ANAとJAL、羽田空港などと連携し航空機悪用した人身取引防止策を強化

ANAとJAL、羽田空港などと連携し航空機悪用した人身取引防止策を強化

合同研修会を初開催、デジタルサイネージで情報発信し利用者に啓発も

ANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)の両社は7月28日、航空機を悪用した人身取引の防止に向け、客室乗務員や空港旅客係員など最前線で働く社員を対象とした合同研修を初めて開催した。

アジア太平洋地域などで航空機を使った人身取引が後を絶たないことから、両社は国連が定める7月30日の「人身取引反対世界デー」に合わせ、羽田空港や成田空港などの空港運営会社とも連携し、デジタルサイネージ(電子看板)による一般の空港利用者への啓発キャンペーンも開始した。「人身取引は、見えない場所だけで起きているわけではない」とのメッセージを日本語と英語で表示し、この問題への関心を高めてもらうよう努めている。


合同研修会の様子(ANAHD提供)

人身取引は性的サービスや労働の強要など搾取を目的に、暴力などの手段を用いて対象者を獲得する犯罪行為を差す。対象者が18歳未満の場合は手段に関係なく、搾取を目的とした獲得・輸送・引き渡し・蔵匿・収受自体が該当する。

米国税関・入国管理庁の資料によると、人身取引は麻薬に次いで世界第2位の大規模な犯罪マーケットを形成しているという。

ILO(国際労働機関)が2024年3月19日付で公表した調査報告書によると、性的サービスを含む強制労働被害者数は16年の2490万人から21年には2760万人に増加。そのうち55%がアジア太平洋地域で発生している。

強制労働が生み出す違法利益は推計で年間2360億ドル(現在のレートで約45兆2640億円)に上った。14年の前回調査時から10年で規模が640億ドル()も膨らんでおり、各国の捜査機関などの努力にもかかわらず、犯罪組織の跋扈に歯止めが掛けられていない実情が浮き上がる。


人身取引による違法収益は、総額と被害者1人当たりの金額の両方で拡大している(ILOの調査報告書『Profits and poverty: The economics of forced labour』より引用)

被害者の輸送に航空機が悪用されるケースも珍しくないため、17年にはIATA(国際航空運送協会)の年次総会で問題提起がなされ、エアライン各社の間で犯罪抑止のための取り組みが広がっている。

ANAグループは18年度、エアライン向け人身取引防止プログラムを提供している米NPO団体の担当者を招いてワークショップを開催するとともに、全社員を対象としたeラーニングを開始。19年4月には、機内で疑わしい事例を発見した際の通報体制も整えた。

さらに25年度には、一般旅客も含めた周知と関係機関との連携による抑止力強化を目的に、成田国際空港内のデジタルサイネージに啓発動画を掲出するとともに、客室乗務員と警察庁担当者による直接対談を実施して助言を得るなど、取り組みを深化させている。

一方、JALグループは19年度から、人身取引の現場となり得る航空機内・空港を担当する客室本部・空港本部の社員を対象に教育を毎年実施している。また、20年度には人身取引と疑わしき事例に遭遇した際の通報要領を設定した。

「気付き」を促す環境が抑止に

今回の合同研修は、企業の垣根を超えて連携することで、さらに防止策を強化しようとする狙いがある。

第1部では、国連IOM(国際移住機関)、IATA Japan、成田国際空港会社、羽田空港のターミナルビルの管理運営などを手掛ける日本空港ビルデングといった官民のステークホルダーも参加し、人身取引の現状や航空業界に求められる役割、各団体・企業による具体的な取り組みを共有した。

第2部では、航空会社の枠を超えた混成チームを編成し、各社の取り組みや日々の業務の中で直面する違和感や気付きを基に、実際の事例を想定した具体的な対応策について意見交換した。


航空会社の枠を超えた混成チームで、情報共有と意見交換を実施(ANAHD提供)

また、ANAによる空港でのデジタルサイネージには、25年度の成田空港に加え、今回は羽田空港と中部国際空港が協力し、JALも参画して、空港に集う人々への発信を強化している。

エアライン両社や空港運営会社、国際機関が連携して大規模犯罪の防止に取り組む活動としては、貨物や手荷物に紛れ込ませての野生生物の違法取引対策が、ほぼ同時期からスタートしている。JALは沖縄で実際に違法輸送を見つけて阻止した事例が複数あり、成果も現れている。

人身取引は野生生物と異なり、家族などを装って旅客として運ばれることから明確な証拠を押さえるハードルはより高くなる傾向にある。

ANAHDの保谷智子執行役員によれば、「デジタルサイネージによる周知も含めて、『周囲の人たちが認識している』という状況自体が犯罪者にとっては『やりにくさ』につながり、一定の抑止効果を期待できる」といった共通点があるという。

JALの江尻祐子人財本部副本部長は「社内通報体制を整えて以降、客室乗務員などから疑い事例の通報が3件あった。被害者の発見や逮捕に至った事例はないが、社員が意識することで『見逃さない』環境づくりは進んでいる」と手応えを感じ取っている。


羽田空港内のデジタルサイネージ。8月末まで配信する予定。左からJAL・江尻氏、日本空港ビルデング・髙橋歩サステナビリティ推進担当役員、ANAHD・保谷氏

人身取引も野生生物違法取引も、犯罪市場に流れた金は、武装勢力やテロ組織の活動資金などに使われている公算が大きく、テロ組織による海上輸送ルートへの攻撃、サイバー攻撃、航空機テロなどは現に物流・流通にも深刻な混乱や被害を生じさせている。荷主や物流業界にとっても他人事ではないという認識を持つことが求められている。

(石原達也)

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