【現地取材】日本スタートアップ大賞獲得のMujin・滝野CEO、フィジカルAIで物流現場の変革に自信

【現地取材】日本スタートアップ大賞獲得のMujin・滝野CEO、フィジカルAIで物流現場の変革に自信

「世界中の現場支えるインフラに」、グローバル市場開拓に挑戦と表明

経済産業省は9月25日、社会課題の解決や新産業の創出に挑むスタートアップを表彰する「日本スタートアップ大賞2026」の受賞企業を決定した。AIが物流業や製造業の現場で使うロボットなど実体(フィジカル)を持つハードウェアを自律的に制御する技術「フィジカルAI」の開発を手掛けるMujinが、最高賞の大賞(内閣総理大臣賞)を受賞した。

Mujinは同日、首相官邸で開かれた表彰式で同社の滝野一征CEO兼共同創業者が語ったコメントを公表した。滝野氏は「最高栄誉である『内閣総理大臣賞』を拝受し、身の引き締まる思いです。今回の受賞は、私たちが徹頭徹尾貫いてきた『現場主義』と、世界的ロボット工学者である共同創業者のデアンコウ・ロセン博士をはじめとするチームの泥臭い努力が、公共のインフラとして評価されたものと受け止めております」と謝意を述べた。



さらに、「政府が掲げる『フィジカルAI元年』の10兆円という巨大な国家意志を追い風に、私たちは国内外のパートナー大企業、そしてグローバルな投資家の皆様とともに、これから本格化する世界市場の開拓へ謙虚かつ大胆に挑みます。日本発のディープテックが世界中の物流現場を支えるインフラとなるよう、一歩一歩、確実な実績を積み重ねてまいります」と決意を表明した。

滝野氏は併せて、受賞に際して9月25日、報道各社の取材に応じた。この中で、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに対し、フィジカルAIを駆使することで物流の荷役はロボットが担い、人間が作業の進捗や生産性を的確に管理する産業に変革していくことが可能になると意義を強調。企業の収益力強化で物流業の給与向上など待遇改善にもつなげられると自信をのぞかせた。


表彰式で高市早苗首相から賞状を受け取った滝野氏(Mujin提供)


Mujinのピースピッキング・ロボット。フィジカルAIで制御することで、サイズも形状も異なる多種多様な物品を、ロボット自身が見分けて、アームの動きを考えてつかみ取ることができる(同社ホームページより引用)

日本スタートアップ大賞は2014年、日本ベンチャー大賞としてスタート。22年に政府が「スタートアップ育成5か年計画」を策定したのに伴い、現在の名称に変更した。次世代のロールモデルとなるインパクトを備えた新事業を創出したスタートアップを表彰することで、社会全体の起業に対する意識を高揚させることを目的としている。

10回目の今年は、応募件数が前年比1.4倍に増加した。業種別では「AI・制御」が46件で最多、次いで「環境・エネルギー・社会」、「医工・バイオ」が多く、さらに人手不足、食料自給、海洋・宇宙の利活用、国産AIの確立など国家的課題に直結する事業も目立った。



大賞を受賞したMujinは2011年に発足した。経産省は受賞理由として、50年間実用化が不可能とされてきた、ロボット自身がスタートからゴールまでの動きを自動で組み立てる技術「モーションプランニング」の実装に世界で初めて成功し、独自のフィジカルAI「MujinMI(Machine Intelligence、マシン・インテリジェンス=機械知能)を開発したことを挙げている。

あらかじめ動きを教え込む必要のあった従来型ロボットに対し、Mujinの技術はロボット自身が現実環境をリアルタイムで認識して動作を計画・実行するため、荷姿や品種が絶えず変わる現場でも自動化できる点がメリット。

経産省は人手不足倒産が25年度に441件と過去最多を更新するなど、産業現場の人手不足深刻化が多くの弊害を生んでいる窮状の打開につながると期待。さらに、国内外で情報の世界を大きく変えた生成AIに続き、現実世界の機械を自律的に制御するフィジカルAIへの注目度が加速度的に高まっていることも踏まえ、国産のOSを世界標準として広げようというMujinの挑戦は産業競争力の観点からも意義が大きいと判断した。

Mujinによれば、滝野氏は表彰式で「今、世界の製造・物流業は、人手不足や地政学的変動により『物が作れない、運べない』という未曽有の危機に直面しています。これに対し私たちが目指す答えが、知能ロボットの共通OS『MujinOS』です。現場の状況に応じてハードウェアの最適な選択や段階的なアップグレードを支えながら、ソフトウェアの力でロボットに『脳』を与え、その能力を最大限に引き出していく。このシステムを、これからのグローバル市場におけるデファクトスタンダードへと育てていくことが、私たちの使命です」と強調した。


MujinのフィジカルAI「MujinMI」の働き。把持対象となる物品の認識、動作計画の作成、ロボットアームへの動作指示、把持動作の制御までワンストップでこなす(同社ホームページより引用)

「フィジカルAIが物流を高給職に変える」―滝野氏インタビュー

滝野氏がロジビズ・オンラインのインタビューで語った発言は以下の通り。



──フィジカルAIのパイオニアとしての実績を評価されての受賞となりました。御社の開発した人工知能は、厳密にはAI(人間の思考回路を模しているがゆえに、応用が利く半面で精度に不確実性も伴う人工知能)ではなく、MI(特定領域に限定する代わりに精度100%を追求している人工知能)だと自らホームページでも強調しています。MIは、フィジカルAIとどのような形で強みを生かし合えるのでしょうか。
「MIとフィジカルAIは、同一のものと解釈していただいて問題ありません。当社が開発に成功した当時はフィジカルAIという言葉がなかったため、一般的なAIと区別するためMIという造語で説明していたんです。AIは応用が利きますから、例えば監視カメラ映像の解析のように、何が映り込むか分からないため臨機応変の対応が求められる用途には強みを発揮しますが、その分ミスも発生します。つまり、確率論です」

