大和ハウス工業・浦川取締役常務執行役員 独占インタビュー(前編)
大和ハウス工業で物流施設開発の陣頭指揮を執る浦川竜哉取締役常務執行役員はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
浦川氏は自動化・省人化を求める動きが強まっていることを重視し、物流ロボットが稼働しやすい設計の物流施設開発に乗り出していることを紹介。先進的な技術を搭載したロボットやマテハン機器の進化するスピードが速く市場の先行きも予想しづらい今のような状況では、従来の常識にとらわれ過ぎず、柔軟性や可変性をそなえた物流施設を提供していくことが理にかなっているとの持論を展開した。
浦川氏の発言を2回に分けて詳報する。
浦川氏(2019年4月・中島祐撮影)
今後も有望なスタートアップ企業に期待
――米ナイキと2019年、先進的な物流施設の展開で戦略的業務提携を締結しました。千葉県市川市のナイキ物流センター「The Dunk」ではグループのアッカ・インターナショナルと連携し、物流ロボットを200台以上導入して入出荷の迅速化や業務効率化で成果を挙げているようですね。
「日本だけではなく、世界中の有名な3PL事業者がナイキのコンペに参加する中、アッカの備える物流ロボットの効果的な運用などの可能性を非常に高く評価され、当社グループをお選びいただけました。とても嬉しく思っています。ちょうどナイキのシューズが大変なブームとなり、出荷量が毎年飛躍的に伸びているという非常に良いタイミングで業務を担うことができたのではないでしょうか」
――ロボット化といえば、同じ千葉県の流山市で進めている物流施設の大型開発プロジェクトでも、ロボット導入などを踏まえた施設づくりをかなり意識しているように見えます。
「現在流山で建設している延べ床面積10万坪の物流施設は、そうしたロボット化・機械化の流れを意識し、フロアの真ん中に車両通路を設けず、奥行きを広く取った造りにしようと計画しています。普通はこれくらいの規模であれば中央に車路を設置するのが定番なのですが、縦横無尽に走り回るAGV(無人搬送機)を導入する場合は大きくフロアを取る方がそうしたロボットの能力をうまく生かせると思います。そういう意味で倉庫の在り方が変わってきたのではないでしょうか」
――マルチテナント型の物流施設でもニーズが見込めれば当初からロボット導入を意識した開発を進めるのでしょうか。
「BTS型でも当然、ご要望があればそのように設計しますし、マルチテナント型も同様です。先ほどお話ししたような奥行きのある造りにすると、庫内のデザインなどに柔軟性や可変性を持たせられますし、仮にAGVを使わなくなっても数時間程度で原状回復ができます。今の時代のようにこの先どのように社会が変化していくか、なかなか予想しにくい中では、柔軟性や可変性を備えた物流施設にする方が理にかなっているように思えます。その時その時に状況に応じた最適化ができる余地を残しておくのがわれわれにできることではないでしょうか」
「AGVなどのロボットや先端のマテハン機器はまだまだ群雄割拠なので、どの製品が優れているのか、将来性があるかを見極めるのは難しい。ただ、大手企業が扱うものだから成功する、ということは全く言えない時代となりました。昔であれば大手企業がベンチャー企業の製品に負けることは考えにくかったですが、今や現実にそうしたことが起こっています。企業規模の大小などに固執せず、ロボット化や機械化に取り組んでいきたいと思います」
――御社は先進的な物流施設の開発を進める上で、トラック運行管理効率化などのソリューションを提供するHacobu(ハコブ)や物流センター内の作業効率化のための技術開発に取り組むGROUNDといった新たなスタートアップ企業と積極的に手を結んでいるのが大きな特徴だと思います。今後もそうした姿勢は貫いていきますか。
「決して、絶対にスタートアップ企業としか手を組まないなどとこだわっているわけではありませんが、先ほども申し上げた通り、大手企業だから寡占化が進むとか成功するとか断言はできない状況にあります。やはりスタートアップ企業は発想が斬新で事業のスピード感があり、成長の可能性を秘めているように思えますね。有望なところがあれば、これからもぜひ協力させていただきたい」
19年9月、物流のビッグデータ活用で連携する方針を発表した(左から)三井不動産・三木孝行常務執行役員ロジスティクス本部長、アスクル・桜井秀雄執行役員フューチャープラットフォームアーキテクチャECR本部プロキュアメント統括部長、Hacobu・佐々木太郎社長CEO、ソニー・土川元VP Sony Innovation Fund Chief Investment Manager、大和ハウス工業・浦川竜哉取締役常務執行役員(ダイワロジテック社長)※役職名は会見当時
米国抜きでは方針を語れない
――昨年、お話のあったHacobuのほかに三井不動産や日野自動車、アスクルといった企業と物流のビッグデータ活用などに関して連携する方針を発表しました。御社やアスクルの物流現場で日々蓄積されているトラック運行などのビッグデータを収集、分析して運送業務効率化のソリューションに生かしていくとともに、トラックドライバー不足対応を促していくことを目指すと説明されていました。進捗はいかがですか。
「ビッグデータ活用についてはそもそも、まだ圧倒的にデータが不足しています。物流施設運用に関するトラックレコードを積み重ね、データ量自体をもっと増やしていく必要があります。一概にどれくらいの期間が必要かを明確には申し上げられないのですが、少なくとも半年、1年くらいのスパンは必須でしょう。ビッグデータを見ながら入出荷の最適化などを分析していく形になると思います」
――新たな試みという意味では、物流施設開発の海外展開も該当すると思います。海外でも物流ロボットの活用が今後見込まれていくのでしょうか。
「海外の方々も関心は示されていますが、東南アジアに関して言えば日本に比べて依然人件費が安いですし、そんなに自動化やAI(人工知能)の活用が早急に求められる環境ではありません。10年前を振り返ると、当社の物流施設でもまだ今ほど機械化の意識が強まっていたわけではなく、人手の方がいいと言っていた時代です。今の東南アジアもまさにそのような状況ですから、取り組みが本格的に求められるのはまだまだ先でしょう。ただ、将来は必ず必要とされていくものですから今のうちから積極的に研究は進めておきたい」
――ナイキの物流センターで物流ロボットを200台以上運営しているのも、物流施設開発を海外で展開していく中で物流ロボット運用を手掛けていくことを想定しているのでは?
「そうしたことは意識していきたいですね」
――海外の物流施設開発自体については、今後どのように取り組まれますか。
「今はインドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムで事業を手掛けていますが、インドネシアはレンタル倉庫を含む工業団地の新たな用地を確保していますし、マレーシアでも第1号の物件に続いて第2、第3の案件の用地を押さえています。ベトナムでも第2期のプロジェクトを進めていますし、タイでも最大港のレムチャバン港周辺で事業を推進しています。この4カ国では本当に物流が動き、成長を続けている感じがしますね」
「他には東南アジアに続いて、米国やオーストラリアで事業化の準備を進めています。20年中には米国で案件を本格的に始動させたいですね。やはりeコマースなどの需要が見込まれる西部と東部で手掛けていこうと考えています。経済と人口が伸び、通貨が強いという3拍子がそろっているだけに、海外展開も米国抜きでは方針を語ることができません」
後編:【独自取材】「物流施設も南海トラフ地震対策でリスク分散を急ぐべき」
(藤原秀行)