プロロジス日本進出20年・山田社長特別インタビュー(後編)
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先進的な物流施設開発を常にリードしてきたプロロジスが、日本法人を設立して日本に本格進出してから今年で20年。この間、eコマースの台頭など物流を取り巻く環境は激変し、物流施設に求められる姿も大きく様変わりしてきた。
同社を率いる山田御酒社長への特別インタビューの2回目は、厳しい開発競争など大波が揺さぶる日本市場で盤石な立場をどう維持、強化していくのかを尋ねた。
今後の事業展開を語る山田氏(撮影・中島祐)
「日本で先駆けて事業展開」の方向性は正しかった
―今年はプロロジスの日本法人設立からちょうど20年です。先進的な賃貸物流施設市場は、御社を核とする外資系企業が率先して開拓してきた、日本でも稀有な分野との印象です。これまでの歩みを振り返ってみて、どう感じますか。
「日本で事業を始めたころは先進的賃貸物流施設がどういうものなのか、なかなかお客さまに認知されませんでした。プロロジスの世界本社がある米国とは異なり、日本の物流企業は当時、自社で投資をして倉庫を建設、保有するスタイルが中心で、賃借する発想自体があまりなかったためです。それから20年が経過して、これだけ競合他社の数が増え、物流施設をメーンの投資対象とするJリートも多く上場しています。まさに隔世の感がありますね」
「今は物流不動産とお話をしても、それは何ですか?と聞き返されることはまずありませんし、ありがたいことにプロロジス自体もどういった事業を展開しているのか、きちんと物流業界などの皆さま方にご認識いただけています。業界団体の不動産協会でも、当社をはじめ物流施設開発を手掛けるデベロッパーが参加する『物流事業委員会』を立ち上げていただきました。物流施設がオフィスビルや住宅、商業施設に次ぐ規模のアセットとして成長してきたことの証ではないかとうれしく思っています」
―日本で賃貸物流施設がここまで広く受け入れられると予想していましたか。
「実は私自身、プロロジス入社以前には米国で工業団地のようなインダストリアルの施設を開発し、証券化して日本の投資家に購入いただく仕事に就いていました。その経験から日本でも間違いなく、いずれはそうした手法が広まっていくだろうと予想していました。“持たざる経営”が標榜され、いろいろな企業が本業と関連の乏しい資産は持たずバランスシート(貸借対照表)を軽くするという欧米流の考え方を重視し、株主から経営がどのように見られているのかを意識し始めたころでした」
「今では日本の企業もフラッグシップとして未来永劫使い続ける資産であれば自分で開発を手掛けるが、そうでなければ借りるという選択肢が一般的になってきました。ちょうどここ10数年でそうした考え方に変わってきていますから、当社が先駆けて日本で賃貸物流施設を展開した方向性は正しかったと思います」
本気で物流コンサルティングに取り組む
―先ほど(前編)も触れましたが、御社は日本で物流施設開発・運営だけでなく、物流に関するコンサルティングという新たな領域に進んでいます。20年を迎えて次のステージを目指そうということでしょうか。
「20年だから始めたわけではなく、たまたまスタートの時期が20年の節目と重なっただけですが、せっかく今まで日本で継続して事業を展開してきてノウハウを積み重ね、先進的物流施設への認知度も高まりましたから、このまま同じことを続けていては全く変化がありませんし、少しずつ変わっていかなければいけません。その方向性の1つがコンサルティングかなと思っています」
「庫内にまで立ち入っていくのはお客さまの領域に分け入っていくということですから、かなり慎重に検討しなければなりません。3PL事業者の方々とは異なり、当社が現場のオペレーションまで踏み込んでいくのではなく、あくまでお客さまが手掛けられるオペレーションの効率化へ何かお手伝いできることはないかアイデアを考える、とのスタンスです。その前提は変わりません」
「ただ、最近は当社の施設に入居いただいているメーカーや小売業の方々から、新たなチャネルとしてECで商品を売りたいと思ってもどうすればいいのかよく分からない、物流をどう組み立てていけばいいか教えてほしい、といった相談を受けるようになりました。当社としても、例えばアッカインターナショナルさんと連携し、同社が展開されているEC物流代行をお客さまにご紹介していく、当社も物流施設活用の面で協力していくといった取り組みを進めています。物流のソリューションに対するニーズがきちんと存在していると感じました」
「そうであればデベロッパーとしても、お客さまの本業をお手伝いできることはある、ぜひお手伝いしていきたいということで、コンサルティング業務を始めた次第です。まだスタートしたばかりですし、進めている案件は“仕掛かり品”ばかりですので成果を出すのはこれからですが、片手間ではなく本気で取り組んでいきます」
―最近は御社もAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった新たな技術を活用しようと注力している印象が強いですが、そこも変革していく方向性の1つということでしょうか。
「確かに新たな方向性だと思います。当社が全国で展開している物流施設をご利用のお客さまの物流オペレーションに関するデータを収集、解析して効率化を提案していくことができれば、お客さまにとっても当社を非常に心強いパートナーとして感じていただけるのではないか。膨大な現場データという材料がありますから活用しないのはもったいない」
「お客さまとしても、信頼できない相手に自分たちの貴重な情報は提供されないでしょうし、そうした信頼を勝ち得ているからこそ可能なプロジェクトだと自負しています。物流施設開発に加えて、最適なテクロノジーも提案できる会社になっていきたい。そのために、常にいろいろと先へ進んでいくということです」
千葉県印西市の「プロロジスパーク千葉ニュータウン」。アッカインターナショナルと連携し、ギークプラス製の物流ロボット「EVE」を活用した庫内オペレーションを展開している(プロロジス提供)
ギークプラス製の物流ロボット「EVE」(プロロジス提供)
「ロボットありき」の省人化ではない
―日本の物流業界で顕著になっている人手不足については、物流施設開発の立場からどのように取り組んでいきますか。
「当社が勝手に設備を入れるわけにはいきませんが、当社の物流施設をお使いになる方からは省人化できるシステムを取り入れた施設にしたいというご要望がかなり寄せられています。例えば、トラックバースの予約システムは当社で導入を始めましたが、今後は各施設で当たり前のように使われていくのではないでしょうか」
「同業他社の中にはロボットメーカーなどと提携されているところもあり、それは確かに1つのやり方だと思います。ただ、当社の発想としてはロボット導入ありきではありません。お客さまがどのような物流システムを構築されたいのか、そのためには何をするのが一番いいのか、関係者ともいろいろと議論しながら検討していくことが大切だとのスタンスです。その時々で最適な手段を選んでいくべきであり、それがロボットの場合もあるということだと思います」
―先ほど(前編で)お話のあった不動産協会の中の物流事業委員会ですが、今後どういったことを協議していきたいと考えていますか。
「やはり一番大きいのは国のさまざまな政策に対する要望をまとめていくということです。そのための協会ですから。ただ、当社もお願いするだけが目的で協会に入ったわけではありません。物流不動産に関わっている人たちが、業界の健全な発展に向けてともに進んでいくというのが本来の目的であり、自分たちだけよければいいということではない。かねて関心を持っている、物流施設が地域の防災にどう役立っていくかといった事柄については、各社いろいろと思いがおありですし、まず委員会で先にできることもありますから、引き続き積極的に議論していきたいですね」
(藤原秀行)