改正特措法に規定なし、感染症法も長期間は想定せず
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が全都道府県を対象に発令している緊急事態宣言は4月30日で2週間が経過した。新たな感染者数は欧米のような爆発的な増加を回避しているものの、政府が期待するほどには抑制できていないため、期限の5月6日から延長される公算が大きくなっている。政府は今週中に専門家会議を開催し、意見を聴取した上で早急に判断する見通しだ。
物流業界では、政府が人の移動を抑制するためのより強い対応として、道路封鎖を検討するのではないかとの懸念がくすぶっている。しかし、緊急事態宣言発令の根拠となっている改正新型インフルエンザ等対策特別措置法には、そもそも感染拡大を抑えることを目的として政府や都道府県知事が一般道や高速道を封鎖することを認めた規定はない。
一方、感染症法は新型コロナウイルスなど「一類感染症」のまん延防止へ緊急の必要がある場合、都道府県知事がウイルスに汚染されたり、汚染された疑いが認められたりする場所の交通を72時間以内に限り制限・遮断できると定めている。だが、この措置はあくまで消毒を目的としているため、1カ月といったような長期間、広範囲を対象に実施することは想定していない。
国土交通大臣や都道府県知事ら道路管理者は道路法で、警察官らは道路交通法でそれぞれ道路の通行規制の権限が与えられているが、工事を行う場合や災害で道路が危険な状態になっている場合などが対象で、感染症拡大が対象に該当するとは明記されていない。今回の新型コロナウイルス感染拡大防止を直接の目的に掲げ、長期にわたり広域で道路封鎖を実施するのはハードルが高いのが実態だ。
国交相は「物流確保が極めて重要」と国道の通行規制に否定的
観光地では域外から観光客が車で多数訪れることにより人々が密集する状態が生まれているため、全国知事会は4月23日、政府に対し、大型連休中の人の移動を最小限にとどめることを狙いとして、国管理道路の通行規制や駐車場の利用禁止など関連する法令の特例措置を講じるよう提言した。
感染拡大の状況によっては、今後、政府が特措法の改正などを議論する可能性が残されている。しかし、赤羽一嘉国交相は4月24日の閣議後記者会見で、全国知事会の提言に対し、駐車場閉鎖については観光客の利用が大半で物流への影響が小さい箇所を対象に応じる考えを見せた一方、「物流を確保することは極めて重要であるという観点から、全国の国道の通行規制は現実的に大変難しい」と否定的な見解を示している。
法改正の前段として、国が都道府県知事ら地方自治体の道路管理者や高速道路運営会社などに対し、移動制限などへの協力を要請する可能性も否定できない。既に国交省は高速道路会社に、大型連休中にSAやPAのレストランや土産物店に営業自粛を呼び掛けるよう要請、高速道路会社も受け入れている。
ただ、人や物の自由な移動を抑制するのは国民の私権制限にストレートにつながるだけに、政府としては慎重にならざるを得ない。物流への影響も大きいことが見込まれ、現状では仮に緊急事態宣言を延長した場合、特定のエリアで通行制限の動きがあったとしても、すぐに長期間にわたって広域の道路封鎖が行われる確率は極めて小さいとみられる。
(藤原秀行)