CREフォーラムで松丸マネージャーが物流改革説明(後編)
この記事の前編:【独自取材】きくや美粧堂がセンターで柔軟な勤務体系展開、週1日・2時間から可能に
シーアールイー(CRE)は6月14日、東京都内で荷主企業や物流事業者向けの「物流フォーラム」を開催した。先進的な取り組みを進めている企業の幹部や現場担当者を毎回講師として招き、業務効率化や事業基盤強化に有益な情報を発信している。
今回は美容業界向け専門卸大手きくや美粧堂サプライチェーン部物流担当マネージャーの松丸忠広氏が登壇。東京・平和島の物流センター「East Logistics(イーストロジスティクス)」で手掛けている庫内作業スタッフの定着促進と自動化・機械化の両面で施策を細かく紹介した。
後編は、あくまで人が働きやすくなることに主眼を置いた、人間と先進機器による“共存共栄型”の自動化・機械化の概要について取り上げる。
講演する松丸氏
約70人が集まったフォーラム会場
「クロスジョブトレーニング」でスタッフ間の接点を増やす
これまでにロジビズ・オンラインでも報告してきた通り、きくや美粧堂は「自社物流」のスタンスにこだわり続けているのが大きな特徴だ。そのため、全ての施策を進める上で、生産性向上や効率改善はもちろん、庫内でスタッフがいかに気持ちよく働いてもらえるようにするかが大原則となっている。
松丸氏はその一環として、各スタッフの多能工化を図る「クロスジョブトレーニング」に注力していると強調。ピッキングならピッキングだけ、というやり方を避けることでマンネリ化を避け、よりやりがいを持って働いてもらえるようにしたいとの同社の思惑があるという。他のスタッフとの接点を増やしていくことで、今後も働きたいと思えるようにしたいとの希望もある。
さらに、仕事を指導する際には同じような属性の人同士でペアを組むなど、相性に最大限配慮している。子育て中の女性にはやはり子どもを持つ女性を充てるといった具合だ。松丸氏は「その方がお互い親身になって話をすることにつながる」と利点をアピールする。
前編でも触れた通り、「イーストロジスティクス」は週1日・2時間からの勤務を可能にし、勤務シフトは20パターンを設けていることなどから働き方が相当柔軟で全員が一堂に会する機会を設けるのが難しく、いかに情報を共有してもらうかが工夫のしどころとなっている。現状では1日3回朝礼を実施しているほか、デジタルサイネージ(電子看板)をセンター内の目立つ場所に配置して業務のルール変更など告知すべき情報を庫内で分かりやすく掲示している。
さらに、過去の実績から当日の出荷量と作業終了時間の予測結果をそれぞれデジタルサイネージで発表している。併せて、作業の進捗状況は2時間ごとに館内放送しており、予測からずれが生じそうな時はすぐに庫内で認識を共有、速やかに対応できるよう腐心しているという。
デジタルサイネージの活用の一例
外部からAI(人工知能)による出荷予測の利用を打診されたことがあったそうだが、松丸氏は「当社は過去の出荷実績から予測を導き出して人員を調整している。AIでその作業にトライしてみたところ、予測の的中率はAIが92・5%、われわれが98%。人間がやった方が高精度だった」と笑顔を見せた。
庫内の安全にも最大限配慮しており、一例を挙げれば、作業用のカッターは刃先が丸くてけがをしにくいものを採用。さらにカッターは同社が管理し、帰宅する際には自分の名前が書かれた場所のフックに引っ掛けておくルールとしており、カッターが万が一紛失してもすぐに分かるような仕組みだ。こうしたルールを採用した後は庫内スタッフのけががほぼゼロになったという。
刃先が丸いカッターを採用
細かな配慮で運送事業者からも選ばれる存在に
機械化に関しては、梱包時の緩衝材を自動で製造する機器を設置。足でペダルを踏めば好きな量だけ出てくるので、梱包作業の手をいちいち止めずに緩衝材を適量作ることが可能になっているという。エアーの緩衝材から紙に切り替え、環境配慮にもつながった。
緩衝材を自動製造する機器
このほか、庫内で活躍が目立つのが、ロジビズ・オンラインでも紹介した、レンゴー製のオートパッケージングシステム「e-Cube(イーキューブ)」と寺岡精工製の自動採寸機「Smart Qbing(スマートキュービング)」だ。
前者は収められた商品の大きさや量を自動的に測って適切なサイズに段ボールを組み立てている。段ボールのサイズを適正化できるため、梱包のコスト削減やトラックの積載率向上につながっている。段ボールの底をしっかりとガムテープで止めるため、商品が底から抜けるトラブルはここ2年ゼロになった。
後者はコンベヤーで流れてきた段ボールのサイズや重さを各種センサーで迅速に把握、情報をデジタル化している。データを輸送事業者に提供することで積載の効率を高められるのがメリットだ。
松丸氏は「働きやすい環境の整備に加え、トラックドライバー不足を踏まえた働き方改革にも当社独自のやり方で貢献することができる」と意義を強調。ハードだけでなく、猛暑の昨夏には専用の冷蔵庫で飲み物を冷やし、ドライバーに無料で配るといったソフト面でも配慮していることに触れ、庫内スタッフに加えて運送事業者からも選ばれる荷主とならなければいけないとの考えを強く示唆した。
段ボールの適正サイズ化で積載率も向上
さらに、センター内をスムーズに移動するオムロングループ製の自律搬送ロボット「LD-90」をカスタムメイドした独自ロボットの姿も動画で紹介。他にも音声ピッキングシステムの活用による作業効率改善、庫内スタッフの7割を占める女性向けに扱いやすい独自のマテハン機器を開発といった事例にも言及した。
松丸氏はこの先の新たな試みとして、2019年中をめどに、多様な商品を自動管理できる垂直式回転棚を2~3機導入する意向を表明。生産性向上と負荷軽減へ“庫内スタッフが歩かないピッキング”をより徹底していく狙いを明らかにした。
松丸氏は「(ロボットが人の方に商品を運んでくる)GTP型(のオペレーション確立)のファーストステップとして垂直式回転棚の活用を考えている。数年後には自動倉庫を取り入れることを検討している」と説明。同時に、「機械を入れても人間は絶対残る。当社は機械ももちろん重要だが、人の方をより大事にしている。自動化機器を導入していくにしても人と機械のバランスを取りながらうまく進めていこうと思っている」との鉄則を重ねて強調した。松丸氏らサプライチェーン部の探究はさらに続いていきそうだ。
(藤原秀行)
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