【独自】コロナ禍受けたサプライチェーンの変化、物流施設の効果的な配置提案など多角的な切り口で対応

【独自】コロナ禍受けたサプライチェーンの変化、物流施設の効果的な配置提案など多角的な切り口で対応

CBRE・坂口社長単独インタビュー(前編)

米系不動産サービス大手シービーアールイー(CBRE)日本法人の坂口英治社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。

坂口社長は、新型コロナウイルスが世界的に感染拡大して生産の一時停止や物流混乱、原材料調達難などが発生している現状を踏まえ、工場の立地見直しなどグローバル規模でサプライチェーンを変革する動きが強まる可能性があると展望。施設用地の取得や既存物件の紹介にとどまらず、物流施設の効果的な配置提案といった多角的な切り口で産業界のニーズに応えていく姿勢を強調した。

物流施設に関しては「賃貸や売買の仲介、不動産管理、建築コストをいかに落とすかというプロジェクトマネジメントなど、ほぼ全てのサービスを提供できる体制になってきている」と語り、業容拡大に自信を示した。インタビュー内容を前後編の2回に分けて紹介する。


取材に応じる坂口社長(中島祐撮影)

日本の賃貸物流施設市場に黎明期から金融面で携わる

――最初にCBRE日本法人の社長に就任されるまでの経緯をあらためてお聞きしたいと思います。三井不動産やモルガン・スタンレー証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)でキャリアを積まれています。不動産領域にはかなり深く関わってこられたのでしょうか。
「三井不動産では分譲マンションの企画・販売、市街地再開発事業、ビル営業など幅広い業務に関わってきました。バブル経済崩壊で経営環境が厳しくなり、これまでのような発想だけでは駄目だということで、当時の私の上司で担当役員だった岩沙弘道さん(後の三井不動産社長、不動産証券化協会会長)から不動産証券化の勉強を促され、必死に勉強しました。おかげで証券化の法整備に関する政府への提言作成などに関わることができました。そこで投資銀行の方々とお仕事をご一緒する機会が増え、金融についていろいろと教えていただきました」

「三井不動産に入った理由の1つに、もともと英語を勉強して海外で仕事をしたいという思いが強かったことがあるのですが、バブル崩壊で海外事業が縮小され留学制度も厳しくなり、海外に行くチャンスがほぼなくなってしまいました。金融の知識を得られたこともあり、外資系の投資銀行に移りました。今から思えば大胆な決断だったとは思いますが(笑)、それから15年ほど不動産投資銀行業務に携わり、後継も育ってきた中で、CBREから話をいただきました。CBREの方とは誰とも面識がなかったのですが、自分のキャリアを生かせると思い、新しい環境に身を投じました」

――不動産・金融の長いキャリアの中で物流施設に触れるようになったのはいつ頃ですか。
「モルガン・スタンレーに移った際、いろいろあった仕事の中の一つが物流施設関係でした。当時はプロロジスが日本に進出したばかりで、スチュアート・ギブソン氏(現ESR代表取締役)ら、当初から物流施設開発で活躍した外国人2名が在籍され、現日本法人社長の山田御酒さんはまだ入社される前でした。プロロジスとモルガン・スタンレーは米国でビジネスをしていましたから、日本でもそうした賃貸物流施設の先駆けの時期からいろいろとお仕事を手伝う機会がありました。例えば、日本プロロジスリート投資法人が東京証券取引所に上場する際はモルガン・スタンレーが主幹事を務めました。私自身はどちらかというと長い間、金融面で物流施設を見てきましたから、CBREに来て初めて違う立場から関わることになりました。CBREは物流施設に関して非常に強いチームがありますから、チームのメンバーとも議論しながら勉強を続けています」

