2割で「法定の事項全く実施せず」、佐川や西濃などに業務委託し停滞回避図る
日本郵便の千田哲也社長は6月17日、東京都内で記者会見し、全国の郵便局で法定の点呼業務が不適切な形で行われていたのを受けて国土交通省が一般貨物自動車運送事業の許可を取り消す方針を固めたことについて、国交省からの通知通り行政処分を受け入れると発表した。国交省にもその旨を伝えたことを明らかにした。
国交省は6月18日、行政処分を前に当事者から意見を聞く「聴聞」の手続きを行う予定だったが、日本郵便が処分方針に異論を唱えないため、6月中にも正式に処分を科す見通しだ。
会見の冒頭に謝罪する千田社長
同問題では今年1月、兵庫県小野市の郵便局で数年にわたって法定の点呼が適切に行われていなかったことが発覚。日本郵便が全国の3188局を調査した結果、75%に相当する2391局で何らかの不備があったことが分かった。
国交省は4月以降、貨物自動車運送事業法に則り、日本郵便への特別監査に踏み切り、全国で地方運輸局が郵便局に立ち入り検査を続けた結果、多数の不適切な点呼の事例を確認したため、同法に基づく行政処分の中で最も重い事業許可の取り消しに踏み切ることにした。
千田社長は、行政処分を受ければ全国約330の郵便局で大口顧客からのゆうパック集荷などを担っている1t以上のトラックなど約2500台が5年間使えなくなるのを踏まえ、佐川急便や西濃運輸、トナミ運輸など他の運送会社に業務を委託して配送の停滞回避を図ることを明らかにした。佐川などの同意は得ているという。
小型荷物の配達委託をめぐって意見が対立、損害賠償を求めて提訴しているヤマト運輸にも業務委託を打診していることを説明。並行して、ゆうパックの配達などに用いている軽車両を、トラックなどが担っていた業務に充ててカバーする方針を示した。
千田社長は「関係する皆様に多大なるご心配、ご不安をおかけしていることを心よりおわび申し上げる。サービスをお客様に安定的にご提供できるよう、オペレーション確保に万全を期す。2024年問題に対応しようと物流業界全体が血のにじむような努力をしている時に当社がこんな事態を起こしてしまい、物流業界の一員として本当に恥ずかしい」と謝罪した。
また、社内の調査結果を追加で公表。調査対象となった25年1~3月の全国の郵便局の点呼業務約57万8000件のうち、必要事項を全て行っていなかったものが22%の約12万6000件に達したことを明らかにした。一部を行っていなかったものも4%の約2万2000件に上った。
さらに、点呼の記録簿に、適切に行ったように事実と異なる記載をした「不実記載」のケースが18%の約10万2000件あった。対面で実施すべきなのにドライバー自身が酒気帯びの有無のチェックなどを実施していたのも8%の約4万7000件だった。
「民営化のころには既に問題化していた可能性も否定できず」
千田社長は不適切点呼が常態化した時期について、社内調査でも把握しきれなかったことを明らかにした上で、相当昔から問題があったとの見解を示し、「民営化のころには既にちゃんとした形になっていなかった可能性も否定できないのではないか」と語った。
使えなくなる車両については売却も含めて対応を検討すると解説。不適切点呼が事業に与える影響を問われたのに対しては「ゆうパックの値上げは今の時点で一切考えていない。物流への影響が出ないことを実現していきたい」と明言。物流事業に注力することをうたっている現行の中期経営計画の大幅な修正も現時点で検討する考えはないと述べた。
今回の問題を受け、責任の所在を明確にするため、自身の月額役員報酬を3カ月間、40%減額するなど役員11人の処分を発表。再発防止策として、点呼のデジタル化による不正の防止などを進めていく方針を表明した。
(藤原秀行)