ANACargo・大河内氏、西濃運輸・貫名氏らが展望
Shippioは3月2~3日、オンラインで大規模なカンファレンス「Logistics DX SUMMIT2023」を開催した。
国際物流とDXをメーンテーマに設定。登壇者は物流業界に加え、シンクタンクやロボットメーカー、大学、IT企業、ベンチャーキャピタルなど様々な領域から知識や経験が豊富なメンバー30人以上が集まり、物流業界が直面する人手不足やデジタル化の遅れなどの諸課題にどうやって立ち向かうか、処方箋について活発に意見交換した。
ロジビズ・オンラインでは、各セッションを順次、詳報している。第7回は3月3日に開かれた「最先端の物流顧客体験はここまで来ている~物流事業者と荷主と新しい関係~」と題したパートのやり取りを掲載する。
フェデックスエクスプレスの清澤正弘営業部マネージングディレクター、ANA Cargoの大河内譲上席執行役員(ロジスティクスサービス・フレイトサポート部門担当)、西濃運輸の貫名忠好ロジスティクス部部長補佐が登場。Shippioの山内直樹オペレーションマネージャーが進行役を務めた。
清澤、大河内、貫名の3氏は、物流サービスの提供を通じた顧客体験の向上のための取り組みを紹介。新型コロナウイルス感染拡大を契機としたECの利用増に対応したり、近年の災害の頻発を受け物流のオペレーションを継続できるよう工夫したりといった事例を報告した。
また、3氏はこれまで船便に比べてコストが高い面が注目されがちだった航空輸送を戦略的に使うことでリードタイム短縮やトータルの業務コスト抑制にもつなげられるといった、物流の顧客体験をさらに高めていく余地があるとの認識で一致。サービスのデジタル化にも意欲を示した。
(左から)山内氏、清澤氏、大河内氏、貫名氏(以下、オンライン中継画面をキャプチャー)
物流を「コストセンター一辺倒」から「プロフィットセンター」に
冒頭、3氏は新型コロナウイルス感染拡大などで物流サービスに変化が生じた点について言及。大河内氏は地方の生鮮品を産地直送で消費者へ届けるDtoCのモデルが増えていることに言及し、「今までと違う流通を作り、消費者と産地が直接つながるという経験は相当インパクトがある。BtoBの領域中心で事業を展開していると見えなかったところに新しい体験が生まれている」と指摘した。
貫名氏はコロナ禍や災害の頻発で物流が混乱したことを念頭に置きながら「例えばトラック輸送は運ぶことができて当たり前という時代があったが、近年はコロナの影響や異常気象の頻発で、お客様と情報を共有し、一緒に工夫していかないと運べなくなってきている。常に西濃がサポートしてくれている、何かあったら西濃に相談するという安心感を持っていただけるような存在になりたい」と語った。
また、顧客体験を向上させる視点として、荷物がどういう状況にあるのかを可視化するとともに、これまでの輸送実績データを活用することで将来の輸送のリードタイムなどに関するシミュレーションをすることが可能になることが望ましいと分析。実際、西濃運輸のホームページで一番閲覧が多いのが荷物の問い合わせだと紹介した。
大河内氏は、産直を実現する中で、生産者と消費者を結び付ける上でアプリやウェブサイトを活用するなどデジタル技術を重視するとともに、物流事業者としても集荷時間の締め切りをできるだけ遅く設定するなどの取り組みが重要と解説。併せて、デジタライゼーションとDXが戦略の鍵になると説明した。
ANACargoとしても、空港の上屋のエリアにAGV(自動搬送システム)を導入し、これまでのフォークリフトを代替することで作業の効率性や安全性向上を図るなど、新しい技術の導入に注力していると報告した。清澤氏も、両氏の業務デジタル化に関する取り組みに賛同した。
大河内氏は産直の空輸に関して、地域の個々の生産者だけでは生鮮品の取れ高は少ないが、多くの生産者でまとめれば空輸してもペイするだけの量になるほか、収穫量が多くなり既存の流通ネットワークに載せられず廃棄されてしまう場合も産直が可能であればロスを回避できると解説。ANACargoとしてもそうした物流効率化のサポートを展開していくことに意欲をのぞかせた。
また、航空便は運賃が高いとの見方が多いことに関連し「航空は必要悪だというように位置付けている企業もおられるが、それは前提がコストサイドの話だけ。船より運賃が高いよねということで大半の企業は船をベースにサプライチェーンを組まれていると思うが、戦略的に航空便を使うことが、結果的に在庫や倉庫の保管コストを減らしたり、配送のリードタイムが短くなることで業務コストが減ったりしていく可能性がある」と強調。
「そういうふうに価値観を変えていきたい。物流はコストセンター一辺倒ではなく、コストはもちろん大事だけどキャッシュの側面で見ても、物流をトータルで(利益を生み出す)プロフィットセンターと位置付けていく企業がもっと増えていかないといけないと思っている」と力説した。
データ共有化の仕組み構築を主張
貫名氏は商習慣の見直しとデータの共有化の重要性について再度言及。このうち、商習慣に関しては「日本は発荷主側が物流コストを負担する一方、物流会社が実際にサービスを提供するのは着荷主側。発荷主から荷物をもらってきても着荷主がこうやってほしいと言えば受け入れざるを得ない。BtoBに関しては着荷主側が配達の仕方を選べるようにしたり、きちんと料金体系をメニューにしていたりすることがなかなかできていない。付帯作業についても(着地に至るまで内容が)見えていないものが多くある」などと指摘した。
データの共有化をめぐっては「プラットフォームのようなものを作り、お互いが必要な情報だけをそこから引き出し、お互いの業務を効率化していくことが考えられる。一度入力したらエンドユーザーで情報を利用し、効率化を進めていける仕組みを世の中に構築していけないかと思っている」と主張した。
大河内氏は「物流に対する新しい意味付け、ストーリーテリングをしていくことが非常に大事だと思う。例えば産直は消費地と産地をつなぐ物流であり、(食品ロスを防ぐ)サステナブルな物流にちゃんと貢献していくという意味付けもできる」との見方を表明。併せて、「プロフィットセンターとしての成功モデルをわれわれが一生懸命作り(意義や効果などを)知らしめていくのが1つのきっかけになるかなと思う」と語った。
貫名氏は「知恵を出し合ってみんなで運んでいかないと(ドライバー不足という)課題をクリアできないと思っている。協業や共創という意味でお互いに荷主と物流事業者の隔たりをもう少しなくしていきたい。いろんな相談をわれわれにしていただければ非常に助かる」と述べた。
大河内氏は「国内線の航空スペースもコロナ前の実績だが、平均すると50%くらい空いており、空気を運んでしまっている。非常にもったいない。こういう(空いている航空スペースの)部分と、地方の(放置していると)廃棄しなければならなくなる生鮮品のマッチングが描けると思う」と述べ、顧客体験の向上へ航空便の利用をさらに促していく決意を見せた。
清澤氏はコロナ禍の沈静化に伴い、当社の物流サービスも順次平常時の運営に戻していくことを示した。
最後に、山内氏が締めくくりとして、3氏の話を聞いてあらためて感じた点を説明。「1点目が物流は顧客体験価値を生み出すサービスであるということ、もう1点が新たな顧客体験を作り出すためには物流事業者と荷主が協業できる領域まだまだ存在するということだ」と述べ、顧客体験向上のためにも荷主と物流事業者の連携が重要と訴えた。
(藤原秀行)