脱着式の冷却装置で異なる温度帯を混載
ユニット単位の自在な温度管理で事業革新
ワコン株式会社
同じ冷蔵品でも惣菜と弁当では適温が違うため、別に車両を仕立てる必要があった。物流資材メーカーのワコンが開発した脱着式冷却装置「エレキング」を採用して混載を実現した。ユニット単位の自在な温度管理を活かした新たな事業展開も構想している。(本誌編集部)
温度管理の制約を取り払う
なだ万は1830年に初代・灘屋萬助が大阪で創業した老舗料理店だ。日本料理「なだ万」を国内外に33店舗展開するほか、弁当・惣菜の販売店「なだ万厨房」を全国の百貨店の食品売場に42店出店している(2022年7月現在)。ギフト品のオンラインストアも運営し、関東・東海・関西エリアでは弁当の配達も行っている。
弁当・惣菜の生産拠点として、首都圏では昭島市と立川市に「厨房所(工場)」を構えている。惣菜は店舗に納品する前日の21時ごろ、弁当は22時ごろに、それぞれ二つの厨房所から冷蔵トラックで都心部にある配送拠点に持ち込む。
ラストワンマイルの配達は軽保冷車を貸し切っている。1日当たりの使用車両台数は通常時で10台~15台、繁忙期には40台近くまで増える。惣菜の管理温度は10℃以下。弁当はご飯が固くなるのを防ぐため、夏場は15℃、冬場は18℃を輸送中も維持するように管理している。
同社のEC事業および物流の責任者を務める星野慎人 食品事業本部食品営業統括部 食品事業推進部課長は「食品会社によっては、弁当が冷たくなっても大丈夫なようにお米自体を加工している。しかし、当社は品質にこだわり、そうした方法をとらない。それだけに温度管理にはシビアにならざるを得ない」という。
なだ万 星野慎人 食品事業本部 課長
しかし、品質へのこだわりが配送効率の点では制約になっていた。同じ冷蔵商品でも、惣菜と弁当では適温が異なる。そのため同じルートでも2台の車両を運行させる必要があったが、軽保冷車の確保が難しく、配達サービスは弁当のみの取り扱いとしていた。
同じ荷台に異なる温度帯商品を混載する手段として、保冷ボックスと保冷剤やドライアイスを使う方法もあるが、それでは大まかに冷蔵と冷凍を分けることはできても、なだ万の求める綿密な品質管理を実現することはできなかった。
昨年春、星野課長は新たな事業のヒントを求めて、食品業界の展示会を見学した。そこで物流資材メーカーのワコンが開発した脱着式の電動冷却装置「エレキング」に目が留まった。
ワコンの脱着式電動冷却ユニット「エレキング」
車両のシガーソケットを電源に−20℃まで対応する
重さ5キログラムの弁当箱サイズの冷却ユニットを断熱ボックスに取り付けることで、0.1℃刻みに設定した温度をいつまでもキープする。惣菜と弁当を一緒に運ぶ方法はないか、ずっと考えていた星野課長は、展示を見てすぐにピンと来た。「これを使えば軽保冷車の荷台にもう一つ別の温度帯を作れる」と膝を叩いた。
温度管理が必要な荷物は年々増えている。しかし、冷蔵・冷凍車は初期投資が大きく、年間を通して安定的に車両を稼働させないと採算が取れない。一方、保冷剤は運用に手間とコストがかかる。運送会社の営業所内に凍結庫を置いて、保冷剤の在庫と温度を常に管理しなければならない。外気の変化に合わせて保冷剤の分量を調整する必要もあり、ヒューマンエラーが発生する。
そこでワコンは、車載のシガーソケットあるいはバッテリーから電源を取る小型冷却装置・エレキングを開発した。エレキングと断熱ボックスをセットにして荷台に積み込めば、常温車両でも簡単に冷蔵・冷凍空間を作ることができる。初期投資が抑えられて、燃費が悪化することもない。ラストワンマイルなどの小口少量輸送に対応して、必要な時に必要な分だけ高品質な低温物流が実現できる。
その利用価値に気付いた荷主からの引き合いが昨年ごろから急増している。冷凍・冷蔵輸送の品質向上だけでなく、「エレキング+断熱ボックス」を運搬可能な冷凍・冷蔵倉庫と位置付け、深夜の無人店舗に納品して店員が出勤するまでの一時保管に利用するなどさまざまな活用法が生まれている。
ワコンがなだ万用に設計した断熱ボックス。軽トラックの荷台に収まり、容易に番重を出し入れできる。なだ万では軽保冷車に利用しているが、常温車の荷台に惣菜と弁当の温度帯を作ったり、冷凍にしたりもできる
ワコンが最適な容器を設計
なだ万の星野課長も「弁当と惣菜の混載が実現すれば、車両の集約によるコスト削減のみならず、配達事業の取り扱いを惣菜にも広げるなど、売り上げ拡大につながる」と期待した。
ただし、なだ万の扱う惣菜は、温度だけでなく輸送中の振動や衝撃にも配慮が必要なデリケートな商材だ。まずは検証が必要だった。折しも、営業を通じて静岡の伊勢丹から、百貨店が商品を買い取るフランチャイズ形式で地下の食品エリアに「なだ万厨房」を出店したいとの打診が入っていた。弁当・惣菜は首都圏の厨房所から運ぶことになる。そのトライアルとしてエレキングをテストしてみることにした。
ワコンが協力して、納品用の番重(ばんじゅう)が2列4段・計8ケース収まる断熱ボックスを設計、番重を出し入れしやすいように観音開きにして、必要な温度帯に合わせて断熱材を調整した(左上写真)。
断熱ボックスに実際に商品を入れて東京から静岡まで走行、温度データロガーで輸送中の温度を測定した。配送テストは問題なくクリア。実績データを基に設定温度や電源を入れるタイミングなどを調整して運用方法を確定した。
21年11月17日、「なだ万厨房 静岡伊勢丹店」がオープンした。以来、エレキングを使用した軽保冷車に弁当と惣菜を混載して毎日、東京から納品している。星野課長は「混載できなければ、毎日2台を走らせるしかなかった。それだと出店の話自体がどうなっていたか分からない」と語る。
現在、エレキングを活用したさまざまなアイデアを練っている。なだ万は昨年夏から「新幹線物流」を利用した新たな事業にトライしている。朝、東京駅で東北新幹線に弁当を積み込み、仙台や秋田まで運んで当日に現地の百貨店で販売している。新幹線内の保管スペースは常温なので現状では保冷剤を使用している。そこにエレキングを使えば温度管理の品質が高まる。電源の確保は容易なのでJRと交渉する余地はある。「今までお届けができなかった地域・お客さまになだ万の料理をお届けできるよう、色々な可能性を探っていきたい」と星野課長は期待している。
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