【解説】物流効率化、“動かぬ着荷主”対策へ本腰:実行計画の策定・報告義務化など検討

【解説】物流効率化、“動かぬ着荷主”対策へ本腰:実行計画の策定・報告義務化など検討

官民検討会で政府が規制導入の方向性明示

国土交通、経済産業、農林水産の3省は1月17日、物流が直面している人手不足など諸課題を解決し、持続可能な物流を実現するための具体策を官民のメンバーで議論する「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の会合を開催した。3省はこれまでの議論を基に、物流の持続可能性を高めるための具体策を盛り込んだ「中間取りまとめ」の原案を提示、大筋で了承を得た。

原案は改革を進めるために物流事業者単独ではなく、荷主企業の協力を得る必要性を重ねて強調。中でも「サプライチェーン全体の最適化にあたっては、物流需要の起点である着荷主企業の協力が非常に重要」と明記するなど、特に物流事業者に対して強い立場になりがちなサプライチェーンの川下に位置する着荷主企業の行動を促すことに主眼を置いている。

さらに、深刻なトラックドライバー不足などの課題を踏まえ、法令による規制的な措置の導入も検討する必要性に言及。現状よりも踏み込んで規制していくことをにじませている。

3省が5~6月ごろを念頭に決定を目指している最終的な意見取りまとめでは、規制内容をどこまで明確に打ち出せるかが焦点となる。3省は既存の法令を参考にしながら、物流センターでの荷降ろしの待ち時間削減など具体的な行動を後押しするため、実行計画の策定と定期的な国へ報告といった規制の検討を加速させる。

中間取りまとめの原案が焦点を当てている着荷主について、主要な位置を占める卸・小売業界は規制を模索する政府の動きに「十分な実態把握に基づく根拠と必要性が示されなければ、到底納得できない」などと反発している(関連記事はコチラ)。原材料価格の高騰など経営環境が厳しい中では当然の動きともいえる。

しかし、物流業界では物流センターでの長い荷降ろしの待ち時間がしばしば発生していることなどから、以前から「悪質な着荷主への法規制が不可欠」といった声が強い。特に着荷主については現行制度のままというのは3省としても取りにくい選択肢なのは間違いなく、規制強化に向けた関係者間のせめぎ合いがぎりぎりまで続きそうだ。


1月17日の会合で発言する検討会座長の根本敏則敬愛大学教授(中央)(オンライン中継画面をキャプチャー)

「着荷主の物流改善を主目的にした制度は存在しない」と問題意識

中間取りまとめの原案は「着荷主企業は、多くの場合物流事業者との間に直接の契約関係はないが、事実上、輸送する貨物の内容や納品時期等を決定する立場にあり、トラックドライバーの長時間の荷卸し待ちや、契約にない附帯作業等の原因となる場合も多い」と指摘。「他方で、現行制度は主に発荷主企業を対象としたものが多く、着荷主企業の物流改善を主目的にしたものは存在しない」との問題意識を示している。

3省は1月17日の会合で中間取りまとめの原案と併せて、「類似の他法令の規制的措置等」と題する資料を配布した。原案に盛り込んでいる「荷主企業が経営者層を中核として物流改善に取り組むことに資する措置」や「法律に基づく義務をかけつつも、事業者の事業特性に応じた対応や自主性を尊重した取組を促す」の参考事例として、企業に対し化石由来ではないエネルギー使用の拡大を求める改正エネルギー使用合理化法を挙げている。

同法はある一定以上の規模を持つ「特定事業者」に対し、エネルギーの使用方法改善の監視などの業務を統括する「エネルギー管理統括者」を選任するよう義務化。同じくある程度以上の規模を有する「特定荷主」に、エネルギー使用の合理化に関する目標と達成のための中長期的な計画を策定、国に提出するとともに毎年度、進捗状況を報告することを定めている。

3省は物流業務効率化についても同様に、専任の業務統括責任者を配置したり、大手の荷主企業が物流事業者と協力の上、物流センターのトラック待機時間削減などの実行計画を策定、進捗状況を国に報告させたりする制度を視野に入れ、今後関係業界などとの調整を急ぐ構え。掲げている計画に比べて進捗が著しく遅れている場合は、国から対応の改善を勧告できるようにすることも検討する見通しだ。

参考事例としては他にも、「幅広く荷主や物流事業者の生産性向上に資するシステムやアプリケーションの導入を推進するための措置」の参考事例として、物流総合効率化法(物効法)や、メーカーに使用済み製品の回収・再利用を求めている資源有効利用促進法を引用。

このうち、物効法は複数の企業が連携し輸送網集約や配送共同化などを進める旨を盛り込んだ「総合効率化計画」を国が認定すれば鉄道・運輸機構から計画実現のための資金の貸し付けを受けられるといったインセンティブを設けている。資源有効利用促進法は改修を担う事業者の再利用に向けた技術開発の促進などの仕組みを採用している。3省は今後、物効法のインセンティブの拡充などを協議していくとみられる。

ただ、規制強化によって実際の物流現場で業務効率化を後押しできたとしても、物流業界で大きな課題となっている運賃やサービス料金の適正化を担保できるかどうかは不透明な部分が多い。

中間取りまとめの原案は、発荷主企業と着荷主企業の間の商取引で商品販売価格に物流費を含める商慣行 (店着価格制)が存在する実態に触れ「着荷主にとっては繁忙期を避けた発注や発注の大ロット化やパレチゼーションなどの物流負荷軽減に資する取り組みを行うインセンティブが働かない状態となっている」と懸念を表明。

その上で、基準となる商品価格を設定し、物流サービスに応じて価格を変動させる「メニュープライシング」など「商取引における物流コストの見える化を促進する施策を検討すべき」と求めている。店着価格制は以前より見直しを求める声が物流事業者などから出ているものの、なかなか前進しないテーマだけに、「ホワイト物流」推進運動と同様、なぜ改善すべきか、消費者も巻き込んだ周知活動を展開する必要がありそうだ。

中間取りまとめの原案は、改正貨物自動車 運送事業法に基づく時限措置として導入された、問題行為を物流事業者にさせている荷主への是正働きかけや、国土交通相の告示として発出した「標準的な運賃」制度について、延長など所要の対応を検討する必要があると明記している。いずれの制度も現状、荷主企業に対してどの程度、コンプライアンス順守を促す実効性があるのか不透明だけに、まず効果の検証が不可欠となっている。

(藤原秀行)

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