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【新企画】LOGI-BIZ online Advance 第2回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(中編)

【新企画】LOGI-BIZ online Advance 第2回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(中編)

量子科学技術研究開発機構とロジスティードの中核ユニット超長距離輸送プロジェクト

新企画「LOGI-BIZ online Advance」(ロジビズ・オンライン・アドバンス)は、物流が新技術の実用化を支えたり、物流自身の先進的な技術革新を目指したりする動きを追う。第2回は、世界のエネルギー問題解決につながると期待される人類初の核融合実験炉の稼働を、ロジスティードが量子科学技術研究開発機構と組み、物流面で支えた“縁の下の奮闘ぶり”を伝える。

積み荷は巨大・大重量・極限精密の超伝導コイル

巨大なエネルギーを生み出す核融合炉の中心は、超強力な「電子レンジ」と「電磁石」で構成されている。「電子レンジ」によって1億℃を超えるまでに加熱され、途方もない運動エネルギーで飛び回るプラズマ状態の原子同士がぶつかり合うように、密閉空間に閉じ込めておくのが「電磁石」の役割だ。



核融合炉の建設・運転プロジェクト「ITER」(イーター)では、3種類のコイルを組み合わせた総重量1万tの超電導マグネットシステムで、磁力による目には見えないドーナツ状のカゴ(以下「ドーナツ」)を形成し、プラズマを閉じ込める。3種のコイルの一つが「TFコイル(超伝導トロイダル磁場コイル)」だ。

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総重量1万tの超伝導マグネットシステムで、プラズマを閉じ込める。青色表示されているのがTFコイル(内部図解、量子科学技術研究開発機構提供)

TFコイルは、高さ16.5m、幅9m、重量310tのD字型の構造物。円状に18機を設置し、D字の内側が「ドーナツ」となる。ITER国際核融合エネルギー機構による設計に基づいて、日本が8機+スペア1機を、EU(欧州連合)が10機とそれぞれ分担して製作している。日本が担当した9機は国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構が、三菱重工業および東芝エネルギーシステムズと、それぞれ共同で製作した。


TFコイル1機の全体像(量子科学技術研究開発機構提供)


人と比べると大きさが分かる(同)


核融合実験炉ITERへの実装準備中のTFコイル(ITER国際核融合エネルギー機構の動画「ITER 世界最大のパズル」より引用)

大型トラック3000台を毎秒加速させる力を受ける



その巨体と大重量だけでも輸送するのは並大抵のことではないが、さらにTFコイルは非常に精密な内部構造を備えている。

まず、電磁場の形成に必要な超伝導状態(電気抵抗がゼロになり、エネルギー損失なく電気が流れる状態)を生み出すため、直径0.82mmの超伝導素線900本と銅線522本を撚り合わせたケーブルをステンレス管に挿入した「巻線部」と、巻線部を保護する特殊ステンレス製の「構造物」から成り立っている。超伝導素線にはNb3Sn(ニオブ3スズ)を用いており、これをマイナス255℃以下に冷却すると超伝導になる。


TFコイルの構造図解(同)

核融合実験炉では、18機のTFコイルをマイナス269℃の極低温に冷却して超伝導状態にし、その巻線部に6万8千アンペアの電流を通電することで、プラズマを閉じ込めるのに必要な最大11.8テスラの電磁場を発生させる。

この電磁場がどれくらい強力かというと、TFコイルに最大6億ニュートンの負荷が生じるほどだ。6億ニュートンとは、質量6万tの物体を1秒ごとに秒速1mずつ加速させる力。荒っぽく説明すれば、車両総重量20t(法定上限値)まで荷物を積んだ大型トラック3000台をまとめて毎秒毎秒、秒速1メートルずつスピードアップさせるほどの力になる。

それに加えて、プラズマを閉じ込めておくには所定の空間内に高精度かつ安定的に電磁場を形成し続ける必要がある。



求められる電磁場精度を実現するため、TFコイル巻線部内に何層にもわたって配置してあるケーブルの重心は、その巨大さにもかかわらず、数mm程度の誤差しか許されない。比率にして、コイル全体の1万分の1以下の寸法誤差だ。

