「いかに働きがいを生み出すかにシフトしなければ」

「いかに働きがいを生み出すかにシフトしなければ」

ヤマトHD経営構造改革発表会見詳報②

ヤマトホールディングス(HD)の長尾裕社長ら経営幹部は1月23日、東京都内で記者会見し、傘下のヤマト運輸など8社を再編、本体に統合し純粋持ち株会社から事業会社に移行するなどの大規模な経営構造改革計画を発表した。会見での長尾社長らの質疑応答の発言内容を4回に分けて紹介する。

「マネジメント層がお客さまと離れつつあるのではないか」ヤマト会見詳報①
「いかに働きがいを生み出すかにシフトしなければ」ヤマト会見詳報②
「いったん『1つのヤマト』作り上げて大企業病を打破する」ヤマト会見詳報③
「状況は小倉昌男氏が懸念していた時代よりかなり深刻に」ヤマト会見詳報④

デジタル化が全ての下地に

――働き方改革の現状をどう認識しているのか。中国の新型ウイルス感染が広まっている。御社も武漢に拠点があると聞いているが対応は。
長尾裕社長
「決算の発表などでも、定量的な数字をかなりお示ししているつもりだが、この1年も着実に、前期と比べても時間の短縮は進んでいると認識している。当然、今業務量としては少し物量が伸びていないが、にもかかわらずしっかりその体制は作ってきているので、現状としては少し業務量から見ると人の方が多いかなという部分はあるにしろ、しっかりまずそこの器を作ることが非常に大事だろうと思っている。よって、そういう意味では時間という意味では非常に進捗してきたし、特に中核会社のヤマト運輸の第一線の営業拠点の中の、環境をどう整備するかということに関しても、この数年でかなり進んできたという認識は持っている」
「ただ、大切なことはそろそろ時間だけではなくて、いかに働きがいを生み出すかということにシフトしなければいけないという認識を持っているので、そういう意味でも今日申し上げているプランは、その第2フェーズに入ろうということも含んでいるということで、ご理解いただきたい。まさに現場の在り方をどう変えていくか、どうしても当社は全てを宅急便の現場の第一線で、全て完結させようということがかつて成長期の仕組みだった。私も長いこと現場にいたが、やはり全て営業から安全からサービスからP/L(損益計算書)から全部を現場で完結するという文化の中で育ってきた。ただ、やはりこれからはまさにそのあたりを大きく見直さなければいけないというふうに考えているので、これから実行していく改革はまさに、社員の、特に第一線の社員の働きがいをどう作るかということにも直結するのではなかろうかと考えている」
「そのためには、先ほど申し上げたように、やはりデジタルベースに変えていくということをやっていかないと、なかなかスピーディーに、そして的確な手が打ちづらいということになるので、まさに当社のこれからの経営の中では、こういうデジタル化、そしてデータを活用するということは、全ての下地になると考えている。

芝﨑健一副社長
「新型ウイルスの件、グローバルの担当が現在事実関係その他について確認中。うちの社員が今のところ罹患だとか、家族関係者が、ということは全くないが、今後どうしていくかということについては、現在検討中であり、武漢そのものに現在直接雇用の人間がいるかどうかということについては手元に資料がないので、後ほど広報からお答え申し上げたい」

