深刻な企業統治欠如が招いた最悪の事態、影響見通せず
全国の郵便局でずさんな点呼業務が横行していた問題は、国土交通省が6月中にも日本郵便の一般貨物自動車運送事業の許可を取り消すという前代未聞の事態を迎える見通しとなった。同社が事業のために保有しているトラックやワンボックスカーなど約2500台の車両は5年間使えなくなり、事業体制に一定の影響が出るのが確実だ。
ただ、今回の行政処分は貨物自動車運送事業法で許可制となっているトラックなどの事業が対象で、宅配荷物などを取り扱う軽トラックや軽バン約3万2000台による事業は届出制のため対象に含まれない。国交省は軽トラックや軽バンについても監査を継続しており、点呼業務に深刻な問題があると認めれば、車両使用停止といった行政処分に踏み切る可能性が濃厚だ。そうなれば「ゆうパック」の配達に支障が出ることが避けられない。
郵便物の取り扱いが縮小の一途をたどる中、宅配は今後も需要が見込める領域だが、処分の程度によっては宅配事業の在り方の見直しにまで発展しかねない。ただ、影響がどの程度になるのかはまだ見通せないのが実情だ。
日本郵便の社内調査では法定の点呼業務を行わなかったにも関わらず、記録上は行ったように偽るなど全国の郵便局で悪質な事例が多く見られた。同社の調査結果によれば、業務を担う現場の担当者から「周囲もやっていないから、自分もやらなくていい」「点呼は面倒だから管理者がいるときのみやっていた」「業務繁忙の時は行わなかった」など、企業統治の深刻な欠陥をうかがわせる声が出ており、そうした状況が最悪の事態を招いた。同社は今後、点呼業務という運送事業の“基本動作”を確実に行うためにどうするのか、具体的な対策を早急に示すことが強く求められている。
軽車両による事業への処分が次の焦点となる
6月5日の東京証券取引所では、日本郵便の事業許可取り消しのニュースが伝わったのを受け、親会社の日本郵政は株価が終値で前日から67円安い1340円まで下落。その一方、SGホールディングスは53円高の1485円、セイノーホールディングスも53円高の2218円となるなど、陸運株に買いが入った。SGHDやセイノーHDは日本郵便と協力している領域があるため、事業許可取り消しによって日本郵便からの業務委託が増えるとの思惑が投資家の間で広がったとみられる。
実際、事業許可取り消しとなれば、日本郵便は協力関係にある同業他社や自社グループ企業、協力運送会社への委託で乗り切ろうとする公算が大きい。今回の行政処分は日本郵便のグループ企業や協力運送会社まで広く及ぶことは想定されていないため、物流業界内でも現時点では「運送業務自体は大きく混乱することはないのではないか」との冷静な見方が支配的だ。ただ、今回の日本郵便の失態により、国交省が点呼業務をめぐる規制を一段と強化する端緒となる可能性があり、物流業界にとっては逆風だ。
業務の委託が増えれば当然費用が増え、日本郵便の収益を圧迫することが避けられない。さらに、日本郵便は再発防止策として、IT機器を活用した遠隔点呼や専用機器による自動点呼の導入などを打ち出しており、設備投資も重荷となりそうだ。
(藤原秀行)