さらにこの寸法精度を、前述の通り「車両総重量20tまで荷物を積んだ大型トラック3000台をまとめて毎秒毎秒、秒速1mずつスピードアップさせる」ほどの途方もない力が掛かり続ける中で維持するため、巻線部と構造物は隙間なく一体化していなければならない。

発荷主の量子科学技術研究開発機構と、日本からフランスへの輸送を担ったロジスティード(輸送当時の社名は日立物流だが、本稿では現在の社名で統一する)には、この精密な内部構造を損ねることなく、巨大で大重量の電子機器を長距離海上輸送するミッションが課せられた。

1万2000kmの彼方への船旅

核融合エネルギー実験炉を構成する機器は、ITERに参画している7極が分担して調達し、フランスにある核融合エネルギー実験炉建設サイトへ輸送する。輸送業務「ITER包括輸送プロジェクト」は、フランスのハイテク産業向けロジスティクス・サービス・プロバイダーDAHER(ダエア)が一括受注して、各国の物流企業と協業して遂行している。

ロジスティードとDAHERは以前から日仏間の輸送業務で協業しており、日本からフランスへのTFコイル輸送プロジェクトでも、パートナー候補として2012年ごろにロジスティードが打診を受け、量子科学技術研究開発機構に対して日本のロジスティクス・サービス・プロバイダー候補としてノミネートされた。そこから打ち合わせを重ねて、19年にDAHERおよび量子科学技術研究開発機構と3者間で契約を交わした。

2020年1月、TFコイルの初号機が完成。以降、順次完成と出荷を繰り返し、最終号機となる9機目が完成・出荷したのは23年2月だった。


量子科学技術研究開発機構公開動画「TFコイル最終号機 本船積込み作業②」

日本の工場を出荷してから、海上輸送を経てフランスの港湾に到着するまでをロジスティードが、フランス到着からITERのサイトに搬入・据付するまでをDAHERが担当した。このうち、フランスまでの輸送は船舶で行った。日本を出発後、ITERの最寄り港Fos sur Mer(FOS=フォス・シュル・メール、マルセイユ西部の港湾)までの海上輸送距離は、約1万9000kmに及んだ。

フォス・シュル・メール港から核融合実験炉建設サイトまでは、ITERのために建設された、約900tの重量にも耐えられる総距離104kmの専用道がある。陸揚げ後のTFコイルは大型トレーラーに積み替えて、この専用道で陸送された。

発荷主側の取り組み:防湿、劣化防止用ガス封入、専用輸送フレーム設計

TFコイルの梱包は、発荷主である量子科学技術研究開発機構が担当した。TFコイルの構造物部分に使われる特殊ステンレス鋼は、一般のステンレス鋼より強度に優れているので、輸送時の振動や衝撃には比較的強いと考えられる。その一方、巻線部は電気機器なので、水や湿度には注意を要する。

そのため量子科学技術研究開発機構は、防水シートで保護した上で、乾燥剤のシリカゲルを適切に配置し、梱包内部には湿度記録計も取り付け、輸送中の湿度データの確認方法も整えた。これらの工夫によって、梱包内の水蒸気量(絶対湿度)を許容範囲に収めた。

さらに、超伝導導体や冷却配管内部には、空気や湿度による材料劣化を防ぐため、不活性ガスの窒素を微正圧封入(大気圧を少し上回る圧力で密封し、外部からの空気や水蒸気の流入を防ぐ手法)した。封入に異常がなかったか確認できるよう、圧力計も取り付けた。

TFコイルは1基当たり310tもの重量があるため、積み荷を振動や衝撃、積み降ろし作業時のクレーンや工具などから保護する輸送フレームも、専用のものを設計した。だが、コイルの形状から、どうしても輸送フレームの外に露出してしまう重要部位があった。ドーナツ状にTFコイルを並べた際に、TFコイル同士をつなぐ「IOISカスタムスリーブ」と呼ばれる金属部材だ。

「ドーナツ」内にプラズマを密閉するには、コイル同士が精密に接続されている必要があるため、IOISカスタムスリーブには厳しい寸法精度が要求される。輸送中に万が一にでも衝突や振動で損傷したり、寸法に狂いが生じたりしてはいけないので、厳重な保護と監視をロジスティードに依頼した。

