【独自連載】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

【独自連載】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

第39回:今こそ強靭なエネルギー安全保障の確立に動くべき時

国際政治学に詳しく地政学リスクの動向を細かくウォッチしているジャーナリストのビニシウス氏に、「今そこにある危機」を読み解いていただくロジビズ・オンラインの独自連載。39回目はホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、全世界が注目している中東情勢に絡んで、検討すべき課題を指摘します。ぜひご一読ください。

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プロフィール
ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。

北米や北極海に目を向けよ

中東情勢の混迷が深まる中、石油資源の大部分を中東に依存する日本にとって、供給源の多角化は喫緊の国家課題だ。これまでの日本は、地理的な制約や経済的効率性を考慮し、あえて中東という地政学的リスクの火種を抱えた地域にその運命を委ねてきた。しかし、昨今の中東情勢を考慮すれば、積年の脆弱性を克服し、今こそ強靭なエネルギー安全保障を確立するための大胆な政策転換に踏み切るべき時だ。



日本が最優先で取り組むべきなのは、米国およびカナダからの輸入を大幅に拡大し、環太平洋供給網を構築することである。北米からの石油調達は、政治体制の安定性において中東の比ではなく、宗教対立や地域紛争に翻弄されるリスクを大幅に排除できる。シェール革命を経て世界最大級の産油国となった米国に対し、日本政府はWTI原油などの輸入量を倍増させるべく、民間企業による長期契約の締結を強力に後押しすべきである。同時に、カナダのオイルサンド由来の原油を西海岸のパイプラインを通じて安定的に輸送する体制の確立を急がねばならない。

特にアラスカ産原油の再評価は、戦略的に極めて重要である。アンカレッジ近郊から日本までの輸送日数は約10日前後と中東航路の半分以下であり、輸送コストの削減のみならず、有事におけるタンカーの回転率向上にも直結する。日本は、アラスカの北極圏野生生物保護区(ANWR)などにおける新規開発プロジェクトへの日本企業の参画を支援し、米国政府に対して同盟国への優先供給を安全保障上の特例として認めさせる外交交渉を粘り強く展開すべきである。

この北米シフトは、シーレーン(海上交通路)の安全性を劇的に向上させる。北米ルートは太平洋を横断するだけであり、中国の脅威にさらされる南シナ海や、ホルムズ海峡、マラッカ海峡といったチョークポイント(要衝)を一切通過しない。エネルギー供給経路を他国の干渉を受けにくい聖域に置くことは、日本の生存権を守ることに他ならない。また、調達先を米国に集中させることは、日米同盟を経済的・生存的側面から不可分なものとする戦略的アンカーとして機能し、米国の日本の安全保障に対するコミットメントをより強固なものにするだろう。

地球温暖化による海氷の減少を逆手に取り、北極海の海底油田を開発・活用することも、次世代の柱として位置付けるべきである。世界の未発見資源の約4分の1が眠ると推定される北極海は、もはや過酷な辺境ではなく、日本の将来を左右する資源の宝庫である。日本が誇る高度な深海掘削技術や極低温下での海洋土木技術を世界最高水準に引き上げ、国家プロジェクトとして資源開発を加速させる必要がある。

北極海航路(NSR)の確立は、既存の不安定な航路を回避する革命的な手段となる。スエズ運河やマラッカ海峡を経由せず、北極圏の資源を日本へ直接運ぶことができれば、地政学的リスクを物理的に遮断できる。輸送距離を約4割短縮できるケースもあり、効率化の面でもメリットは計り知れない。

ただし、北極海は沿岸諸国が主権を争い、中国も「近北極国家」を自称して介入を狙う複雑な場である。日本は、法の支配に基づいた平和的利用を国際社会に訴えつつ、自国の高い技術力を交渉のカードとして米国や北欧諸国との共同開発を推進し、ルール形成における主導権を握るべきである。



一方、困難かつ慎重な判断を要するのが、ウクライナ侵攻を続けるロシアとの向き合い方だ。G7(先進7カ国)の一員として厳しい制裁を維持しつつも、地理的に隣接し、既存インフラが完備されたロシア産エネルギーは、日本の国益を考慮すれば、無視できない存在だ。特に「サハリン2」などのプロジェクトは、電力・ガスの安定供給に直結しており、これらの権益を維持することは、ロシアを利するためではなく、日本のエネルギー安全保障を補完する1つのオプションとして捉える必要もあろう。

中東からの供給が停止する事態を想定すれば、最短距離でアクセス可能なロシア産資源は、日本のエネルギー安全保障にとって生命線となり得る。欧米諸国からの反発を招くリスクはあるが、資源なき島国として、自由民主主義の価値観を共有しつつも、国家の存立を賭けた極限のバランス外交を展開し、エネルギーの選択肢を確保し続けるしたたかさが求められるだろう。

(了)

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