日本郵便は投函ビジネスで「見本とすべき相手」

日本郵便は投函ビジネスで「見本とすべき相手」

ヤマトHD・長尾社長が評価、「信書」で激しく対立の過去から隔世の感強く

日本郵政と日本郵便、ヤマトホールディングス(HD)、ヤマト運輸の4社は6月19日、協業の一環として、ヤマトグループが取り扱っているメール便「クロネコDM便」の配送を日本郵便に移管する方針を発表した。

ヤマトは旧郵政省(現総務省)による郵便事業管轄時代から、手紙やはがきなど「信書」の取り扱いを郵便事業で独占していることを批判。民間への開放を求めるとともに、家庭のポストに届ける「クロネコメール便」を始めるなど、国や日本郵便と対立を続けてきた。今回の発表は強硬姿勢の転換を強く印象付け、物流現場の人手不足が「融和」を演出した格好で、隔世の感が強い。


協業の基本合意書に調印した(左から)ヤマトホールディングス・長尾裕社長、日本郵政・増田寛也社長、日本郵便・衣川和秀社長(日本郵政提供)

「日本郵便が保有している、(メール便など)ポストに投函するビジネスの精度の高さや作業の安定性は正直に申し上げて、当社が一生懸命まねしてもなかなかたどり着けない領域だなというのは常々、オペレーションをやりながら感じていた。まさに投函領域の見本とすべきお相手とご一緒できるのは非常に期待している」。ヤマトHDの長尾裕社長は6月19日の記者会見で、メール便配送移管に関連し、率直な思いを語った。

旧郵政省は1984年、宅配便の荷物に同封されていた贈り物のあいさつ文などの「添え状」が当時の郵便法で民間業者による輸送を禁止していた「信書」に該当するとヤマトに警告書を送付。ヤマトの小倉昌男会長(当時)らは猛反発した。この対立を契機に、そもそもの「信書」の定義などをめぐって国とヤマトの間で論争が続けられた。

その後、ヤマトは1997年、A4サイズの荷物を家庭のポストに届ける「メール便」のサービスを法人向けに開始。2004年には個人向けもスタートした。信書に該当しない印刷物などの配達需要を取り込むのが狙いで、割安だったこともあり企業がダイレクトメールなどに活用、一時は郵便の「ゆうメール」と市場を二分する規模まで伸びた。

しかし、手紙やはがきなどの信書がメール便に入っていたことで利用者が郵便法違反容疑で事情聴取されるケースが相次いだため、ヤマトは2015年にメール便のサービスを廃止。代わりに、利用者を法人に絞った新たなサービス「クロネコDM便」をあらためて始めた。メール便は信書をめぐるヤマトの対抗の歴史と言える存在だった。

日本郵政とヤマトHDは今回の協業について、トラックドライバーの長時間労働規制強化に伴い物流現場の混乱が懸念されている「2024年問題」への対応を狙いの1つに挙げている。ヤマトのメール便は2022年度に8億個余りの取り扱いがあったが、前年度からは1割超の減少を記録した。メール便はもともと1個当たりの単価が低く、利幅は薄かった。最近はよりコストを抑えられるインターネット広告の普及や企業の広告費抑制といった逆風も吹いており、中長期的に市場が伸びていくのは厳しい状況にある。

それだけに、ヤマトとしては宅配に経営資源を集中させたいとの思いがあり、郵便物の長期縮小傾向に歯止めがかからない中、荷物の取り扱いを増やしたい日本郵便と思惑が一致した。それに伴い、信書をめぐる対立にも幕が下りることが濃厚となった。

(藤原秀行)

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