帝国データが企業対象調査、トップは6年連続で自然災害
帝国データバンク(TDB)は6月14日、企業の事業継続計画(BCP)に関する見解の調査結果を公表した。
BCPを策定している企業は17.1%で、前年の調査時からほぼ横ばい。大規模災害の頻発や感染症などBCPが必要とされる事態が相次いでいるにもかかわらず、企業の間で意識がそれほど高まっていないことをうかがわせた。
策定していない企業に理由を聞くと、必要なスキルやノウハウの不足、人材確保の難しさなどが目立った。
また、策定を意向している企業に事業継続が困難になると想定するリスクの内容を尋ねたところ、「自然災害」が7割に達し、トップを占めた。前年調査時より感染症は割合が大きく低下した一方、情報セキュリティや物流の混乱といった項目を選んだ割合が高まった。
調査は今年5月18~31日、全国2万5141社を対象に実施、1万1605社から有効回答を得た。回答率は46.2%だった。BCPに関する調査は2016年以降、毎年実施しており、今年が7回目。
BCPの策定状況(以下、いずれもTDB提供)
自社のBCP策定状況は「策定している」企業が17.7%で、前年(2021年5月)から0.1ポイントと小幅の増加にとどまった。また、BCPに対して策定意向がある(「策定している」「現在、策定中」「策定を検討している」の合計)と表明する企業は49.9%(前年比0.3ポイント増)だった。「策定していない」企業は42.1%(同0.4ポイント減)。
BCP策定率(大企業・中小企業の推移)
企業がBCPを策定している割合を規模別で見ると、2022年は「大企業」が33.7%(同1.7ポイント増)、「中小企業」が14.7%(同横ばい)。「大企業」はBCP策定率が年々上昇している一方、「中小企業」は低位にとどまっている。
さらに、「中小企業」でBCPを「策定していない」企業は45.5%、特に「中小企業」のうち「小規模企業」は54.7%と半数を超えた。
中小企業からは「BCPの策定は必要だと思うが、中小企業で社員数の少ない企業では代替要員の確保が難しい。提携工場などとの連携でのBCPとならざるを得ない」(米麦卸売、福岡県)、「中小企業にとってBCPの策定は、人員・コスト面からもハードルが高い」(一般管工事、石川県)など、策定するための人員、費用の不足が要因として挙がった。
事業中断リスクに備えた対応(複数回答)
BCPを『策定意向あり』とする企業に対して、どのようなリスクによって事業の継続が困難になると想定しているか確認した結果、地震や風水害、噴火などの「自然災害」が71.0%で、2017年から6年連続で最も高かった(複数回答、以下同)。
前年との比較では、新型コロナウイルスなど「感染症」(53.5%、前年比6.9ポイント減)が低下した一方、「情報セキュリティ上のリスク」(39.6%、同6.7ポイント増)、「物流の混乱」(30.4%、同5.0ポイント増)、「戦争やテロ」(19.0%、同6.0ポイント増)が大幅に上昇した。
特に「情報セキュリティ上のリスク」は『金融』(68.6%)や『サービス』(54.4%)で、「物流の混乱」は『卸売』(40.3%)、『運輸・倉庫』(40.1%)などでそれぞれ高い傾向が見られた。
【想定するリスクに関する企業の声】
・「特にサイバー攻撃に関しては、対策を考えていきたい」(専門サービス、東京都)
・「備蓄在庫を持とうにも資材高騰、資材不足で非常に難しい」(木造建築工事、長野県)
・「策定した当初は自然災害を想定していたが、近時は半導体不足や木材の値上がり、物流の混乱などリスクがどんどん増えている」(時計・同部分品製造、富山県)
事業継続が困難になると想定しているリスク(複数回答)
BCPを『策定意向あり』とする企業に事業が中断するリスクに備えて実施あるいは検討している内容を尋ねたところ、「従業員の安否確認手段の整備」が66.6%で最も高く、同様の設問を尋ねている2017年から6年連続で首位を占めた(複数回答、以下同)。
