「コスト可視化で適正な運賃・料金の実現に貢献したい」
粘着ラベルなどの世界的メーカー、米Avery Dennison(エイブリィデニソン)でUHF帯RFIDを使ったソリューションを手掛ける部門Avery Dennison Smartrac(エイブリィデニソンスマートラック)の三井朱音マーケットデベロップメントディレクターはこのほど、ロジビズ・オンラインのインタビューに応じた。
エイブリィデニソンスマートラックはUHF帯RFIDで世界トップのシェアを誇り、世界50カ国以上で事業展開している。三井氏はRFIDを活用して荷物を届ける際の走行距離など多様な情報を収集することで物流のコストが具体的にどの程度発生しているのか可視化できるようになり、運賃・料金の適正化を荷主や元請け物流事業者と交渉する上で根拠として生かせると指摘。収益を確保して給与引き上げの原資を確保できるよう後押しし、トラックドライバー不足の解決に貢献していきたいとの思いを語った。
前編に続いてインタビュー内容を紹介する。
取材に応じる三井氏
「料金変動制」の実現も可能に
――RFIDをトレーサビリティに活用するという点では、かなり御社の取り組みは進んでいるのでしょうか。
「当社は2021年に独自のデジタルプラットフォーム『atma.io(アトマアイオー)』を日本国内でも本格的にローンチさせました。これは原材料の調達から生産、消費、リサイクルに至るまで商品を追跡できるのが特徴です。あらゆる物に固有のデジタルIDを割り当て、クラウド上で管理し、トレーサビリティを確保します。atmaはサンスクリット語で『魂』を意味しており、固有のデジタルIDが製品のライフサイクル全体を通じて一貫性を保つ魂になる、というわれわれのビジョンを表しているんです。スポーツメーカーのアディダスをはじめ、世界のアパレルのトップメーカーなど多くの企業がデジタルプラットフォームを利用しています。まさに、atma.ioを通じてそれぞれの商品がたどってきた『プロダクトジャーニー(旅程)』を見ることができると言えるでしょう」
「例えば、atma.ioを活用することで、消費者がスマートフォンでみかんジュースの容器に貼られているRFIDのタグをスキャンすれば、ジュース1本1本がどういうふうに店舗まで届けられたかといったことに加え、ジュースに使われているみかんそのものがどの農場で育てられ、どこで加工されたかまでが分かるようになります。トレーサビリティが進化すれば、消費者が商品を購入する際、価格や素材のほかに、環境への配慮も加味して検討できるようになります。これはわれわれが新たな購入体験を消費者にご提供できるということです」
――このデジタルプラットフォームは物流にも何かしらの形で活用できそうですね。
「22年にはatma.ioの新機能として、企業がサプライチェーン全体を通してCO2排出量を検証したり、サプライチェーン全体の異常値や非効率性を分析して商品の紛失を最小限に抑えたりできるようにしました。日本では現状、小売業や食品メーカーなどがメーンのターゲットですが、物流業界の方のお役に立つこともできる可能性はあると思います」
――新しい取り組みで言えば、昨年5月、東京の虎ノ門に御社として日本では初めてとなるラボ「Avery Dennison Smartrac Toranomon Lab.」を開設しました。ラボと銘打っていますが、この施設はどのような役割を果たしていくのでしょうか。
「単に製品をデモするだけではなく、お客様とディスカッションして、現場で抱えておられる課題を特定し、その解決のため、実際に様々なソリューションをトライしてみる施設と位置付けています。日本では残念ながら、物流企業でわれわれの製品を購入されて、実際に運用されているところはまだありませんが、複数の物流企業がご関心を持たれ、どのように課題解決に役立てられるのかディスカッションさせていただいています。このラボを活用しながら、RFIDの有効性を日本の物流業界の方々にも広く訴えていきたい。ラボを拠点にしてセミナーを開催し、物流業界の方々に情報発信していくことにもトライしたいですね」
東京・虎ノ門のラボの内部。独特のセンスを生かした内装が目を引く(エイブリィデニソンジャパン提供)
――RFIDが物流領域で普及していくことに強い期待を示されています。前編でも、バーコードの代替で効率化に使うだけがRFIDの本当の価値ではないとおっしゃっていましたが、具体的にどのような新しい価値を提供できると考えていますか。
「工数削減に加えて、リアルタイムでデータを取得できる点ですね。いかに有効にリソースを使うかを考えた時に、もう紙の書類では管理が難しい時代になってきています。例えば、物流現場で荷積み・荷降ろしの際に使うかご車がある特定のエリアや拠点に偏在してしまうと、有効活用できなくなってしまいます。RFIDを活用し、かご車がどこにどれだけあるのかを、担当者が紙の書類で確認しなくてもリアルタイムで把握できるようになれば、リソースの偏在を解消することにつなげられるでしょう」
「もう1つは、トラックドライバー不足の解消に貢献できるということです。物流業界は今、人手不足の対応として運賃・料金を適正化し、事業者が収益を上げて原資を確保、給与水準を高めていき、若い人たちが集まる職場にしていくことが強く求められています。しかし、現状ではそもそも、この荷物を運んだのにどれだけコストがかかったのか詳細なデータをほとんど誰も持っておらず、運賃・料金が今果たして適正なのかが分かりません」
「そこをRFIDで様々な情報を収集、分析できるようにすれば、荷量のピーク時に1個当たりどれくらいのコストを費やして運んでいるのかが可視化されます。荷主企業や元請け運送事業者と運賃・料金の値上げ交渉をする際、実際にこれくらいコストを要しているので、これくらいにしてほしいと明確に主張できるようになります。そうしたことが続けば、事業者の利益をアップさせ、給与水準も引き上げる方向につなげていけるのではないでしょうか。データをリアルタイムで取得できるようになれば、需要の度合いに応じて運賃や料金を変える『ダイナミックプライシング(料金変動制)』が物流の世界でもいずれは当たり前の存在になっていくかもしれません」
――政府もインターネットの世界の在り方を参考に、トラックなどの輸送手段や倉庫を共有し、物流領域全体で効率化を図る「フィジカルインターネット」を実現しようとしています。その中では関係者間で様々な物流データを共有することも打ち出しています。RFIDにとっては追い風になりそうですか。
「おっしゃる通りです。ただ、そもそもの問題として誰がタグを貼るのか、取得したデータは誰のものなのか、そのデータを束ねて共有するのは誰なのか、といった課題があります。RFIDを活用する上で誰がトリガーを引いて、取り組みをリードしていくのかはしっかりと考える必要があるでしょう。RFIDで集めたデータで輸送の実態が明らかになれば、消費者や荷主の意識が変わり、物流の価値を再考していただけるようになり、物流事業者の現場負担も減らしていくことが期待できます」
(藤原秀行)