コスト上昇分の価格・料金転嫁率、「運輸・倉庫」は2割にとどまる

コスト上昇分の価格・料金転嫁率、「運輸・倉庫」は2割にとどまる

帝国データバンク調査、全体でも5割届かず

帝国データバンク(TDB)は6月8日、新型コロナウイルスやロシア・ウクライナ情勢などを背景とした原材料費の高騰や円安の進行などで仕入れコストが上昇している分を商品価格やサービス料金に転嫁できているかどうかについて、企業を対象に実施したアンケート調査結果を公表した。

仕入れコストの上昇分を全て転嫁できていると答えた割合は全体の1割未満で、コストの上昇分に対する転嫁割合を示す「価格転嫁率」は4割程度にとどまっていることが分かった。企業が転嫁に苦悩している実態が浮かび上がった。

業種別では、燃料価格上昇に見舞われている「運輸・倉庫」の価格転嫁率が2割程度にとどまり、特に厳しい状況にあることをうかがわせた。

TDBは「原材料費など仕入れコストの上昇はとどまる気配が見られないため、今回調査でコスト上昇の全額または大部分を転嫁できている企業においても、今後さらなる価格転嫁が必要となる事態も想定され、各社は厳しい舵取りを迫られそうだ」と分析している。

調査は6月3~6日、インターネットで実施し、有効回答企業数は1635社だった。

価格転嫁の状況

価格転嫁率は、各選択肢の中央値に各回答者数を乗じ加算したものから全回答者数で除したもの(ただし、「仕入れコストは上昇したが、価格転嫁するつもりはない」、「仕入れコストは上昇していない」、「分からない」は除く)

自社の主な商品・サービスに関し、仕入れコストの上昇分を販売価格やサービス料金にどの程度転嫁できているか尋ねたところ、「多少なりとも価格転嫁できている」は73.3%となった。その内訳を見ると上昇分を「全て価格転嫁できている」は6.4%にとどまり、「8割以上できている」が15.3%、5割以上8割未満が17.7%などとなった。

一方、「全く価格転嫁できていない」は15.3%だった。

価格転嫁をしたいと考えている企業で、コストの上昇分に対する販売価格への転嫁割合を示す「価格転嫁率」は44.3%と半分以下にとどまった。これは仕入れコストが100円上昇した場合、平均して44.3円しか販売価格に反映できていないことを示している。

企業からは「零細企業のため、仕入価格上昇分の販売価格への転嫁は100%しなければ維持できない。今後も値上がり分は販売価格に転嫁していく」(家具・建具卸売)といった声が聞かれた半面、「何とか値上げしたいが、取引先の了解が得られない」(こん包)、「価格交渉を進めたいが、他社との競争もあり厳しい状況」(印刷)など苦悩する向きもあった。

「燃料サーチャージ」導入、荷主の理解得られず

業種別の価格転嫁率を見ると、「建材・家具、窯業・土石製品卸売」(64.5%)は前述の全体平均を20.2ポイント上回っている。「機械・器具卸売」(55.4%)、「飲食料品卸売」(51.6%)も比率が割合高かった。

企業からは「一部の為替リスク等で転嫁できない部分はあるが、それ以外は基本的には転嫁している」(雑穀・豆類卸売)といった声が聞かれた。

一方、特に原油価格高騰の影響を受けているトラック運送などを含む「運輸・倉庫」は19.9%と低く、全体を24.4 ポイント下回った。また、小麦価格や輸送費などの上昇に直面している「飲食料品・飼料製造」(33.6%)も価格転嫁が進んでいないことが浮き彫りとなった。

企業からは、「下請けの下請けでは価格転嫁など到底かなうものではない」(一般貨物自動車運送)など、多重下請け構造の物流業界では価格転嫁が厳しい環境にあることをうかがわせる回答が見られた。

価格転嫁率(主な業種)

多少なりとも価格転嫁できている企業の声
■秋にはビールの値上げが予定されているが、税制改正もあり価格転嫁するつもり(酒卸売)
■製造に使用される合金の主成分である希少金属(ニッケルやタングステン)が海外からの輸入品であり、円安も加わり値上がりが激しい。さらなる高騰も推測され、製品の再度の値上げも必要となるだろう(金属プレス製品製造)
■商品の値上げをやっと了承してもらっても、原料の値上がりがそれを超えてくるため、現在は追いついていない(生菓子製造)

全く価格転嫁できていない企業の声
■問屋さんに価格転嫁を認めてもらえない(飲食料品・飼料製造)
■価格転嫁したいが、受注時での価格競争が激しいため転嫁は難しい(民生用電気機器製造)
■メーカーの定価は据え置きされたまま、仕入価格だけが上がっている。競合他社、ネットショップとの価格競争から販売価格に原価上昇分を転換できていない(家具小売)

主要な商品・サービス別企業の声
機械
■さまざまな仕入先メーカーから軒並み、値上げ案内が来ている。自社では顧客に前もって案内し、値上げ日からメーカー変更価格で販売するよう徹底している。値上げ前に、よく出ている物を多めに購入してもらうようお願いしている
■零細企業であり、自社技術の自社製品を製造・販売しているので価格の転嫁が比較的容易に行える。しかし、契約時と工事施工時の間に値上がりしているケースもあり、その場合は価格の転嫁は難しい

水産食品
■値上げでどこまで売り場や消費者がついてきてくれるかわからない。今年の春の値上げは、一応成功したが、秋には再度値上げしないと採算が取れない
■価格転嫁の適用開始日が3~4カ月先となり、その間が厳しい

貨物自動車運送
■大手荷主にお願いをしても、代わりの運送会社はいくらでもいると言われ、転嫁してもらえない
■行政の指導に基づく「燃料サーチャージ」導入を提案するが、なかなか荷主の理解を得られない。物流コスト増に伴う値上げとよく耳にするが、自社は全く価格転嫁できていない

ソフト受託開発
■半導体部品の供給状況や価格が高騰している部材などの情報を共有し、価格転嫁を認めてもらっている
■サーバー構築費用などのコスト上昇分を、転嫁すべく準備を整えている。2020 年に一度価格の改定を行う予定でいたが、新型コロナにより見合わせていたので、大きく価格転嫁する事をためらっている

(藤原秀行)

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