想定するリスクとして「情報セキュリティ上のリスク」が前年から上昇したのと同様に、リスクへの備えも「情報システムのバックアップ」(58.7%、同3.3ポイント増)がアップ。また、「調達先・仕入先の分散」(38.1%、同3.0ポイント増)、「予備在庫の確保」(15.1%、同1.6ポイント増)など、サプライチェーンの安定に資する取り組みも前年から上昇している。
「従業員の安否確認手段の整備」(66.6%)、「緊急時の指揮・命令系統の構築」(43.9%)といった、従業員や設備などの経営資源を守るための取り組みは、多くの企業で実施・検討されていた。
一方、「代替生産先・仕入先・業務委託先・販売場所の確保」(19.0%)、「物流手段の複数化」(13.5%)、「代替要員の事前育成、確保」(12.7%)など、経営資源が不足する場合は代替する取り組みは低い割合にとどまっている。
【事業中断リスクに備えた実施・検討内容に関する企業の声】
・「新型コロナウイルスで対処したソーシャルディスタンスや時差出勤、在宅、リモートワークから端を発し、リスク分散やランサムウェアなどの問題に対するサーバーバックアップ体制などが、ここ2年でBCP構築という方向につながっている」(貸事務所、愛知県)
・「自社およびグループ会社でのリスクの明確化と、グループ間やサプライチェーンでのボトルネックを確認している」(自動車製造、静岡県)
・「資料の見える化、全員共有をしている。事務所に居なくともタブレット端末にて報告可能で、自宅PCにて対応可能なシステムを開発した。業務内容を全員が把握することにより、経緯が解り、担当部署でなくても連携が取れている。さらに、参加しやすく発言しやすいシステムを使うことにより、意見が言える会社作りを推進、実行している」(建築工事、群馬県)
BCPを「策定している」企業に対して、策定による効果を尋ねたところ、「従業員のリスクに対する意識が向上した」が53.7%でトップとなった(複数回答、以下同)。次いで、「業務の定型化・マニュアル化が進んだ」(31.8%)、「事業の優先順位が明確になった」(30.9%)が3割台で続いた。この2項目は昨年から順位が入れ替わっている。
企業からは「BCPの策定で、発生した自然災害や、新型コロナウイルスによる対面商談の制限などに対して、対応がスムーズにできた」(文房具・事務用品卸売、千葉県)といった声が聞かれた。
また、「取引先から一層の信頼を得て、安定運営ができている」(園芸サービス、東京都)など、「取引先からの信頼が高まった」(21.0%)も2割超となり、企業の見られ方に関しメリットを実感する声も見られた。
BCP策定の効果(複数回答)
BCPについて「策定していない」企業にその理由を尋ねたところ、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が42.7%で最も高かった(複数回答、以下同)。同様の設問を尋ねている17年調査から6年連続でトップだった。次いで、「策定する人材を確保できない」(31.1%)や「書類作りで終わってしまい、実践的に使える計画にすることが難しい」(26.1%)といった項目が続いた。
策定していない企業の回答では「策定にかかる合理的な時間、費用(人件費)の想定や確保が困難である」(酒類卸売、北海道)や「現実的にリスクをどこまで考えればよいか分からない」(新車の自動車小売、青森県)など、BCPの策定に難しさを感じている声が多い。
BCPを策定していない理由(複数回答)
また、中小企業では「自社のみ策定しても効果が期待できない」が大企業と比べ6.0ポイント、「必要性を感じない」も大企業と比べ4.8ポイント高かった。中小企業からは「事業のほぼ7割が下請であり、当社のみで事業計画を作成することが難しい」(内装工事、東京都)、「仕入先メーカーの製造状況に左右されるため、当社独自のBCPを策定する必要性を感じていない」(室内装飾繊維品卸売、長崎県)といった声が聞かれた。
TDBは「代替要員の事前育成、確保」は12.7%で、8社に1社程度にとどまっていると指摘。「代替要員を育成するため業務の見える化、マニュアル化といった取り組みを企業として推進し、業務の属人化を解消していくことも、企業の事業継続にとって重要となる」との見方を示した。
(藤原秀行)