これに対しロジスティードは、外航船に積む際はIOISカスタムスリーブの周囲に十分なスペースが確保できるように、船会社と交渉の上でStowage Plan(積み付け計画表)を検証し、実際の船積みも自ら行った。

ロジスティードの取り組み:インフラ輸送などの経験を活用

ロジスティードは火力発電設備、化学プラント、鉄道車両など大型重量物の輸送に関して豊富な経験を持っており、いかにトラックや船舶などに積載・固縛するか、安全に吊り上げを行うかというエンジニアリング力を強みとしている。第三者的視点から品質をチェックする専門部署「安全品質管理本部/安全推進部」もある。

「とはいえ核融合実験炉用ユニットの輸送は、当社でも初めての挑戦。世界的なプロジェクトなので責任重大でもあった」と、輸送プロジェクト当時にはプラントフォワーディング部部長として責任者を務めた、栗原聡フォワーディング事業戦略本部フォワーディング営業部副部長は振り返る。

そのため重量物船のクレーン、フローティングクレーンでの積み降ろしなど一つ一つの作業を、時間をかけて丁寧に実施した。また、船内でのラッシング(固縛)ベルトも通常より本数を増やし、万全を期した。


固縛作業のプロセス。TFコイルの輸送フレームにラッシングベルトを取り付けていく(量子科学技術研究開発機構提供)


船底には輸送フレームを固定する鉄板を溶接(同)


作業員による固定金具の溶接作業(同)


輸送フレームが金具とラッシングベルトにより船底に固縛された(同)


翌朝、溶接した箇所や固縛に問題がないかを点検してから出航となる(同)

TFコイルの工場から港湾への輸送タイミングは、製品出荷時期、外航船出航予定日を基に計画しており、工場出荷後に外航船に積むまで保管期間が必要となることもあった。港湾倉庫に入りきらないサイズなので、出航日までは内航用のはしけ(平底の船舶で、河川や港湾内の貨物輸送に使う)に積んで保管しなければならず、防水シートに破れがないか、固縛に異常がないかなどを頻繁に確認して万全を心がけた。

輸送プロジェクトで直面した特に大きな困難は、実際にTFコイルが完成し、出荷が始まった時期が新型コロナウイルス禍初期に重なったことで発生した。船舶が不足して海上運賃が高騰、輸送船の確保やスケジュールの調整が難航した。さらに、船からの積み降ろし時などに作業監督者を派遣する際にも、立ち会い時に陰性証明書の提出を求められるなど煩雑な手続きが必要だったり、そもそも立ち会いが禁じられたりした。

こうした課題にロジスティードは、量子科学技術研究開発機構やDAHERとも密に連絡を取り合って対処した。


フランスの輸送プロジェクト元請け企業DAHERの意見を取り入れ、固縛は入念に強化された(ロジスティード提供)

TFコイル輸送プロジェクトを振り返って

量子科学技術研究開発機構からITER国際核融合エネルギー機構に出向し、フランスでTFコイル輸送プロジェクトの管理を担った井口将秀ITER国際核融合エネルギー機構Mechanical Engineerは「ITER国際核融合エネルギー機構、量子科学技術研究開発機構、DAHER、ロジスティードと、関係組織いずれも成功させようという思いは同じだった。毎週あるいは隔週で定期的に協議を重ね、お互いの考えを理解し合うことで、より良い輸送プロジェクトを創り上げていくことができた」と回想する。

井口氏が印象的だったエピソードとして挙げるのは、1基目を出港する際のDAHERの慎重姿勢だった。このときはDAHERも作業監督者を神戸港に派遣しており、同社から固縛をさらに強化した方が良いのではという提案がなされた。

その時点でも固縛の強度は十分に確保できており、コストとの兼ね合いを考えるとさらに強めるのは過剰品質になるのではとの異論もあったが、最終的にはDAHERの案を採り入れてストッパーの数を増やした。