――新配送サービスの内容をもう少し詳しく教えてほしい。
長尾社長
「どういう問題意識を持っているかということを申し上げると、やはりわれわれの現状の宅急便は、かつて翌日配達ということで設計してきたし、基幹となるデータと、そのデータ処理の仕方も、そういう翌日配達、日の単位のサービスを差し上げるのに最適な仕組みだった。ただ、もうかなり前から当社は時間帯お届けサービスというような、日だけではなく時間のサービスを差し上げている。今もクロネコメンバーズなどを通して、あらかじめお届けの予定時間をご案内したり、それに対して変更を受け付けたりすることも実行しているが、実は非常にあらかじめ数時間前に変更の受付を締め切らないと、ドライバーまで伝えることができないというような、少しデータをバッチ処理するがゆえに、なかなかお客さまの、もう少しぎりぎりまで変更したいとかそういうニーズに対して、お応えができないことがいろいろ散見されている」
「よりタイムリーに、お客さまにデータををご提供できる、または受け取る時間とか受け取り方、こういったものもより受け取る直前まで選ぶことができる、そして昨今、話題となっているような置き配という配達の仕方も、ただ単にサービスを提供する側の不在にしたくないという論理で置いて帰るのは違うと思うが、受け取るお客さまのニーズに沿って、その安全をある程度担保する仕組みを合わせてご提供できるのであれば、今のeコマースは非常に増えてきた、そしてこれが利便性高まっている現在の状況の中では、そういったサービスも必要なのではなかろうかと考えている。そういったことをちゃんと実装可能なサービスのご提供を始めないといけないと思っている」
「これはやはり、SD(セールスドライバー)がご提供するというよりも、違う戦略でご提供することも含め、4月から順次、エリアを決めながら展開していきたいと思う。今申し上げたような、少しアジャイルにはなっていくが、いわゆるリアルタイムの基盤データ、基幹システム、このあたりはたぶん秋口くらいからそういう、よりタイムリーなデータの返し方ができるようなものも少しずつ実装していけると考えているので、順次春以降、そういう今のeコマースの受け取り方によりフィットしたサービス形態をご提供し始めたい」

家族向け引っ越し再開の見通しは立たず

――大口顧客に対する運賃施策への反省と今後の対応はどう変わっていくのか。
長尾社長
「私は、より深刻に捉えているのは、大口のクライアントへのプライシングによっての離反という問題よりも、小口のお客さまに対してのプライシングの方だ。まさに新しい事業本部のセグメントで申し上げると、いわゆるリテールの領域。要は宅急便のSDが普段向き合っているお客さまのプライシングに対して、やはり当初、われわれが想定していた水準よりプライシングが上がっているのは間違いない。この部分によっての離反しているお客さまの中身は、いろいろと分析しているが、そちらの方が深刻かなと思っている。よってこの部分はやはり、もう一度、それこそ今回のプランの中でも申し上げているように、SDがお客さまともう一度向き合える環境をつくり、これは時間をかけながら取り戻していくしかないなと思っているが、再度関係構築をしっかりと図っていきたいと考えている」
「そういう意味では、第一線のSDのプライシングに対しての動きに対し、お客さまの反応が芳しくないことを、本来であればちゃんとそこの状況を見ながら、適切なプライシングをすべきだった。そうなっていないということに関しては大きな反省がある。逆に、大口のお客さまに対してのプライシングに関しては、かなりコストに対して、適正なラインをご提供さしあげるということを、これはやはり常にある程度、適正なプライシングをしていくというのは、引き続きやるべきだとは思っている。問題は、先ほど来申し上げている、提供しているサービスの中身と、それを提供するためのコスト、そしてプライシングがある程度、よく再構築しなければいけないのではなかろうかという、また別の課題だろうと考えている。

――引っ越しの不祥事。単身向けは再開しているが、それ以外の対応はどうするのか。
長尾社長
「正直に申し上げて、今のヤマトホームコンビニエンスの体制では、単身の引っ越しは一部地域から再開させていただいて、少し地域を広げていこうというフェーズにはあるが、家族引っ越しを再開するのはかなり難しいと思っている。なぜかというと、家族向け引っ越しを提供するためには、やはり社員、いろんな技能を持った写真が必要。当然ながら家の中の物を梱包したり、運び出したりすることがあるから、運び出すことができてもやはり主婦の方に代わって梱包するような部分は、ある一定数社員は残っているが、全国で大きく再開をできるのかというと、現状ではまだ少し難しいのかなと考えている」
「そういう意味では、なかなか皆さまに引っ越し事業の今後をどうするのかということを明確にお話しできなくて申し訳ないが、ちょっと私は、もう少し時間をおいて、これは新しいセグメントで言うとリテールの領域になると思っている。個人のお客さまに向き合う事業として、どうあるべきかの精査を今進めているので、現時点ではそういう見解にある。よって、法人向け引っ越しサービスはいわゆる家族引っ越しになるので、単身引っ越しの領域であればご提供さしあげるが、家族引っ越し再開の見通しは立っていないとご理解いただきたい」

(藤原秀行)

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