第40回:日中関係は緊張はらみつつ「冷たい平和」が続く
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。
高市首相のリアリズム外交
既に広く知られている通り、昨年秋に高市早苗首相が国会で台湾有事は日本の存立危機事態に該当し得ると発言したことで、日中関係は大きく後退している。しかし、それから半年が経過した現在、事態は破局に向かうのではなく、互いに一定の距離を保ちながら冷徹に相手を観察するという、冷たい平和と表現できるような状況にある。
この間、高市首相が見せたのは、安保面での強硬な姿勢と、決定的な決裂を回避する高度な戦略的自制を組み合わせたリアリズム外交である。就任前のタカ派的な言動から、中国側は日中関係がこれまでになく悪化すると身構えていただろうが、実際の政権運営は驚くほど計算高い。同盟国や同志国との結束を強固にする一方で、外交の公式な場では中国を過剰に挑発する言動を周到に封印している。
そこには、経済的な相互依存が依然として深い現状を鑑み、関係の完全な崩壊が日本経済に致命傷を与える事態を避けようとする、極めて冷徹な実利主義が透けて見える。
中国側の対応もまた、高市政権の出方を探る慎重なものに終始している。台湾問題という譲れない核心的利益に対する日本側の言及には強い拒絶反応を示しているものの、内政に深刻な経済的課題を抱える中国にとって、日本との経済的なつながりを一方的に断絶することは、自らの首を絞めるに等しい側面がある。
その結果、高官級の対話チャネルこそ維持されているが、そこに融和的な空気は存在しない。交わされるのはあくまで実務的かつ事務的なやり取りのみであり、歩み寄りの姿勢を見せない「冷たい平和」が常態化している。こうした現実を考慮すれば、日中関係が近い将来に劇的に好転するシナリオは極めて描きにくい。高市政権が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」や、半導体等の戦略物資における脱中国依存(サプライチェーンの再構築)は、中国の国家戦略と構造的に激突せざるを得ないからだ。
さらに領土や歴史認識といった難題も手付かずのままであり、両国間に蓄積された不信感の地層はあまりに厚い。日本側にとって中国は、対話の窓口は閉じないものの、安保上は最大級の警戒を払うべき相手という位置付けで固定されている。
この政治的な寒冷前線は、経済界にも確実な構造変化を強いている。かつての「チャイナ・プラス・ワン」というリスク分散の段階を越え、今や日系企業は、経済的なつながりを維持しながら過度な依存やリスクを低減する戦略「デリスキング」の名の下に、中国市場への過度な依存を修正し、供給網の抜本的な組み換えを急いでいる。
中国市場の規模は依然として巨大だが、有事のリスクが不確実性から現実的な懸念へと変わったこと、さらには反スパイ法の施行に代表される不透明な法治状況への不安の高まりが、経営層に中国投資のブレーキを踏ませている。政府が進める経済安全保障政策もこの傾向を強力にバックアップしており、とりわけ先端技術分野でのデカップリング(切り離し)が進んでいる。
今後の展望として、この緊張をはらんだままの安定、すなわち冷たい平和が長期にわたって継続する可能性は高い。日本側は日米同盟を主軸とした抑止力の強化によって中国を牽制しつつ、偶発的な衝突を未然に防ぐための危機管理体制を粘り強く構築していくことになる。一方の中国も、日本の軍備拡張を激しく難詰しながらも、自国の経済発展に不可欠な分野では実利的な協力を拒まないという、極めてしたたかな二面性を保ち続けるだろう。
総じて、高市政権発足からの半年間が証明したのは、価値観の対立を抱えつつも、互いに安保と経済の損得勘定を冷酷に弾き合う両国の姿である。台湾有事に関する発言という劇薬を経て、日中は互いの越えてはならない一線を再認識し、衝突を避けながらも決して妥協はしないという戦略的静観の時代へと足を踏み入れた。今後も両国の距離が大幅に縮まることはなく、この冷え切った関係こそが、これからの日中におけるスタンダードであり続けるシナリオを日本企業は想定しておく必要がある。
(了)










