ドローン物流実現に近づく管理システムも【第2回シンポジウム詳報(後編)】
ドローンなどの先進技術を活用した「新スマート物流」を普及させ、人口減少に直面する地方の物流ネットワーク維持を図る「全国新スマート物流推進協議会」は7月7日、東京都内で「第2回新スマート物流シンポジウム」を開催した。
新スマート物流に携わっている民間企業の担当者や地方自治体の首長らと、ドローンを所管する国土交通省の幹部が参加。既にドローンを使って生活必需品や新聞を住民に届けるなど、地方で新スマート物流の普及が広がっている現状をアピールした。
パネルディスカッションでは、トラックドライバーの長時間労働規制強化に伴う物流現場の混乱が懸念されている「2024年問題」について、共同物流や中継物流の展開が重要との提案が相次いで成された。シンポジウムの後半の内容を紹介する。
パネルディスカッションの様子
「モバイル通信でドローンに新しい風を」
シンポジウムには、KDDIグループでドローン関連事業を展開しているKDDIスマートドローンの博野雅文社長が登場。同社が手掛けているドローン運航管理システムの概要と、エアロネクスト子会社のNEXT DERIVERYがネバーマイルと組んで開発を進めている、ドローンや軽貨物車両など複数のモードで荷物を運ぶ際に輸送を円滑化するTMS(車両管理システム)「SkyHub TMS」との連携の効果を説明した。
ドローン運航管理システムはKDDIの携帯電話通信網を活用しており、ドローンの遠隔自律飛行を安全かつ効率的に行えるようにするのが特徴。一度に複数台を運行させたり、他の拠点から監視したりすることも可能。飛行前の国土交通省への飛行許可などの申請を一括で行ったり、飛行後の運航ログ(記録)をクラウドに自動保存したりといった、運航前後のサポートにも注力している。
博野社長は「モバイル通信を使ってドローンに新しい風を与える。ネットワークにつながり続けるドローンを提供し、(有人地帯上空をドローンが補助者なしで目視外飛行する)レベル4飛行を実現していく」と狙いを語り、物流への活用にもより道を開いていけるとの自信をのぞかせた。
また、KDDIスマートドローンとACSL、エアロネクストが共同で開発した、地域配送の効率化・省人化に向け、ドローン物流を包括的に実現できるようサポートするサービス「AirTruck Starter Pack」の提供を始めたことにも触れた上で、同サービスはセイノーホールディングスとエアロネクスト、KDDIスマートドローンが軸になって展開している、ドローンや陸送などを組み褪せ、その都度最適な物流を実現する「新スマート物流」とも連携が可能と強調。「地域物流の新しい形を皆様と一緒に作り上げていきたい」とアピールした。
博野社長
「荷主といろんなことにチャレンジすべし」
続いて、「物流2024年問題に挑む~持続可能な地域物流の実現に向けて」をテーマに掲げ、パネルディスカッションを開催。冒頭に講演した国土交通省の鶴田浩久自動車局長(物流・自動車担当)、佐川急便東京本社事業開発部の佐藤諒平事業開発担当部長、6月まで全日本トラック協会青年部副部会長を兼務していたサンワNETSの山崎康二専務取締役(運輸事業本部、関連本部統括)の3人がパネリストとして登壇した。モデレーターは同協議会理事も務めるセイノーホールディングスの河合秀治執行役員が務めた。
パネルディスカッションに臨む(左から)鶴田氏、佐藤氏、山崎氏
佐藤氏は、2024年問題について「過去から労働時間短縮の取り組みを進めてきており、おおよそクリアできると判断している 多くの協力事業会社が問題に対応できるよう、ともに意見交換しながら取り組んでいる」と説明。「ドライバーが本来の運転業務に専念できる環境を整備するために、荷役作業を弊社の従業員で行い、荷役分離して運転時間確保に取り組んでいる」とアピールした。
