【独自取材】 東京消防庁統計から読み解く倉庫火災の実態とリスク

【独自取材】 東京消防庁統計から読み解く倉庫火災の実態とリスク

件数は直近10年で最小も焼損面積や被害額が増加

4人が死傷したマルハニチロ物流「城南島物流センター」(東京・大田区)の火災から1カ月余りが経過した。大量の煙を上げて燃える姿は可燃物を多く収めている倉庫の火災リスクが無視できないことをあらためて浮かび上がらせた。

2017年にも埼玉県三芳町で当時アスクルが運営していた物流センターから出火。完全に消し止めるのに10日以上を要し、国が倉庫の防火対策強化に動く契機となったことは記憶に新しい。

近年の倉庫火災はどのような特徴があるのか、そしてどのような点に備えればいいのか。これらを読み解くために倉庫火災の実態をまとめている国内でも稀有な資料、東京消防庁統計「平成30年版 火災の実態」の内容を紹介する。


「城南島物流センター」の火災現場

初期消火失敗で延焼拡大も

調査結果によると、17年に同庁管内(東京23区および29市も町村)で発生した倉庫火災は11件と直近10年間(12年以降)では最も少なかった。しかし焼損床面積(1167平方メートル)、焼損表面積(147平方メートル)、損害額(7422万円)はいずれも前年を上回り、この10年間では初めて死者が出た。自社や顧客の製品を保管するという機能を考えれば、ぼやであっても倉庫火災は影響が小さくないだけにこの数字は決して看過できないだろう。

倉庫火災の動向をより詳しく見てみると、件数自体は12年の40件を境に減少傾向で推移している。17年の火災規模は4段階の中で最も程度が低い「ぼや」(建物の焼き損害額が火災前の建物の評価額の10%未満で焼損表面積が1平方メートル未満)が6件と過半を占めた。

それ以上の「部分焼」「半焼」「全焼」に該当する火災は計5件で、火災件数全体に占める部分焼以上の火災の割合を表す「延焼拡大率」は45.3%と3番目に低い水準だった。調査は延べ床面積が1000平方メートル未満の比較的小規模の倉庫から発生した火災が7件と多かった点も特徴の一つに挙げている。

気になる出火原因は電気設備機器が6件と最も多く、発火源はコード、充電式電池、リチウム電池、電気溶接器、研磨機などが挙げられている。

発見状況は「出火した器具または着火物などが燃焼中」が4件、「立ち上がり燃焼中」が3件など。通報状況は「発見後すぐに通報した」が7件と出火から早い段階で通報されている割合が高く、これに比例するように初期消火が行われた7件のうち4件が成功している。

その一方で「多量の可燃物があり火炎拡大」「通報の間に拡大」「無人または不在」などの理由から、初期消火失敗と初期消火を行えなかったケースがそれぞれ3件あった。前述した17年の埼玉県三芳町の倉庫火災も施設で働いていた従業員による初期消火がうまくいかず、結果として東京ドーム1個分に匹敵するほどの範囲を焼損したことが調査で判明している。調査結果は消火訓練の充実など初期対応に目配りしておく必要性を明らかにしているといえそうだ。


埼玉県三芳町の倉庫火災現場(17年当時)

「工事の際の火花発生」に要注意

同庁は調査結果の中で「商品や資材など可燃物が大量に保管され無人となることが多い倉庫は、火煙が建物外に噴出するまで発見されないことが多く延焼拡大しやすい危険性がある」と分析。また電気設備機器による火災が多い点から、定期的な点検・交換による適切なメンテナンスの必要性を指摘する。

このほか17年にはなかったものの統計的に倉庫火災は放火が原因であることが多く、防犯カメラの設置や入退場できる場所の制限、警備員の配備・増員などセキュリティー対策にも言及している。

最初に触れたマルハニチロ物流の城南島物流センター火災では出火当時に火元とみられる5階付近で冷凍機の入れ替え工事が行われており、工事の元請けである前川製作所の協力会社が配管の溶接作業をしていたことが分かっている。物流業界など一部では溶接の火花が内壁に使われている断熱材に引火し、そこからフロアに燃え広がったとの見方もある。

同庁の調査結果でも溶接・研磨の作業時に発生した火花が周囲に着火したケースが見受けられた。具体的な事例として、倉庫1階のシャッターを取り替える工事の際、シャッターの鉄骨枠を電動グラインダーで切断している時に火花が塗料のかすに着火、ぼやを起こしたことが紹介されている。城南島物流センターの状況は警察や消防による捜査の結果を待たなければならないが、少なくとも火災リスクを低減する上で考慮すべき事柄のようだ。(鳥羽俊一)

東京消防庁「平成30年版 火災の実態」のダウンロードはコチラから

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