【注目連載!】戦略のリスクを可視化する 国際政治学者・和田 大樹氏

【注目連載!】戦略のリスクを可視化する 国際政治学者・和田 大樹氏

第2回 「9.11」から25年、アフリカでうごめく国際テロの脅威に警戒せよ

ロジビズ・オンライン独自の新連載、リニューアルスタートの第2弾は、経済成長が続き新たな市場としても注目されるアフリカの危険な実態に迫ります。2001年の米同時多発テロから四半世紀が過ぎ、世界のテロの中心地がアフリカの「サヘル地域」になっていることは日本としても決して見過ごせません。その詳細と対処方法をぜひご確認ください!

プロフィール
和田 大樹氏(わだ・だいじゅ)
国際政治学者。1982年生まれ。米国ダウ・ジョーンズ社傘下の地政学リスク分析組織オックスフォード・アナリティカ、英国Gatehouse Advisory Partnersなどで外部有識者として参画。海外のコンサルティング会社に地政学インテリジェンスを提供する企業Strategic Intelligenceの代表取締役CEOを務め、シンガポールの研究機関で特任教授、スリランカの外交シンクタンクで上席研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障政策など。

進出企業には無視できないリスク

2001年9月11日に発生した米国の同時多発テロから四半世紀が経過し、国際社会のテロ対策は大きな節目を迎えている。過去25年の間に、米国をはじめとする有志連合による徹底した掃討作戦や情報戦が展開された結果、国際テロ組織のアルカイダや過激派のイスラム国(IS)の中東地域における中核組織は、かつてのような大規模な統治領域や組織的統制力を大きく減退させ、勢いを失っている。



しかし、国際的なテロの脅威が完全になくなったわけではない。むしろ、かつての中東中心の構図から、テロリストたちの活動拠点は地理的重心を大きく移動させ、現在ではアフリカが国際テロの中心地となっている。

この地理的重心の移動において最も顕著な地域が、サハラ砂漠南縁に位置する半乾燥地域「サヘル地域」である。外務省の公式ウェブサイトによれば、どこまでを地域に含めるか厳格な定義は存在しないが、主にモーリタニア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、カメルーン、チャドの8カ国を指すと説明している。


アフリカの「サヘル地域」が国際テロの中心地に

マリ、ブルキナファソ、ニジェールなどの諸国を中心に、サヘル地域は現在、世界のテロ事件の死者数が集中する最大の震源地と化している。この背景には、歴史的なガバナンスの空白や国家統御の未熟さに加え、慢性的な貧困、急速な人口増加、気候変動による砂漠化と水・農地を巡る先住・遊牧民間の紛争といった複合的な構造的脆弱性が存在する。

アルカイダ系の「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」やイスラム国の大サハラ州(ISGS)などの系列組織は、こうした国家の統治が及ばない地域社会の不満や亀裂に巧みに入り込み、地域住民の保護や物資の供給を装うことで巧みに勢力を拡大してきた。直近の今年6月にも、ニジェールの首都ニアメーの国際空港が襲撃され、海外メディアによれば治安要員や民間人10人以上が死亡した。JNIMが犯行声明を出したという。

さらに、サヘル地域における治安悪化に拍車をかけているのが、近年の急激な地政学的変動である。マリやニジェール、ブルキナファソなどでは軍事クーデターが相次ぎ、旧宗主国フランスをはじめとする欧米の軍隊や国連平和維持部隊が撤退を余儀なくされた。その一方で、ロシアの民間軍事組織が新たな治安パートナーとして進出するなど、大国間の思惑が交錯する中で統制の乱れや治安の空白がさらに拡大している。



また、西アフリカのサヘル内陸部から、ベナンやトーゴ、コートジボワールといったギニア湾岸の沿岸諸国へのテロの波及・南下も深刻な懸念材料となっており、脅威は特定の内陸国に留まらず沿岸部へと着実に拡大している。

一方、東アフリカにおいても、ソマリアを拠点とするアルカイダ系のイスラム過激派「アル・シャバブ」が依然として周辺国を含めた深刻な脅威であり続けている。アル・シャバブはソマリア国内でのテロ攻撃にとどまらず、隣国ケニアやウガンダなどへも越境して治安部隊や外国人を標的にした襲撃を行っており、東アフリカ地域全体の安定を大きく揺るがし続けている。このように、アフリカ大陸の異なる地域で、それぞれの固有の社会背景や紛争の文脈を狡猾に利用したテロ組織が根を下ろしており、国際社会におけるテロの震源地はアフリカへとシフトしている。

こうしたテロの地理的拡散と深刻化は、現地に進出していたり、今後の市場拡大を見込んで新規進出を検討したりする日本企業にとっても、決して無視できない重大な経営リスクである。かつてのアフリカビジネスにおけるリスクといえば、一般的な犯罪被害や政治的流動性が中心であったが、テロのリスクがグローバルに拡散する時代においては、テロ組織による外国人の誘拐、治安施設や経済インフラへの直接攻撃、サプライチェーンの寸断といった極めて深刻な脅威が存在する。

特に、資源開発や大規模インフラ建設、さらには現地での販売網拡大を目指す製造業や商社などにとって、従業員やその家族の生命・安全を守ることは最優先事項である。現地に展開する日本企業および赴任・出張するビジネスパーソンには、これまで以上に高度で多角的な安全管理と細心の注意が求められる。

具体的な対策としては、現地の治安情勢やテロ組織の最新の活動動向に関する情報を、公的機関や専門のセキュリティ企業から常時かつ迅速に収集することが不可欠である。また、移動時のルートを固定化しない、防弾車両や警備員の同行といった警備体制を厳格化する、不必要な夜間移動や人が多く集まる商業施設・宗教施設への立ち寄りを原則禁止する、さらにはオフィスや宿舎における物理的セキュリティを強化することなどが挙げられる。

外務省も公式ウェブサイトで「貧困、国家機能の脆弱(ぜいじゃく)さなどにより、武器・不法薬物等の不法取引、誘拐等組織犯罪の温床となっています。さらに、2011年のリビアの体制崩壊の結果、武器・弾薬がサヘル地域に流出し、テロリストによる武器入手がより容易な状況となっています」と指摘する。テロの脅威が個別の地域社会の亀裂や日常のビジネス環境へと複雑に影を落とす中、経済活動の継続と安全確保の両立を図るためには、組織全体でリスク管理体制を徹底的に見直し、常に最悪の事態を想定した周到な備えを維持することが求められている。



(了)

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