第41回:中国で日本企業に求められる防衛策と処方箋
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。
「歴史的節目」の日に警戒を
近年の国際情勢の激変、とりわけ日中関係の冷え込みや地政学的リスクの上昇は、中国に進出する日本企業に対してビジネスモデルの再考を迫っている。両国の経済的な結びつきは依然として強固である一方、現地におけるスタッフの安全保護や有事への即応体制の構築は、ビジネスを継続させるための最優先事項となっている。
6月24日には、中国東北部の大連で今年5月、日系企業の日本人社員2人が中国当局に拘束されたことが各メディアで報じられた。拘束の理由は明らかになっておらず、中国のカントリーリスクの大きさがあらためて表面化したことに、日本企業の間で再び動揺が広がっている。現下のような不安定な局面においては、国家間の政治的な枠組みに過度な期待を寄せるのではなく、互いの利益となる関係性を保ちながらも、冷徹な危機管理の目線を持つことが不可欠である。
在宅勤務の徹底
具体的な例を挙げていこう。まず、両国の歴史で象徴的な意味を持つ特定の出来事、つまり7月7日の盧溝橋事件、8月15日の終戦記念日、9月18日の満州事変、12月13日の南京事件といった日程においては、現地社員やその帯同家族の身の安全を最優先に考え、完全な在宅勤務を徹底する仕組みを導入することが重要となる。これらの期日は、中国国内のナショナリズムの過熱やマスメディアの報道の論調によって、突発的な摩擦や予期せぬアクシデントが誘発されやすい環境にあることは否定できない。
特に、社会的な不満を抱く若年層が、インターネットやSNSで反日的なイデオロギーに染まり、日本権益を標的とするリスクが考えられる。物理的な通勤を極力ストップし、自宅勤務などへと切り替えることは、現地駐在員をリスクから隔離するだけでなく、現地コミュニティとの無用な摩擦を未然に防ぐ配慮としても極めて有効に機能する。
駐在員の「スリム化」
また、地政学的リスクが常態化する中、現地に派遣する日本人駐在員の数を必要最低限に絞り込むスリム化は、企業の危機管理において極めて有効な防衛策となる。有事の際、多くの駐在員やその家族を迅速に避難させるコストと安全確保のハードルは、組織の規模が大きくなるほど高まる。政治的緊張が物理的な危険へと直結しかねない現状においては、現地拠点のトップや中核を担うコア人材を優先的に配置し、一般社員の駐在を極力避けるなど、駐在員依存からの脱却を進めるべきだろう。
このスリム化を成功させる鍵は、現地採用の中国人スタッフへの権限移譲(ローカル化)と、意思決定プロセスのデジタル化にある。平時から現地スタッフが主体的に経営や業務を回せる体制を構築しておけば、駐在員の安全リスクを低減できるだけでなく、不測の事態によって日本人が一時帰国を余儀なくされた場合でも、現地の事業運営をストップさせないレジリエンス(事業継続能力)が確保できる。日中関係の冷え込みを前提とした人員配置の最適化は、有事の人的被害を最小限に抑えつつ、持続可能なビジネスモデルを維持するための不可欠な経営戦略と言える。
デジタル防衛強化でレジリエンスが飛躍的に向上
また、歴史問題などセンシティブな記念日には、サイバー空間におけるハッキングや攻撃のリスクが跳ね上がる懸念も無視できない。そのため、組織全体のリスク管理を警戒モードへとシフトさせることは、企業のデジタル資産を守る防壁として機能させるために極めて重要だ。工場の生産ラインなど、業務の性質上どうしても完全なテレワークが適用できない現場であっても、前もって稼働日をシフトさせるなどの調整を行い、警戒レベルを引き上げる社内規定を定着させておくことで、企業としてのレジリエンスは飛躍的に高まる。
これからの日中ビジネスを展望するに当たり、必要以上の猜疑心にかられて事業を縮小させるのは決して得策ではない。しかし、現場レベルでのセキュリティ対策や防犯への投資を惜しむことは、企業の社会的責任を放棄することと同義である。企業が主体的なガバナンスとして、駐在員の適正化と記念日のテレワーク徹底などを推し進めることは、不透明感が増す日中関係の荒波を生き抜く上で戦略的に重要となろう。
(了)








