量子科学技術研究開発機構とロジスティードの中核ユニット超長距離輸送プロジェクト:派生技術でレアメタル調達網を強化
新企画「LOGI-BIZ online Advance」(ロジビズ・オンライン・アドバンス)は、物流が新技術の実用化を支えたり、物流自身の先進的な技術革新を目指したりする動きを追う。初回は世界のエネルギー問題解決につながると期待される人類初の核融合実験炉の稼働を、ロジスティードが量子科学技術研究開発機構と組み、物流面で支えた“縁の下の奮闘ぶり”を紹介した。
核融合発電は日本にとって、「資源」という弱点をカバーするエネルギー源としても期待されていると同時に、その開発過程ではリチウムやベリリウムといったレアメタルの国内調達につながる新技術も生み出されている。
3回目の後編では、締めくくりとして、ロジスティクス本来の意味である「調達・供給戦略」という観点から、核融合技術が日本にもたらす燃料やレアメタルなどの資源調達改革を考察する。
島国・日本でも事実上無尽蔵の燃料があった
現在、日本の主な電力供給源となっている火力発電や原子力発電は、それぞれ石炭・石油・LNG(液化天然ガス)やウランといった燃料を必要とし、日本はそのほとんどを輸入に頼っている。それに対して、核融合に使う資源には、核融合反応が起きやすい組み合わせである重水素(Deuterium)と三重水素(Tritium)が用いられている。
第1回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(前編)
第2回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(中編)
第3回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(後編)

原子核が陽子1個と中性子1個から構成される「重水素」(右側)と、陽子1個および中性子2個から構成される三重水素(左側)。両者を融合させる核融合反応を、頭文字をとってDT反応と呼ぶ(イメージ、ITER国際核融合エネルギー機構の動画「ITER 世界最大のパズル」より引用)
重水素は1tの海水中に33gと豊富に含まれているため、海に囲まれた日本にとっては、輸入に頼ることなく調達できる。一方、三重水素は自然界では希少なので、核融合反応時に飛び出してくる中性子を、レアメタルの一種であるリチウムに衝突させて、次に使う三重水素を生成する方法が採られている。
リチウムは、身近なところではスマートフォンやノートパソコン、電気自動車などの充電用バッテリーに使われている。陸上で採取できるのは南米、オーストラリア、中国、米国などに限られ、日本は100%輸入に頼っているが、海水中には豊富に含まれているので、海水からの回収技術を確立すれば、日本は核融合に必要な燃料を、周囲の海から実質的に無尽蔵で調達できるようになる。
ただ、実現に至る道筋はもちろん平坦ではない。課題は、海水に含まれるリチウムの濃度が非常に低いことだ。海水の主要塩分であるナトリウム濃度は約1万ppm(1ppm=濃度100万分の1)=1%に達しているが、リチウムの濃度は約0.17ppmしかない。海水からリチウムのみを効率的に採取する技術が必要となる。
リチウム調達コストを輸入額から半減
そこで量子科学技術研究開発機構は、リチウムを選択的に分離する膜を生み出すため、イオン伝導体に着目。海水と純水の間にイオン伝導体の膜を配置し、その両端に電極を密着させたイオン伝導体リチウム分離法「LisMIC」(Lithium Separation Method by Ionic Conductor)を考案し、海水からのリチウムの回収に成功した。

イオン伝導体を用いたリチウム回収技術LisMIC。海水や使用済み車載バッテリーなど、多種多様なリチウムイオン溶液からリチウムを選択的に分離できる(量子科学技術研究開発機構提供)
LisMICは海水だけでなく、豆腐づくりの凝固剤「にがり」まで含めた、さまざまなリチウム溶液に応用できる。その一例として、使用済みの車載リチウムイオン電池の溶液からの回収速度を、従来手法の約200倍まで高めることにも成功した。
この回収速度から試算すると、電池原料となる水酸化リチウムを純度99.99%の超高純度で、平均輸入価格である1kg当たり1287円(2020年度貿易統計より)の半分以下の製造原価で回収できることから、電気自動車などのバッテリーに使うリチウムの国内循環利用という形で、核融合以外の産業にも応用できる可能性が見えてきた。
量子科学技術研究開発機構のエンジニアとしてLisMICを開発した星野毅氏が2023年7月、LisMICを用いてリチウムの回収ビジネスを手がけるスタートアップLisTieを設立するなど、既に早期の社会実装を目指した動きも始まっている。