「どれだけ正しく画像を認識できるか、音声を認識できるか、ユーザーの質問に正答できるかといった話題であれば、正解率99.9%というと高精度に思えますが、物流や製造の現場でロボットを制御するという文脈では、1000回の動作のうち1回は物を壊す恐れがあるという意味で受け止められるので、導入なんて論外だ、という話になるわけです」

「機械の動作制御とは、リアルの世界で人間と一緒に働くということですから、安全のために確率論でなく決定論(入力値が同じなら、何度実行しても100%同じ結果が得られること)が求められます。それがフィジカルAIであり、当社がMIと名付けたものです」


「物流を戦略的に設計できる人材には、高額の給与が支払われる時代になってきた」と語る滝野氏

──100%の精度はハードルが相当高いと思いますが、実現可能ですか。
「リアルの世界とは自然界のことですから、なぜ成功したのか、あるいは失敗したのか、原理的に分からないことが多々あります。しかし、原理が分からなくても、『こういう場合は、こうなる』という経験則は得られます。当社は創業から15年間、どのような条件の下では、どのような結果が発生するのかという現場データを蓄積してきました。そうしたデータを基に、AIとモーションプランニング(ロボットや自動運転車などが周囲の障害物を回避しながら目的地まで安全に移動するための動きを自動で計算する技術)を組み合わせたハイブリッドAIとすることで、100%の精度を実現しています」

「言い換えると、フィジカルAIとは開発に膨大な時間を要する技術ということです。巨額の資金を調達して、スピード開発で市場を制して投資を回収する従来のITの成長モデルが通用しにくい領域であり、むしろ製造業のように歳月をかけて競争力を育てていく、重厚長大産業に近い性質を備えています」

「40年前の世界では、フィジカルの産業である重厚長大産業が国の経済力を左右していました。だから日本の競争力がトップに立つことができた。その役割がバーチャルの産業であるITにシフトすると、日本は競争力が低下することになりました。しかし、バーチャルの技術が進化し過ぎた結果、今ではフィジカルが追い付かなければバーチャルが先に進めない状況が生まれています」

――フィジカルが追い付かなければバーチャルが先に進めないとは、具体的には?
「端的に示しているのが、データセンターです。バーチャル領域の業務がAIでまとめて処理できる見通しになってきた結果、IT業界の競争力は、AIの処理能力を支えられる実物のアセットをどれだけ用意できるかで決まるようになり、IT各社が先を争ってデータセンターを建設しています。つい最近までライトアセットで収益効率を高めることを売りにしていた業界が、一気にヘビーアセット型産業に変化してしまったのです」

「そして、バーチャルをリアルに転化する際、両者をつなぐのが制御技術です。ロボットの動作を制御するNC(数値制御)では日本は世界をリードしていますから、ここに(思考を制御する)フィジカルAIが加われば、次の産業のOSを日本が握ることが可能になります」

「ITによって世界が情報ネットワークでつながった結果、OSは国家の安全保障を左右するほど重要な存在になりました。現に今、WindowsやAndroidを止められたら、日々の経済活動さえ立ち行かなくなります。同じことが、今度はフィジカルAIで起きるわけです。国が成長戦略として、2040年度までに官民で合わせてフィジカルAIに10.5兆円を投資する目標を打ち出したのも、そうした時代認識があってのことでしょう。バーチャルをリアルに落とし込むには、データを集めるための現場が必要になります。多様な製造業の現場が数多く残る日本は、この面でAI大国の米国よりも有利な状況にあります」

──御社はフィジカルAIを通じて、物流業や製造業を、再び優秀な若者が集まってくる産業にするというビジョンを掲げています。物流業界が創造性と挑戦意欲にあふれた若者を惹き付ける産業になる上で、フィジカルAIはどのような役割を果たせますか。
「これまでのように荷役主体ではなく、荷役はロボットにさせ、人間がそれを管理する産業に変えていくことです。製品をどのように集め、どのように保管し、どのように配送するかといった部分を的確に管理することで、企業の収益力が大きく変わる時代になっています。サプライチェーンマネジメント(SCM)という名称で呼ばれることも増えてきました。企業が物流に見出す価値も変化してきています」

「EC大手は端的な例ですが、物流を戦略的に設計する能力を持つ人材に、高額な給与を支払う企業が増えています。商品を当日中に届けられるか、翌日になってしまうかが競争力に関わってきますから。その一方で、高額の給与が支払われる人材は、それに見合ったアウトプットが要求されます。1人で膨大な物品の動きをコントロールする役割です。それには物流現場を高度に自動化し、管理できなければなりません。フィジカルAIは、そうした人材の実績を左右する次のターンの勝負ツールとなります」

「企業の収益力を高めるため、物流を戦略的に設計するには、緻密な数値判断と、高度な計算が必要になります。物流は奥深い世界です。高度なテクノロジーを使いこなせる優秀な人材ほど、挑戦意欲を掻き立てられると思います」

(石原達也)

テクノロジー/製品カテゴリの最新記事