エネルギー価格高騰や貿易量減少の懸念
ウクライナをめぐる国際情勢が緊迫化し、物流業界にも影響を及ぼしかねない事態となってきた。NATO(北大西洋条約機構)加盟など欧州側への歩み寄りを阻止したいロシアがウクライナへ侵攻するのを回避させるため、欧米諸国による懸命の外交努力が続けられているが、仮にロシアが軍事行動に踏み切った場合、欧米諸国や日本はロシアへ大規模な経済制裁を講じる公算が大きく、ロシアも対抗措置に踏み切るとみられる。
日本や欧州諸国は天然ガスなどのエネルギー供給をロシアに負っている部分もあり、ロシアが強硬姿勢に出ればLNG(液化天然ガス)などの調達が難しくなりかねない。原油価格がさらに上がればガソリンや軽油の高騰で物流業界の負担増にもつながる恐れが大きいだけに、業界を挙げて冷静に情勢を見極めつつ、早急に対応することが求められている。
制裁はハイテク製品の輸出停止など検討か
国内外のメディアが伝えているところによれば、2月22日にはロシアのプーチン大統領がウクライナ東部で親ロシア派が実効支配している地域の独立を一方的に承認し、平和の維持を名目に軍隊を派遣するよう指示。欧米諸国がウクライナの主権侵害などと強く反発している。
岸田文雄首相は同日、首相官邸で記者団に「制裁を含めた厳しい対応を調整している」などと説明、G7(主要7カ国)と足並みをそろえて対応する姿勢を強調した。国際情勢の専門家らは日本などがロシアの一方的な行動を認めれば、東アジアで似たような緊張関係にある中国と台湾の間で、中国がより強圧的な姿勢を台湾に取る可能性があると分析している。それだけに、日本政府としてもG7との協調は基本的に避けて通れないとみられ、ロシアの対抗措置の影響を日本も受けると考えて準備する必要がある。
世界がプーチン大統領の挙動に注目している
首相官邸でウクライナ情勢に関して会見する岸田首相(首相官邸ホームページより引用)
ウクライナは4000万人超の人口を抱え、この地域の最強の穀倉地帯でもあるだけに、ある東欧・西欧史の専門家は「ロシアとしても確保しておきたいのが当然。ウクライナはロシア人の故地なので、ロシアなのは当たり前だと思っている風潮も強い」と指摘。ロシアの強硬姿勢を崩すには欧米側も何らかの妥協策を示す必要があり、外交による衝突回避と緊張緩和にはなお時間がかかると予想する。
そうした東西の対立激化・長期化は、エネルギー事情に直接影響する。例えば、EU(欧州連合)は域内のガス需要の約4割をロシアからのパイプライン経由で調達しているだけに、そのパイプラインがストップすれば、原油など他のエネルギー価格の上昇にもつながる。欧州や日本などの大国間で原油や天然ガスを融通し合うなど対応を迫られそうだ。その場合、LNGなどの輸送についても、代替ルートの確保などが急務となる。
日本では原材料価格の上昇でガソリンや軽油は高値圏でとどまっており、政府による石油元売り大手への補助金供出などの緊急対策も効果は今のところ限定的。ウクライナ情勢が軍事行動に突入すれば、さらに状況が厳しくなることも予想される。既に国際的な原油市場は1バレル=100ドルの大台突破が目前だ。荷主企業と運送事業者が連携し、運送経路の効率化や短縮といった自衛策に、早急に踏み切る必要があるだろう。
欧米諸国や日本が検討する経済制裁の詳細はまだ明らかになっていないが、ロシアが2014年に断行したクリミア併合を受けた国際社会の対応などを考慮すると、ロシア産品の輸入停止・制限、ロシアへのハイテク製品の輸出停止、ロシア要人が欧米の金融機関に開設している口座の凍結などが候補になってくるとみられる。ロシアがなお強硬姿勢を変えない場合は、ドル決済の制限など、より強い措置に踏み切る可能性もある。ロシアとの貿易が減少するのに伴い、国際貿易の取扱量が縮小することが想定される。
例えば、ロシアやウクライナは鋼材や鋼板などの加工材料となる鉄鋼半製品の輸出量が世界のトップクラス。経済制裁のあおりで輸出が滞れば海外からの鉄鋼半製品に頼る内外のメーカーの間で調達や出荷のルートを緊急で変更しなければならない事態が広がる可能性がある。新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた国際的なサプライチェーンがさらに混乱するケースも見込まれ、万が一の事態に備えた行動がさらに重要となってきた。
(藤原秀行)