プロに見せたい物流拠点②きくや美粧堂・イーストロジスティクス(後編)

プロに見せたい物流拠点②きくや美粧堂・イーストロジスティクス(後編)

「人が働きやすくなる」ための機械化を徹底

【独自取材】プロに見せたい物流拠点②きくや美粧堂・イーストロジスティクス(前編)

 未曾有の人手不足という苦境に負けず立ち向かう物流施設を紹介するロジビズ・オンライン独自リポートの第2回後編は、美容業界向け専門卸大手のきくや美粧堂が東京・平和島の先進施設「東京流通センター(TRC)」内に構えている自社物流拠点「EAST Logistics(イーストロジスティクス、EL)」に引き続き焦点を当てる。

 前編は同社の担当者が、いかに庫内作業スタッフが働きやすくなるかに汗を流す姿をお届けした。後編はここ数年来、同時並行で熱心に進めている現場業務機械化の道のりを報告する。


EL内の作業風景

出荷段ボールを自動採寸・計量しドライバーの負荷軽減

 広さ約1700坪、端から端までの距離が200メートルほどのEL内を歩くと、先進的なマテハン機器が多く稼働しているのがすぐ目に飛び込んでくる。最近導入した中でも特に活躍が目立っているのが、レンゴー製のオートパッケージングシステム「e-Cube(イーキューブ)」だ。ふたが開いた状態でコンベヤー上を次々に流れてくる段ボールを、収められた商品の大きさや量を自動測定、瞬時に適切なサイズで組み立て、再び出荷ラインへと送り出している。


稼働している「イーキューブ」

稼働している「イーキューブ」。段ボールを自動で適正なサイズに梱包する

 イーキューブ稼働で出荷作業の負担を減らせているだけでなく、商品を受け取る美容室の側にとっても無駄に大きな段ボールを送られてくることがなくなり、在庫スペースの有効活用にもつながっている。運ぶトラックドライバーにとっても積載効率がアップする。

 きくや美粧堂の大久保尚彦サプライチェーン部長は「自社のスタッフにとどまらず、顧客や輸送事業者にもメリットをもたらす点が非常に良かった」と導入決定の経緯を振り返る。出荷作業の生産性は2~3割程度向上し、段ボールサイズの適正化で緩衝材の使用量も大きく減らせたという。

 さらに今年11月、出荷する段ボールのサイズを自動的に採寸・計量する寺岡精工製「Smart Qbing(スマートキュービング)」の運用を始めた。コンベヤーで運ばれている段ボールのサイズや重さを各種センサーでスピーディーに把握、バーコードで商品データも読み取り、情報をひも付けしている。

 こうした情報をデジタル化し、輸送事業者に提供することでトラックの積載効率アップを図るのが狙いだ。従来はドライバーが積み込む際に手でいちいち採寸していたが、そうした業務を省略できるため、昨今問題視されているドライバーの過重労働解消にも貢献できると大久保部長らは見込む。



運用を始めた「スマートキュービング」。センサーで段ボールの大きさを正確に測り、モニターに表示する

運用を始めた「スマートキュービング」。センサーで段ボールの大きさを正確に測り、モニターに表示する

 イーキューブやスマートキュービングなどの先進機器を連携させることで、人海戦術のイメージが濃厚だったかつての出荷作業が、ELでは大きく変貌を遂げていた。大久保部長は「TRCがこうした機器を導入できる先進的な施設だということも、当社にとっては非常にプラスに働いている」と強調する。

毎年集荷量1割増に対応

 きくや美粧堂の物流センターが機械化に積極的な背景には、同社の出荷量が伸び続けていることが挙げられる。大久保部長は「最近は毎年、前年実績より1割程度アップしている。当社の主要顧客に位置付けられる中小規模の美容室はまだまだ開拓の余地があるだけに、しばらくは増勢が続きそうだ」と予想している。それだけに、ロボットなど先端機器の導入を真剣に考えざるを得ないというわけだ。

 同部の松丸忠広物流担当マネージャーは「基本的には定着していただいている同じスタッフにこれからも仕事を続けてほしいが、少子化などの状況を踏まえれば、人材を十分確保できない状況が来ることを想定して、今のうちに動いておかないといけない」と思惑を語る。前編で触れた通り、ELでは基本的にスタッフ採用には困っていないが、きくや美粧堂のサプライチェーン部は、現状に安穏と満足していたのではいずれピンチが訪れると危機感を持ち、行動に移している。

 ただ、人を減らすことありきではなく、「あくまで今のスタッフがより意欲を持って仕事に当たることができるようにすることが主眼」(松丸氏)との鉄則は変えようとはしていない。今EL内で活用しているヴォコレクト製の音声ピッキングシステムなどの各種マテハン機器も、そうした主義を体現したものだ。

「通路は常に片側通行」などの修正をロボットに施す

 ELで試行錯誤を続けているのが、物流ロボットの導入だ。庫内作業の効率化を図ろうと数年前から検討に着手。今はオムロングループの自律搬送ロボット「LD-90」をカスタムメイドしたものを使っている。AI(人工知能)を搭載し、周囲の人間や障害物を回避しながら目的地までの適切なルートを自ら考案、荷物も90キログラムまで搭載できる仕様。タッチパネルなども備えている。


EL内を自律移動する「LD-90」

 ELの中は常に数十人のスタッフが行き交っているだけに、ロボットは安全かつスムーズに移動できることが絶対条件だ。「LD―90」も取り扱い時に細心の配慮が求められる高額商品などを収めたエリアの近くを移動する場合は減速したり、EL内では通路の片側のみを常に走行するようにしたりとさまざまな修正を施し、1年程度を費やして現状のような安定稼働を実現した。

 今はピッキング時に取り切れなかった商品を再び補充するなどのイレギュラー対応に投入しており、移動時はリズミカルな音楽を流すことで、作業に集中している周囲のスタッフもすぐ存在に気付けるよう配慮している。接触事故などの大きなトラブルもなく、庫内スタッフからは「オムロン君」などの愛称で呼ばれ、既にELで日常風景となるまでに溶け込んでいる。



EL内を目的地まで自律移動する「LD-90」。スタッフや荷物などは自動的に避けている

 しかし、ここに至るまでのロボット選定は一筋縄では行かなかった、と大久保部長と松丸マネージャーは回顧する。実際、これまでオムロン以外にも数社の製品をテスト投入してみたが、思ったような成果を得られず、利用を断念していた。

 大久保部長は「あくまで人が中心の現場なので、人をロボットに合わせるのではなく、ロボットを人に合わせられることが重要。センター内のレイアウトなどを大きく変更しないとの前提があった。しかし、実際に使ってみるとロボットが現在位置を見失ってしまったり、小回りが利かずに通路でUターンできなかったりと、いろいろな問題が生じていた。やはり実際に現場で試してみないと分からないことが山のようにあった」と指摘する。さまざまな課題を解決してくれたのが、現行のロボットだった。

 LD―90をピッキングのメーンで使うのではなく、まずはイレギュラー作業への対応に投入している狙いについて、松丸氏は「人とロボットが共存する現場を理想としている。そのためにまずはイレギュラー対応にロボットを活用することで、共存に向けたさまざまな課題を洗い出していきたい」と説明する。働くスタッフを最優先に考えるという基本方針は、ロボット導入などの機械化にも受け継がれている。


機械化の狙いなどを語る大久保部長

「人とロボットの共存」を目指す松丸氏

(藤原秀行)

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