――Jリートも昨年で20周年ですし、まさに日本の賃貸物流施設市場の黎明期からご覧になってきたという感じですね。別の機会に、ぜひそうした歴史の話もうかがいたいところです。さて、2016年にCBRE日本法人のトップとなられてから約5年が経過しました。これまでを振り返ってどのように感じますか。
「CBREに来た当初は、外資系の出先にありがちなのですが、海外のヘッドクオーター(HQ)からの指示に対して受け身な姿勢だと感じましたね。モルガン・スタンレーで学んだことの一つに、売り上げを拡大し存在感を高めなければ海外のHQからなかなか必要なサポートが得られないということでした。そこでCBREではまず、日本法人の存在感を海外全体の中で高めていき、積極的に自分達のやっていることを発信して必要なサポートを受けられるようにしようと思いました」

「5年前は日本法人の収益は世界の各拠点の中で8番目から10番目の間くらいでした。APAC(アジア太平洋)全体で見ても2位か3位でした。CBREの場合、米国が断トツの1位で、その次が英国というのが不動の順位でした。やはり歴史や事業基盤の厚みが全然違いますからね。それでも、まずAPACで1位になり、そして米国の次に日本が来るくらいの規模にまで成長できればいいなと、漠然とはですが、思っていました。結果としては、早々にAPACで1位になり、2020年には初めて利益ベースで英国を抜いて2位になりました。社員の姿勢も海外に対して受け身にならず、日本のベストプラクティスを積極的に発信していくようになり、かなりメンタリティが変わってきたとうれしく思っています」

「やはりこれもモルガン・スタンレーの時に痛感したことなのですが、外資系企業はすごく個人主義に見えるかもしれないのですが、実際はチームプレーが重要なんです。業績をコンスタントに挙げているバンカーは、仕事を自分だけで完遂する人はほぼいません。良いチームを結成し、規模を大きくしていきながらチームの中で有機的に連携し、収益の成長力を高めています。そういう意味では私が来た時のCBREはまだ個人プレーが目立っていました。部門の縦割り意識も強く、自分が担当している商品だけを売ろうとする傾向があった」

「CBREは会社全体で17のサービスを取り扱っています。自分が担当しているものだけではなく、会社としてサービス全部を売りに行こう、そのためにはどうするか、ということをみんなで考え、チームワークを強化していきました。そのことが先ほどお話しした、日本の収益拡大による地位向上にもつながっていったのではないかと思います」

――日本の不動産が世界の投資家から注目を集める時期と、そうした取り組みを始めたタイミングが重なったことも追い風になったのでは?
「それもありますね。CBREの日本法人は今年で52年目を迎え、日本国内にオフィスを10カ所構えています。外資系とは名乗っていますが、日本でそれほどの規模の支店やオフィスを持っている外資系企業はそんなに多くはないでしょう。実際、われわれの売り上げの7割以上は日本の企業からのものです。インターナショナルな同業他社と比べると圧倒的に日本の会社に対するアクセスの強さが違います。そこは日本法人の前身だった生駒商事の存在が大きい。生駒商事時代からの財産を生かして日本の不動産をいかに海外の投資家に紹介するかというところにもつなげていくことができる。海外投資家のニーズへの対応にも注力しています」

――例えば日本法人と別の地域の法人が協力してグローバルに事業展開している企業へ国をまたいで様々なアセットを紹介するといったように、CBREがグループの地域間で連携することもより重要になってきそうです。
「そこは確かに重要なのですが、率直に申し上げて、まだ取り組みが弱い部分でもあります。そこに至るまでに日本でまずやるべきことが数多くあるという感じですね。ようやく日本でCBREの様々なサービスをパッケージにしてお客様にご提供できる体制が整ってきたので、海外のCBREとのさらなる連携強化は次のステージへ進むためにも必要ですね」

物流施設戦略のコンサルティングまで踏み込む

――17のサービスがあるということですが、その中で社長に就任されてから最も伸びたものは何でしょうか。
「全体的に伸びたのですが、一番大きく成長したのは売買仲介ですね。さらに、オフィスのリーシングも前身の生駒商事の祖業だったこともあり、堅調に成長してきています。ただ、オフィスに関してはもっと日本企業の方々との関係を深くしていく必要があります。当社は企業の規模が大きくなってきたので、何となくですが、社員の間に安心感が生まれてきてしまっているところもあると思います。特にオフィス営業でお客様の開拓を強化しようということでもう1回ねじを巻いているところです」

