【独自取材,動画】TDKの「ワイヤレス給電」で物流ロボットが“働き者”に成長~動力源から自動化を後押し~

【独自取材,動画】TDKの「ワイヤレス給電」で物流ロボットが“働き者”に成長~動力源から自動化を後押し~

バッテリー切れの心配不要、24時間年中無休の運用が可能

人手不足を背景に現場での省人化・省力化が最大のテーマとなっている物流業界。各社とも長らく人のスキル・経験に頼っていた仕分けやピッキングなどの作業を、どのようにロボット・機械に置き換えていくかで試行錯誤が続いている。

これに呼応してロボットメーカー、マテハンメーカー、FA機器メーカーがさまざまなタイプの製品を投入。機械セクターにおいて物流向けは今後も大きな潜在需要があると見込まれている。その一方でメーカーにとって目下最大の課題となっているのがバッテリー切れ、ケーブル給電による設置・移動の制約だ。

ロボットや産業機器に限らず企業活動・社会経済を維持していくに当たって、基本にして最大の要件は電源の確保といっても過言ではない。物流向けで例えるならば、どんなに優れた高精度なピッキングロボットや高密度な自動ラック倉庫、移動性に優れた無人搬送車(AGV)も動力源である電気がなければ機能しない。

電子部品のグローバルトップメーカーであるTDKはこうしたロボット・機械類のライフラインに着目。バッテリー充電や電源確保の選択肢を広げることで稼働率を向上させるとともに、ロボット・機械類が人の手を借りずに24時間働き続ける仕組みを電子デバイスから構築・実現すべく取り組んでいる。

今年4月に子会社のTDKラムダがAGVや物流ロボットをターゲットとしたワイヤレス給電システム「AirTLans.」(エアトランス)をリリースした。送電用のユニットとコイルユニット、受電用のユニットとコイルユニットの合計4パーツで構成されるコンパクトな平面型のボックスをAGVの側面などに取り付けて使用する。

AGVやフォークリフトの充電で現在主流となっているステーションにドッキングさせる接点方式あるいはケーブル方式とは異なり、一定程度の位置・距離に来れば送電・受電を自動かつ無線で行うことができるのが特徴だ。

出力は毎時1キロワット。サイズ/重量は送信側が405×104×344ミリメートル/9.4キログラム、受信側が217×69×186ミリメートル/1.6キログラムと小型化・軽量化・薄型化を実現した。

送電・受電を行う2つのコイルを使って電気を送る磁界共鳴方式を採用。これにより給電可能範囲における長辺方向のずれ許容差はプラスマイナス30ミリメートル、コイル間距離は20~40ミリメートルと装置の停止範囲拡大を両立。

AGVやフォークリフトなど停車精度に課題がある移動体装置の充電に威力を発揮するとともに、これまで電源のコンセントやケーブル延長の制約から最適なレイアウトやセッティングができなかった現場にも自在性を提供できるようになるという。

ロボットの停車時を充電時間に有効活用

同システムの製造・販売を手掛ける全額出資子会社のTDKラムダは現在、ロボットメーカーやユーザーとなり得る製造業、物流業を中心に営業活動を展開。また主力拠点である「TDKラムダ 長岡テクニカルセンター」では自作のAGVを用いたワイヤレス給電のデモンストレーションを行っている。

ロジビズ・オンラインではその模様を独占取材。磁気テープに沿って1周してきたAGVが送電ユニット前に停車するだけで自動充電を開始。定格容量に達すると充電を止めて再び走行する一連のシーンを動画に収めた。



ロボット類はフォークリフトを中心に鉛バッテリーが数多く使われている。こちらは作業終了後に1晩かけてフル充電したバッテリーを翌日朝から午前中、午後は別のバッテリーに積み替えて運用している。バッテリー1基当たりの容量は4時間程度しか持たず、結果的に日中しか稼働できないことから夜間作業や残業ができない。バッテリーの問題が製造現場や物流現場の稼働率でボトルネックとなっていることがうかがえよう。

これを安全で長寿命かつ薄型化・軽量化が可能なリチウムイオンバッテリーに代替。リチウムイオンバッテリーは材料の特性から容量を使い切ってから充電するのではなく、こまめに充電を繰り返して容量を常にフル状態にしておくことが長寿命・高いパフォーマンスを発揮するといわれる。

TDKラムダ営業統括部販売促進部双方向・WPTグループの小林真一氏は「ワイヤレス給電でリチウムイオンバッテリーをこまめに充電することによってロボットの常時稼働を図り、拠点全体の稼働率と効率性を電源の制約を受けずに向上させることができるだろう」と展望。省人化・省力化をロボット自身の稼働率を動力面から引き上げることで後押ししていく新しいアプローチを提唱する。


TDKラムダ営業統括部販売促進部双方向・WPTグループ・小林真一氏

この背景にはロボットメーカーがここに来てAGVとロボットを組み合わせた製品をラインアップしつつあることも関係している。より一層の省人化を図るためロボットを自走させて作業・移動などに要する人の手を削減。それに応じて充電もワイヤレスで行いたいとの要望が増えているという。

どのようなロボットでも必ず一定時間同じ場所に停止するタイミングが出てくる。ピッキングロボットはアーム部分が作業をしている際、自動倉庫では格納されたラックの待機時間などが相当する。この時間を使って作業をしながら“足”となるAGVやスタッカークレーン、リフターに充電すればバッテリー容量の安定化やタイムコストの削減にもつながる。物流現場では荷物の積み降ろしやピッキングなどの工程で活用可能性があるだろう。

メンテナンス性・安全性でも既存タイプと比べて優位性がありそうだ。現状のAGVは大半が電極を合わせて充電する接点方式が主流。頻繁な接続は電極部の摩耗・破損による定期的なメンテナンスが必要となるほか、接続時にスパークが起きることも想定される。特に後者は医薬品・食品・半導体・電子部品など厳格な品質管理、安全基準が求められる製品・領域ではデメリットになりかねない。ここでもワイヤレス給電はアドバンテージを有しているといえよう。

このほかケーブルの劣化や破損による接触不良の解消、水濡れや降雨時の漏電・感電防止、防塵などの運用信頼性、小型化を通じたロボットの作業パフォーマンスを損なわないデザインの多様性も付加価値に挙げる。

AGVメーカーや物流施設デベロッパーなどから引き合い

小林氏は現在の営業状況について「AGVメーカー、ロボットメーカー、バッテリーメーカーから良い感触を得ている。とりわけAGVとロボットを一体化させた製品を投入・検討している企業からの引き合いが多い。物流向けではロボットメーカーのみならず物流施設開発を手掛ける有力デベロッパーにも提案中」と語り、拡販に当たって物流セクターを有望なマーケットと捉えている。価格面は明らかにしていないが、業界筋では1セット当たり100万円を切る水準と伝えられる。

TDKラムダ技術統括部システム電源開発部の原田高廣部長は今システムについて「電流デバイス、コイル、フェライトコアなどTDKグループが持つ技術のシナジーが出せる製品。既に産業機器向け電源では世界トップシェアを保持しており、今後はさらに対象領域を広げてエンドユーザーにどのようなサービスや付加価値を提供できるかを追求していきたい」との方向性を示し、単品の製造・販売だけでなくロボットメーカーとの共同開発やセールス面でのアライアンスも視野に入れている。


TDKラムダ技術統括部システム電源開発部・原田高廣部長

電源技術などパワーエレクトロニクス分野から多様な産業にソリューションを提供してきたTDKグループが、物流現場に変革をもたらす日も遠くなさそうだ。

(鳥羽俊一)

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