経産・国交両省が官民検討会議のロードマップ公表、政策推進へ
経済産業、国土交通の両省は3月8日、世界を大きく変えたインターネットの形を物流の世界で再現し、業務効率化や省人化などを図る考え方「フィジカルインターネット」を日本の物流領域で2040年までに実現するための方策を検討する官民の検討会議「フィジカルインターネット実現会議」が取りまとめた、ロードマップ(工程表)を含む報告書を公表した。
この中で、深刻なトラックドライバー不足や業務の非効率、機械化の遅れなど「物流クライシス」と呼ばれる構造問題に有効な対策を講じなければ、各企業活動の停滞などを引き起こし、2030年時点で7.5兆~10.2兆円の巨額な経済損失が生じる恐れがあると試算。
その上で「売上高コスト比率を抑制したいという荷主企業側のニーズと、運賃を適正な水準にまで引き上げたいというトラックドライバーら物流の担い手のニーズが相反するのではなく両立するような、次世代の物流システムを構築することが必要」との見解を表明。フィジカルインターネットの考え方に基づき、共同輸配送や各種データの共有などを徹底し、厳しい状況を打破する必要があるとアピールした。
ロードマップは2025年度までの「準備期」、26~30年度の「離陸期」、31~35年度の「加速期」、36~40年度の「完成期」の4段階を設定。「ガバナンス」「水平連携(標準化・シェアリング)」「輸送機器(自動化・機械化)」など6項目ごとに取り組みの流れを示した。
この中で「物流拠点(自動化・機械化)」については、30年度までを物流DX実現に向けた「集中投資期間」と設定。荷受け・配送管理業務のデジタル化、各種手続きの電子化による入出庫業務の効率化、AIやIoTといった先端技術による物流施設全体の可視化、マテハン導入による業務効率化などを強力に推進する方向性を打ち出した。「2030年代には、人が介在しない完全自動化された物流拠点の登場がより現実的なものとなる」と展望した。
また、加速期に物流・商流を超えた多様なデータの業種横断プラットフォームを構築するとともに、トラックなどの車両や輸送機器、倉庫に加えて製造拠点もシェアし消費者の需要を精緻に予測したり、細かくニーズをつかんだりして最適な生産・物流を可能とする「デマンドウェブ」を実現する姿を描いた。
ロードマップ
ゴールのイメージとしては、車両や物流施設といったリソースを最大限活用し、「究極の物流効率化」を成し遂げていると予想。物流従事者の労働環境適正化、物流関連機器やサービスの新産業創造と雇用創出、ビジネスモデルの国際展開、「買い物弱者」解消なども列挙した。
ゴールのイメージ(いずれも報告書より引用)
最後に、ロードマップを政府レベルで策定されたものとしては、おそらく世界初の試みとの見解を示すとともに「わが国が世界に先駆けてフィジカルインターネットを実現するならば、経済的に大きく飛躍する機会が開けるだけではなく、持続可能な社会を実現する物流システムのモデルを示すことで世界をリードする立場を得るだろう」と強調。
「物流クライシスが深刻化する2030年までは、官民連携により、本ロードマップに従った業種別のアクションプランを策定し、標準化をはじめとする各種の取り組みを徹底的に進めることが望ましい」と提案し、小売や卸などの業種ごとに行動計画をまとめる道筋を設定した。
今後、両省が荷主企業や物流事業者などと連携、フィジカルインターネットの理念実現へ制度設計や具体策作りを本格化させる。
40年に営業用貨物自動車は最悪6割超の供給不足か
報告書は、営業用貨物自動車の需給バランスを推計。基本の「ベースライン」シナリオでは需要に対する供給量の不足と2030年に11.4億トン(35.9%)、40年に17.6億トン(53.5%)に上るとみこんでいる。成長率が上がる「成長実現」シナリオの場合、需要がベースラインより増加する半面、供給量は伸びないため需給ギャップ量が大きくなり、30年に15.9億トン(43.9%)、40年に26.4億トン(63.3%)の供給不足に陥ると試算した。
そうした厳しい状況を克服するためのフィジカルインターネットの具体的な定義として、旧来のコンピューター通信が専用回線で発信端末と着信端末を直接つないで通信していたのに対し、インターネットはデータの塊をパケットとして定義し、パケットのやり取りを行うための交換規約(プロトコル)を定め、回線を共有した不特定多数の通信を生み出したことに言及。「これを模してフィジカル、つまり物流の世界にも適用しようというのが『フィジカルインターネット』の基本的なコンセプト」と明示。
「積み替えを前提として輸送の途中にハブを設け、受け渡しする単位(貨物の規格)を統一し、物流リソースを共有化して物のやり取りをしようというのがフィジカルインターネットの基本的な考え方」と解説。構築することができれば「従来と比較して物流の効率化と強靭化が図られることになる」と展望した。
そのために、物流データの共有、輸送容器の規格統一、共同輸送の拡大、物流拠点の自動化・機械化などを進める必要性を訴えた。
フィジカルインターネットの推進で30年には7.5兆~10.2兆円、40年には11.9兆~17.8兆円の経済効果がもたらされると推計。地球温暖化対策でも30年度に物流領域のエネルギー起源CO2が13年度比で35%削減されると見積もっている。
さらに、デマンドウェブの徹底で需要に合った製品供給を確実なものとするため、食品関連事業者から発生する事業系食品ロスが30年度までに2000年度比で半減すると予測している。
(藤原秀行)