1つ。日野は今回の不正で環境対応などの技術力も疑問視される状況となってしまっているだけに、CJPTの事業の足を引っ張らないよう挽回することが強く求められている。

(藤原秀行)

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