多くの日本人の間では、日本企業の方がフランス企業よりも品質管理などに慎重な傾向が強いイメージがあるが、そうしたイメージとは異なる実像が垣間見えたように感じられる。

輸送も念頭に立地を選定

ITERでは建設サイトの立地自体が、建設過程でどのようなサイズの重量物が輸送されてくるかを踏まえて選定されている。輸送困難なものは部品を輸送し、現地で製作するなどの対策を取っている。その点では、ITERはプロジェクトそのものが、一定水準まで輸送最適化されていると言える。


ITER建設サイトの全景。世界各地から大型重量物を運び込みやすい立地を選定した(ITER国際核融合エネルギー機構の動画「ITER 世界最大のパズル」より)

一方で、実験炉を構成する機器類の輸送は、今回が世界初の挑戦となったものも少なくない。そのためTFコイルの輸送経験もITER関係者には広く共有され、参考にされている。ITER国際核融合エネルギー機構の井口氏は「今回よりサイズの大きなユニットを造ると在来船で輸送が難しくなるので、ITERの次の段階として実用タイプの原型炉を開発する際には、この点を踏まえた設計が必要ではないか、といった意見も出されている」と一例を挙げる。

TFコイルに関しても井口氏は「今回は必要な性能を発揮することを最優先に設計されているが、次のプロジェクトがあれば、輸送最適化も織り込んだ設計(デザイン・フォー・ロジスティクス)を提案するなど、学びを活かした進歩もあり得るだろう」と語る。

プラントフォワーディングの人材育成

ロジスティードは、こうした大型重量物の国際輸送を担う人材を、どのように育成しているのだろうか。フォワーディング事業戦略本部フォワーディング営業部の栗原副部長は「まずは、社会的に大きな役割を果たすというマインドを持ってほしい」と強調する。

基本的な知識やスキルは社内教育プログラムで、見積もりの作成方法から、吊り上げ、固縛用のワイヤーの選定方法や強度計算といったエンジニアリングまで学習するが、プラントフォワーディングで扱うのは量産品ではなく、1件1件が特注品であり高価値製品だ。

包括的に対応するには、貿易、輸送手段、プロジェクトを安全に遂行するためのエンジニアリング力、見積もりや契約に盛り込む諸条件を判断する商務スキル、英語力、諸外国の商慣習への理解、グローバル志向のマインドなど、多岐にわたって育成しなければならない。

また、現場に出向いて輸送パートナーと一緒に身につけていくノウハウが多いので、若いうちから海外での仕事を積み重ねていく必要がある。栗原氏自身、中東への変圧器輸送プロジェクトを担当した際は、アラブ首長国連邦(UAE)に駐在した経験もある。


ロジスティードの栗原フォワーディング事業戦略本部フォワーディング営業部副部長。TFコイル輸送当時はプラントフォワーディング部部長として責任者を務めた

フォワーディング事業戦略本部プラントフォワーディング部の田中知樹氏は、同部配属後の初案件がTFコイルの輸送だった。担当したのは9基中の7~9基目だったので、既に輸送ノウハウは確立された後だったが、ノウハウ通りに現場業務が進行しているかは確認する必要があったため、国内外の現場に出向いて作業員とも交流を重ねた。

例えば、フランス側のTFコイル陸揚げ港となっているFos sur Mer港では、TFコイルを陸揚げする際、製品や周囲の物品がダメージを受けないよう緩衝材を用意する手はずになっていたが、田中氏が現場に到着したら準備できていなかったことがあった。すぐに指示を出して解決したが、このように言語も商習慣も労働慣行も異なる国々で、現場のイレギュラーに迅速かつ臨機応変に対応する行動力も要求される。


TFコイル輸送担当時の経験を回想するロジスティードの田中氏

並大抵ではない努力が必要で、かつプレッシャーも大きい。だからこそ栗原副部長が強調したように、それらを乗り越えられるだけのマインドセットが出発点となる。

一方、これらの特性は「専門ノウハウが必要なため、属人的になりがちという側面も生み出している」と栗原氏は課題にも目を向ける。「業務の標準化やデジタル化が求められる流れにどう適応させ、引き継いでいくかは今後の重要テーマと言える」。

(石原達也)

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