これまで産業廃棄物として処理されていた車載用バッテリー内の残留リチウムを、回収・再利用する道筋が見えてきた(同)
低コストのベリリウム精製技術も誕生
核融合の派生技術では、リチウムとは別のレアメタル「ベリリウム」の調達技術も生み出されている。先述のように、核融合反応の燃料の一つ三重水素は、自然界では希少なので、核融合反応時に飛び出してくる中性子をリチウムに衝突させて、次に使う三重水素を生成する。
ところが、核融合反応で生じた中性子1個から三重水素1個を生成していては、リチウムに当たらない中性子があったり、三重水素を全量回収できなかったりした場合に、三重水素の量が減っていってしまう。そこで、中性子の数を増やすために使われるのがベリリウムだ。
ベリリウムは中性子との核反応で、中性子を2個発生させる。核融合炉の建設・運転プロジェクト「ITER」(イーター)では、ベリリウムを「中性子増倍材」として使うことで、使用した三重水素より多くの三重水素を生成する技術のテストも計画されている。
ベリリウムはこれ以外に、レーザー反射率、X線透過率、音の伝播速度などに優れ、軽量で高強度という特性も備えているため、産業ではミラー、X線透過機器、スピーカー振動板、航空宇宙分野などで使われている。

レアメタルの一種、ベリリウム(同)
量子科学技術研究開発機構では、ベリリウム精製に際し、アルカリ溶融技術とマイクロ波加熱を組み合わせることで、溶融に必要なエネルギーを従来の1000分の1に低減し、常圧下で溶解することに成功しており、この技術は他のレアメタル精製にも応用できる。量子科学技術研究開発機構で核融合関連技術の開発を担う第3研究企画室は「従来よりずっと少量のエネルギーでレアメタルを精製できるプラントの実用化につながるのではと期待されている」と、その意義を強調している。

常圧下で溶融させたベリリウム。精製に要するエネルギーを従来技術より大幅に低減させられる。他のレアメタルにも応用できるため、資源ロジスティクスの大きな支えとなり得る。赤色の点は赤外線による測温点(同)
核融合エネルギー時代の物流ビジネスを考えよう
核融合実験炉の組み立ては2020年に始まっており、現状では35年に重水素同士を融合させる核融合の実験運転を開始、本命となる重水素・三重水素融合(DT反応)は2039年に運転を始める計画となっている。その最終目標は、DT反応により入力エネルギーの10倍となる50万kwの出力を400秒程度持続させることだ。
一方、ITER計画の進捗なども踏まえて、日本独自の核融合炉開発計画も動き出している。内閣府は2023年4月、商用化を前提にした核融合(フュージョンエネルギー)の「原型炉」の早期の開発、産業化・実用化を目指す「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定。さらに2025年6月には、2030年代に世界に先駆けて発電実証を目指すとするスケジュールを明記した改訂版を発表した。
世界に目を向ければ、米国、中国、英国などもそれぞれに国家戦略を策定し、核融合エネルギーの産業化に向けた取り組みを進めており、米国ではスタートアップなども参入して活発な開発競争を繰り広げている。
2030年代と言えば、2025年末現在から最大でも14年程度の未来だ。まだまだ先の話だと思うなら、逆に14年前ごろを振り返ってみよう。物流業界ではアマゾン・ドット・コムが2012年にKiva Systems(キバシステムズ)を買収してAGVを大量導入、今に至る物流拠点のロボット化トレンドを本格化させた時期に当たる。
中国では経済発展に伴い消費購買力が増大、スマートフォンの普及による「スマホ社会化」も加わってEC市場が成長し、アリババや京東(JD.com)といったEC大手が物流拠点のロボット化・自動化を推進し始めた時期でもある。
中国におけるロボティクスやAIなどのフロントランナー都市であり、2010年代末にはチャイナ・イノベーションの舞台として日本でも話題になった深圳が、「赤いシリコンバレー」として欧米メディアでフォーカスされ始めたのも2012年頃だった。HUAWEI(ファーウェイ)の半導体、BYDのEV、DJIのドローンと、深圳は今なお地政学的にも焦点となっている中国ハイテクの一大中枢であり続けている。
こうした史実を見れば、14年は「今既に始まっている動きが、大規模化するのにかかる」程度の時間だと言い切っても過言ではないだろう。
当然ながら、核融合は実験炉の建設だけでも3兆円を超えると見込まれる巨額の開発費用に見合うだけの経済性をどう確保するのか、これまで紹介してきた高難度の技術をいかに確立するかといった課題が存在することはしっかりと認識しなければならない。
ただ、2025年9月に三井住友銀行や日本政策投資銀行、三井物産、三菱商事、商船三井、NTTなど日本企業12社が米国の核融合スタートアップ、コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)に総額8億6300万ドル(約1200億円)を共同で出資したことを発表するなど、「地上の太陽」とも呼ばれる核融合発電の可能性に懸ける動きが官民で相次いでいる。
核融合エネルギーが産業化され、資源の貿易構造や、派生技術がレアメタルなどの供給網を変えていく時代に向けて、どう自社の物流ビジネスを組み立てていくか。物流業界としても考え始めても早くはない時期だ。

CFSが開発中の実証炉(商船三井などのプレスリリースより引用)
ITER国際核融合エネルギー機構の動画「ITER 世界最大のパズル」(日本語版)。核融合実験炉建設の様子が、実映像とCGで紹介されている。なお、建設スケジュールは動画公開後に改定されている
第1回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(前編)
第2回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(中編)
第3回・「人工太陽」核融合発電を物流で支える(後編)
(石原達也)











