指名・報酬委、独立社外取締役候補「多様性重視して選定」
EC事業をめぐるアスクルと筆頭株主のヤフー(現Zホールディングス=HD=)の意見対立の影響で空席が続いていたアスクルの独立社外取締役は新たな候補4人の顔ぶれが固まった。同社の指名・報酬委員会は選定に際し、ZHDや第2位株主のプラスとも議論したことを明らかにしており、4人もそれぞれの立場からZHDとの協業を重視する姿勢をにじませている。ZHDとアスクルの関係修復が加速する見通しとなった。
アスクルが2月5日発表した候補者は、のぞみ総合法律事務所パートナーの市毛由美子弁護士、インターネットでの大衆薬販売を手掛けるケンコーコム(現楽天)創業者の後藤玄利氏、麗澤大の髙巌教授、元IHI副社長の塚原一男氏。3月13日に開く臨時株主総会に選任を諮る予定だが、現状ではZHDやプラスは反対する意向を見せておらず、正式に就任する見通しだ。
アスクルが公表した4人の「抱負文」では「可能な限り親子のベクトルを合わせるよう取り組むべき」(後藤氏)など、資本・業務提携しているZHDとの連携を強化することへの意欲を示す声が聞かれ、ZHDと明確に距離を置く姿勢を見せた候補者は皆無だった。
同社が併せて開示した、指名・報酬委員会の候補者選定に関する報告書によれば、まず30人程度の候補者のリストを作成した上で、大株主のZHDやプラスからの独立性確保などを基準として絞り込みを進めた。最終的に絞り込んだ4人の候補者は指名・報酬委も同席する中、ZHDやプラスの経営陣とそれぞれ対話を行い、意見交換したという。
2月7日に東京都内で記者会見した指名・報酬委の國廣正委員長(アスクル顧問弁護士)は候補選定の際に多様性を重視したと説明。「先進的なガバナンスのモデルを構築したい」と語った。その言葉通り、4人は弁護士、EC起業家、経済学の有識者、企業経営者と出身が異なっている。
提携解消への言及消える
アスクルが2019年8月に開いた定時株主総会では、個人向けインターネット通販「LOHACO(ロハコ)」の収益改善に関する方向性をめぐって同社と意見対立したZHDやプラスが、当時の岩田彰一郎社長と独立社外取締役3人の再任に反対票を投じ、4人とも否決、事実上解任されていた。
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岩田氏の後任として取締役から内部昇格した吉岡晃新社長は就任直後の記者会見で、岩田氏と同じくZHDと資本提携を解消する意向を見せる一方で協議も申し入れる考えを見せていた。しかしその後、吉岡社長が提携解消について公の場で言及する場面は消え、ロハコの収益向上などの点でZHDとの協議が進んでいることをうかがわせた。ZHDと距離を置いた前社長の岩田氏とは姿勢の差が際立っている。
関係者によれば、現在はEC商品の配送効率化やコスト削減の点でアスクルがヤフーや子会社のZOZOと連携ができないかどうかを模索しているもようだ。4人の独立社外取締役からも「ロハコ事業の在り方についても中立的・合理的な観点より具体的な立て直し策を練っていきたい」(髙氏)といった声が出ており、正式就任すればZHDとの協働姿勢を後押ししていきそうだ。
(藤原秀行)