また、トラックが営業所に到着した時刻から作業が完了した時刻までのデータを取得し、荷待ちに要した時間と作業にかかった時間を明確化して対応していることや、長距離輸送にスワップボディコンテナやトレーラーを投入し、スイッチ輸送や鉄道・内航海運へのモーダルシフトを図っていることにも触れた。
佐藤氏
山崎氏は、トラックドライバーの拘束時間について「高速道路に乗るくらいしか、運転時間を短くすることはもうできない。倉庫の皆さんにご協力を願わないといけない。日本倉庫協会の方々とも連携して、交流会を持って意見交換させていただいている」と解説。
「一番問題なのが商慣行。お客様はだいたい必ず荷物は朝の8時にチャーター便を(相手先の物流センターに)付けるよう求める。トラックは8時に向けて動かなければならず、積載効率も悪くなる。この辺の見直しをぜひ進めていっていただきたい」と提案した。
また、荷主と協議を重ねて現場の負荷低減にこぎ着けられた事例として、地元のスーパーが物流センターは日曜の稼働休止を決めたことを紹介。「荷主さんといろんなことにチャレンジしていただいたらいいんじゃないか」と述べ、他の物流事業者らにも荷主に2024年問題対応を働き掛けていくことをアドバイスした。
鶴田局長は「今後に向けてのヒントをいただいた。待遇の話も非常に重要。1人当たり運ぶ量を増やすことと、待遇を良くして担い手の数を増やすのが両輪の関係にあると思ってお2人のお話をお聞きした。荷主の協力は非常に大事。対立の構造ではなく、一緒に取り組んでいくことが大事だ」と語った。
鶴田氏
新スマート物流でも取り組んでいる共同配送や貨客混載については、佐藤氏は「荷物が集まりにくく効率が上がらないエリアで実施している事例が多くなっている。人口密集度が低いエリアでの相談が多くなってきている」と分析。ニーズが高まっているとの見方を示した。
同時に、「共同配送のデメリットはオペレーションが難しいところ。各社の時間軸が違うので、どちらかの企業が(もう一方の企業に)合わせないといけない。システムの連携は避けて通れない。民間各社の努力は必要だが、個社での対応は難しいところがある」と語り、政府からの支援策に期待をのぞかせた。
貨客混載に関しては、自社で15件ほど展開していることを紹介。こちらもオペレーションの見直しなどが課題となるものの、共同物流と合わせて「人と物の流れを円滑にするにはこういった取り組みは広げていくべきだと思う」と話した。
山崎氏は、自動車メーカーが20年ほど前から、サプライヤーに部品を引き取りに行く「ミルクラン」を展開していることに触れ、「共同配送の1つだと思っている。平準化された荷物ばかりではないと思うが、見本になることを一番大きな産業でやられていることを認識していただきたい」と指摘した。
加えて、「中継物流をやっていけないと2024年問題は対応できない。中継拠点を使い、荷物の積み替えもやっていかないと運びきれないという懸念がある」と胸の内を明かした。
山崎氏
最後に、佐藤氏は「2024年問題は社内でも、だいぶ加速して検討を進め、実行している。自社だけではなく協力事業者さんとの関係性を深めないと乗り越えていけないのは間違いない。意見交換しながら対応を進めていきたい」とコメント。
山崎氏は「物流業全体が選ばれる職業にしていかないといけない 本当に(他の業界の)皆さんと同じような環境で仕事ができる物流業になれば、人手不足の問題も少しずつ解決していくのではないか」と述べ、ドライバーらの待遇改善が最優先との認識を示した。
鶴田氏は「2024年問題は終わりではなく始まり。2024年という瞬間を乗り切ればよかったよかった、ということではなく、ますます深刻化していく問題の始まり。息長く取り組んでいきたい。問題があるから対処するというよりも、物流や社会を良くしていこうという取り組みだと思うので、前向きにやっていきたい」と決意を語った。
モデレーターの河合氏
(藤原秀行)