国内外の4生産拠点で施策・情報を“輸出入”
TDKの100%出資子会社でスイッチング電源やノイズフィルターなどの開発・製造・販売を手掛けるTDKラムダは、2015年度より日本・中国・マレーシアの国内外4生産拠点による「自働化技術」のグローバルプロジェクトを推進している。
日本の取り組みや方式をそのまま海外に展開するのではなく、各拠点での成功事例やノウハウを双方向で共有。国を越えてサプライチェーン全体を自働化しようとする取り組みは日本企業ではまだ珍しく、これから海外展開を本格化させていく製造業や物流業などにも参考となりそうだ。
同プロジェクトは
▽フレキシブルな生産体制とロケーションフリー化の実現
▽機械・ロボットを活用した省人化
▽災害、為替変動などのリスクに耐え得るBCP(事業継続計画)
▽リアルタイムの顧客サービスと情報提供
――をコンセプトに15年度から日本の中核拠点である「長岡テクニカルセンター」(新潟県長岡市)でスタートした。
これまでの経緯を見ると15年度に日本(長岡テクニカルセンター)からマレーシアのセナイ工場へパワーモジュール、16年度にはコーティング工程で日本から中国の無錫工場、マレーシアのセナイおよびクアンタン両工場に展開。18~20年度では中国の部品加工自働化を日本とマレーシアに移植すべく取り組んでいる。20年度に4拠点で自働化をシンクロさせるロードマップを掲げており、将来的にはIoT(モノのインターネット)などさらに難易度の高いレベルへとステップアップする方針。
これまでの成果として長岡テクニカルセンターで基板型電源の生産ラインにピッキングを行う双腕型ロボットを導入して耐圧検査・電気検査を省人化。これをクアンタン工場でも活用している。
基板型電源は少量多品種製品のため日本での生産はコストが高く工数が増やせない。以前はモデルごとに専用ラインを設置して対応を図っていたが、オーダー量によってラインの稼働率にばらつきが発生。量産化に当たってこのやり方を続けるとラインが増えてスペースが足りなくなる懸念もあった。そこでラインの集約と正しい物の流れをもう一度見直した。
双腕型ロボットの導入・運用に当たって熟慮を重ねたのがピッキング、搬送など各要素技術の整合性(つなぎ)だ。生産統括部生産技術部自働化技術グループの米田明弘グループマネージャー代理は「設備間で発生する位置や向きの修正をなくして作業フローに無駄が出ないように工夫を重ねた。こうした検証はロボットなどを導入してから軌道修正するのは難しい。機械ありきではなく工程全体でロスのないスムーズな自働化を考えるべき」と指摘する。
設計・開発段階から自働化を前提としたものづくり追求
自働化プロジェクトはともすればFA機器やロボットなどハード面に焦点が当たりがちだが、同社では設計・技術開発部門と生産部門の緊密な連携を最大のポイントに挙げる。設計には「デザイン・フォー・マニュファクチャリング」(生産のための設計)と「デザイン・フォー・オートメーション」(自働化のための設計)があると定義。これを融合させて下流工程の生産段階だけで自働化を図るのではなく、上流工程である設計・開発から自働化を前提とした製品作りを追求している点が特徴だ。
生産統括部生産技術部プロセス技術グループの高橋和俊氏は「設計の段階で自働化しやすい製品構造に作り込んでおけば、“ロボットを導入したが効果が出ない”あるいは“使い勝手が悪い”といった実運用でのミスマッチをヘッジできる。当社では設計・開発の段階に生産技術部門も関与して自働化に向けた提案を行っている」と解説。新製品には自働化の指標を設定してレビューを行い、適用できる範囲をさらに拡大しようと努めているという。
米田氏、高橋氏は自働化に対する考え方を「コスト性は確かに大事だが、それ以上になぜ自働化できなかったかを検証することが重要。自働化は導入・達成するのがゴールではなく、そこからさらに改善できる部分や課題を抽出して工程全体をブラッシュアップしていく継続的な取り組み」と表現。単にロボットや機械設備を積極的に導入して省人化を図るのではなく、サプライチェーンにおける競争力と付加価値を高めていく一つのアプローチであることを強調している。
一連の取り組みにより長岡テクニカルセンターでは1人当たりの生産金額単価が2~3割ほど上昇。増員せずに効率性を高めることに成功した。今後は人が決まった工程で決まった量の仕事をこなせるための条件作りを目標に据える。
現地主導のマネジメントでプロジェクトにスピード感
逆に海外の取り組みを日本などに“輸出”したケースとしては、セナイ工場でそれまで人手に頼っていた図面部品の寸法検査や形状検査を自働化・デジタル化。測定記録をそのままデータ変換することで数値の変化から金型の不具合、下請け企業の工程変化なども追跡できるようになり、省人化や効率性向上に加えて品質管理にも効果があった事例を挙げる。
19年度は中国で編み出した部品加工、製品に直接印字するレーザーマーキングなどの自働化技術を日本とマレーシアにも広げる予定となっている。
海外拠点とのコミュニケーションでは年1回、前述4拠点と英国・米国・イスラエルの各自働化担当者が一堂に会する生産技術会議を開催。約15人のメンバーが参加して課題や施策などの情報を共有している。
日本とは民族・文化・生活習慣など全てが異なる国々と自働化の仕組みを整合させることは容易ではない。同社では海外拠点の抱える顧客や立場の違いを理解し、指標を設定した上で現地サイドにマネジメントを任せている。導入するロボットなどについても日本メーカーの機種が海外に対応していない、あるいは初期コストが高くて採算性が合わなかったケースでは現地側に最適な機種の選択権を持たせるなど配慮した。
アジアなど海外拠点のマネジメントに苦労している日本企業の多くは、現地事情を加味せずに本社マターで計画や目標水準を設定している傾向が強いといわれる。技術統括部システム電源開発部の原田高廣部長は「当社が海外に工場を展開して30年が経過し現地プロバー社員も数多く育っている。現地事情に精通した彼らの意向を理解・把握することはプロジェクトにスピード感を持たせる点でも意義がある。これを無視して日本のやり方を押し付けてもうまくいかないだろう。同業他社と比べて海外進出が早かった強み・知見を自働化にも生かしていきたい」と展望。現地の事情を踏まえた目標・施策を示しつつ、課題解決の方法などを日本・海外の双方で議論して納得感のある形で仕組みを構築することの重要性を説く。
日本での今後の課題は保管庫の自働化だ。微細で種類が膨大な電子部品類は自動倉庫などの物流機器ではオーバースペックといい、現状では人による手作業が中心となっている。AGV(無人搬送車)や施設の仕様も含めて改善・最適化を検討していく考え。
(鳥羽俊一)