――物流施設の領域は社長に就任されてから、それこそ激変されたと思います。この5年間の御社の取り組みをどのように総括されますか。
「物流施設に関しては他のアセットと比べると、テナントの数が限られます。デベロッパーが最初に開発される際は、われわれがかなり仲介でお手伝いさせていただくのですが、いったんデベロッパーとテナントの関係が構築されると、どうしてもわれわれがご提供できる価値が少なくなってきます。そこで、私がCBREに来たころからは荷主企業に直接コンタクトすることを始めていました。また、低稼働の工場や遊休地の中で物流適地に存在するものがあればマーケットに素地(開発用地)としてご紹介する、物流施設のアセットマネジメントやプロパティマネジメントでもお手伝いする、といったようにして仲介にとどまらず、物流事業全体の収益を拡大させていこうとしています」

――最近の特徴として、御社が荷主の物流施設戦略支援にまで踏み込んでいる印象を受けます。
「そうですね。お客様に、われわれに対してドアをオープンにしていただくための切り口として、物流施設戦略のコンサルティングを提供し、売買や賃貸といったビジネスにつなげていくことをやっています」

――最近は新型コロナウイルスの感染拡大で、グローバル規模に広がったサプライチェーンが物流混乱や調達難といった打撃を受けることが目立ちます。工場や物流施設の立地見直しにもつながってくる話だと思いますが、どのように対応されますか。
「これまでは製造拠点を海外に持っていくことでコストを最適化してきましたが、コロナ禍で自分ではコントロールできないことが増え、業績に大きな影響を与えるようになってきました。今後は国内回帰の動きも強くなるかもしれません。お客様のそうしたニーズに対し、まずはコンサルティングを行い、そこから派生して必要となる不動産や売りたい不動産のご要望を伺い、迅速にお応えできるようにしていきたいと考えています。そこはまさに、当社にとってのビジネスチャンスです」

「一例を挙げれば、半導体受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に半導体工場を新設すると決めたことが話題になりましたが、これが誘因となり半導体関連メーカーのR&D施設や工場の拡張ニーズが発生し、弊社にとっても大きなビジネスになっています。このような産業政策の変化は半導体以外にも起こる可能性が高く、大きなオポチュニティになるとみています。ここは強くフォーカスして取り組んでいきたいですね」

――それは事業用不動産に多様なニーズがあるということでしょうか。
「これからは物流施設としての開発を想定するだけではなく、データセンターや研究所といった様々な活用方法を念頭に置く必要があるでしょう。海外から工場が国内に回帰するとなれば、その場所が労働力を確保しやすいかどうかといったバックグラウンドのデータも自分たちであらかじめ押さえておく必要があるでしょう。1つの開発用地について、どのような用途でも対応できるよう、データをきめ細かく収集、分析した上で頭を柔らかくしてお客様にご提案できるような体制を作らないといけません」

「われわれとしては先ほど申し上げたように、コンサルティングから始まり、賃貸や売買の仲介、不動産管理、建築コストをいかに落とすかというプロジェクトマネジメントなど、物流施設に関するほぼ全てのサービスを提供できる体制になってきています。なるべく世の中のトレンドを早くつかんだ上で、お客様のニーズにフルスペックで対応し、チームでどのようなソリューションを提供していくかを日々考えています」

「当社のチームにはデータを数学的に分析するデータサイエンティストもいます。物流施設であれば、三大都市圏に加えて福岡や仙台など新たなマーケットが広がっています。そうした新しいマーケットに企業を誘致する上で、どれくらい人口があってどれくらい雇用できるか、といった分析も併せてやらないといけない時代になっていますので、そうしたことが簡単にできるような仕組みも作っていきます」

――雇用を生み出すという意味から地域経済への貢献にもつながりそうですね。
「その通りです」

後編に続く)

(藤原秀行)

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